【国際通貨基金の先輩社員】IMFアジア太平洋地域事務所 次長:柏瀬健一郎さん
1999年から2004年まで、IMF調査局局長室でシニア・リサーチオフィサーとして、世界経済と金融市場における調査、及びG7・APEC・ASEAN 諸国の地域サーベーランスを担当。その後、ミシガン大学で博士号を取得し、米国議会予算局を経て2010年にIMFに帰任。財政局、アジア・太平洋局ミャンマーのデスクエコノミストを経て、2015年にアジア太平洋地域事務所に着任。オレゴン大学で学士号、ジョージ・ワシントン大学で修士号を取得。
メディアでその名を目にしない日はないほど、世界経済と金融市場に大きな影響力を有する国際機関が、国際通貨基金(以下、IMF)です。今回は、そんな世界経済の第一線でエコノミストとして活躍し、現在はIMFアジア太平洋地域事務所でマネジメント業務に携わる、柏瀬健一郎さんにお話を伺いました。IMFで働くようになった経緯は? 夢を叶えるために大学時代に何をすればいい? 気になる話が満載です!
今のお仕事はどんな内容?
IMFアジア太平洋地域事務所において、スタッフの持つポテンシャルを100%発揮できるようなオフィスを作るためのマネジメント業務に携わっています。今年は、アジア地域を統括する当事務所の創設20周年にあたり、現在は11月上旬にアジア地域の駐在事務所のスタッフ全員を呼ぶ初のイベントを計画しています。ラガルド専務理事にも声をかけ、アジアの最も重要な課題についてセミナーやカンファレンスを開く予定です。
また最近では、大学生も含めたアジアの未来を背負う人たちに向けてさまざまなプロジェクトも始めています。
今、日本は「国際社会で今後どのように活躍していくのか」が問われています。人口が減少し、国力を考えてもアジアで難しいチャレンジが続く局面において、大きな課題がいくつも存在します。そこで、一人でも多くの学生のみなさんに、「活躍の場は世界中にあり、IMFも選択肢の一つ」であることをお伝えしたいです。
一番楽しかった&つらかった仕事は?
IMFのエコノミストは、IMF加盟国に派遣されてさまざまな経済問題に対してコンサルテーションを行います。まず、担当国のデータを集めて分析し、状況を把握。当局と会話を重ねながら、その国について理解を深めていきます。そのうえで、その国が今後どのような政策をとるべきかを分析し、必要とされる政策を当局に働きかけます。そうした一連の事項をIMFの見解としてレポートにまとめることが、エコノミストとしてやりがいのある、醍醐味とも言える仕事ですね。大学で学んだ理論を実際の経済で実践することにはとても刺激があり、担当国の今後の進路や発展に携われることは、責任も大きいですがとても楽しい仕事です。
逆に仕事で難しいと思ったのは、エコノミストとしての能力だけでなく、相手の国の制度や文化などを尊重する能力が問われる点ですね。これは、当局と「信頼関係」を構築するという課題とも言えます。なぜなら、信頼を得ることができなければ、分析に必要な全てのデータを入手できない可能性があるからです。また、相手国は、時間と人員を使ってそれらのデータをまとめるわけですから、お互いの信頼関係がなければいい仕事にはなりません。
そのため、私たちの仕事には、信頼を得られるコミュニケーション力や、「この人と話をしたい」と思われる“人間力"が必要とされます。さらに、流動的な政治動向を読まなければならないし、交渉能力も必要です。いわゆる学力だけでは、成り立たない仕事だと思います。
今の会社を選んだ理由は?
大学で学ぶ中で、経済学という学問に魅せられたからです。データを分析し、「需要と供給」という2つの要素で社会のさまざまなことを説明できることに、「これはおもしろい、もっと勉強したい」と思い、途中で専攻を変えたほどです。特に、マクロ経済や国際金融に興味を覚え、やがてIMFで働きたいと思うようになりました。そして国際機関で働くために、大学院で勉強することを決めたのです。
私は自分の夢を叶えるために、「時」「場所」「出会い」という3つの要素が必要だと考えています。当時、ワシントンDC近郊内で唯一経済学の修士号を取得できたジョージ・ワシントン大学に進みました。この大学がIMFや世界銀行と隣接していることや、ワシントンD.C.がインターンシップも盛んに行われている土地柄ということもあり、そこで現役のIMF職員を含め多くの出会いがありました。
大学生のみなさんが留学先を選ぶ際、単純にランキングトップ校から選ぶ方も多いと思いますが、私は、この「時」「場所」「出会い」の3つの要素から考えることをおすすめします。「自分はいつどこへ行き、どのような人たちに出会い、何をしなければならないのか」を考えて選択するのです。これは留学だけに限らず、将来の選択にあたって考えるべき要素だと考えています。