ピンチはチャンス!日本の物流問題を逆手にとって急成長中 ー ア・プロの挑戦 - 【連載『モノを運ぶ仕事最前線』第1回】
物流は人手不足で人気がない業界、というイメージはもう古いかもしれません。倉庫では最新のロボットが働き、ドライブレコーダーが事故を防ぎ、AIが人事評価を行うなど、先進的な企業は既に「IT企業」と言えるまでに成長しています。
そんな「モノを運ぶ仕事最前線」の第1回は、AIで教育した外国人人材を日本の物流企業に紹介、ドラレコで評価するシステムまで提供する株式会社ア・プロです。
困りごとはチャンス、「元世界一」が立ち上がる
「車両はあるのに、動かせるドライバーがいない」――。そんな人手不足を解消するため、政府が外国人ドライバーの受け入れを決めたのは2024年(令和6年)3月のこと。「自動車運送業(トラック・バス・タクシー)」で働く外国人に在留資格を与え、向こう5年間で最大2万4500人の受け入れ枠を設定しました。これを受け、西濃運輸等の業界大手は、さっそく外国人ドライバーの採用・指導をスタートさせています。
しかし、中堅企業や地元の運送会社がいざ検討を始めると、「運転免許はどうするの?」「言葉の壁は?」「ビザや住居の手配は?」など、自社だけではどうしようもない問題にぶつかります。
こうした業界の悩みをAIなどの最新技術で解決するのがア・プロです。起業したのは高山辰夫社長。昔、電気機器の販売会社に勤めて売上額世界一に輝いたこともある敏腕ビジネスパーソンです。彼が面白いことを言います。
「私は常に困りごとを探しています。誰かが困っているということは、大チャンスなんです。なぜって、それを解決して喜んでもらうのが『ビジネス』であり『仕事』だからです」
数年前、高山さんはAIを使って語学教育を行う企業にヘッドハンティングされ、営業担当の取締役になり、日本人が英語を学ぶための教材や、それを採点するシステムの販売担当役員になりました。そんな中、高山さんは「運送業も外国人を受け入れる」というニュースを見て、こう考えました。
「そんなに人手不足なら、外国の方々に日本語を教えるシステムをAIで作って、人材教育をして、日本企業に紹介すればみんな喜んでくれるよね、と。また、『日本語教育も変えたい』と考えました。既存の日本語教育は、試験でいい点をとるために行われがちでしたが、仕事で使える言葉を中心に教えれば導入企業も助かるはずです」
高山さんにはモットーがありました。「考えるより、動いてみよう!」というものです。彼は知人を頼って運送会社の人やIT関連の人に話を聞き、夜になると物流倉庫や運送会社でアルバイトをして現場を見てきました。
「ほぼ寝ずに働きずめだったので、もうフラフラでしたよ(笑)。でも情報収集をした甲斐はありました。外国人ドライバーを雇用してもOK、という制度ができても、運送会社さん単独ではとても無理とわかったんです」

ドラレコが「えこひいきのない上司」に
まずは免許の取得が難しい。外国で取得した運転免許を日本の免許に切り替えるのは非常に難易度が高いのです。一方、日本の自動車教習所の多くは、今まで「教材がない」「外国語で教えられる教官がいない」と外国人の受け入れに消極的でした。
そこで高山さんは、教習所を運営しつつ全国の合宿教習所を紹介している『ナンバメイト』という会社と業務提携し、全国の教習所が安心して外国人の方たちを受け入れ、免許取得までサポートできる体制を構築しました。
外国の大学も訪ねました。インドネシアやスリランカでは今も人口が増えていて、大学側も、学生に日本の就職先をあっせんできるのは大助かりのようでした。同時に高山さんは、日本での就業を希望する若い人にAIで語学教育を行い、日本語能力のテスト勉強ができるプログラムを開発、将来就業する会社の規則や業務の流れも教えられるようにしました。
日本語を学ぶ外国人の皆さん。日本語能力が低いうちは日本企業に紹介しないのだそう。
なかでも特徴的なのは、EQ(心の知能指数)教育も行うこと。入国前に日本のビジネスマナー、日本人の考え方、仕事への向き合い方などのプラベートレッスンを約3ヶ月間、60回以上実施し、出席率が80%以下の人は採用を取り消すなど、厳しい管理をしていると言います。
「でもこれ、来日する外国人の方のためなんです。海外には、現地の若者を集めて、パスポートやビザを取得して日本に送り込む、『送り出し機関』というものがあります。そういった会社の中には『一日でも早く、一人でも多く』と考え、本人の幸せなど全く考えず、日本語もほぼ話せない、日本の文化も知らない状態で送り出すところがあります。働く人も問題で『一日でも早く稼ぎたい』と、受入企業への帰属意識も、日本社会に馴染んで貢献したいという思いもないまま来る人がいます。さらに、日本の人材紹介会社も『今、ドライバーを紹介すれば高額の手数料がとれる』と一攫千金を考えているところが多い。これで人が幸せになれますか?」
働く側に「自分は成長している」「会社や社会が自分を大切にしてくれている」といった思いがなければ、雇用側も働く側も不幸になるはずだ。
「そこで私は、しっかり時間をかけ、来日する外国人の方たちのコミュニケーションスキルも高めようと思ったんです。外国の方が日本を知り、日本を好きになってきてくれた方が、企業も、働く仲間も、私たちも、みんなWin-Winになりますよね」
また高山さんは、日本の企業が困りそうなこともすべて事前に何とかしておこうと考えました。例えば家具家電付き住居の手配、外国人の生活・定着のサポート、業務マニュアルのAI多言語翻訳など、あったほうがいいものをどんどんサービスに組み込んでいきます。その中には、AIがドライバーの運転を評価するシステムもありました。
「外国の方は、給与のこともあけすけに話す人が多いんです。すると『なぜ俺の給料は彼より少ないんだ?』となります。そこで閃いたのがドライブレコーダーを活用して客観的な人事評価を行うシステムを提供することでした。最近は、物流トラックのドラレコの約半数にAIが搭載されていて、急発進や急ブレーキなど、ヒヤッとする場面を自動的に記録しています。そのデータを活用すれば、上司はドライバーに『彼はこういう運転をしているから給料が高いんだ』と安全運転を促せますし、日々、『ここで安全確認が足りませんでしたね』と指導もできます」
これらの進化の期間はわずか1年程度。なぜ彼はこんな速度で環境の整備ができたのでしょうか?
「すべてほかの会社とコラボしているからです。例えば、当社が提供している日本語のマニュアルをあっという間に電子化して何十か国語にも翻訳できるアプリも、ドライブレコーダーで運転を評価するシステムも、すべて他社さんのものです。私はそういった技術を見つけてきて、弊社のプラットフォームに組み込んでいます。独自技術を持つ会社の方も喜んでくれますよ」
高山さんが話を続けます。それは「さすが世界一のセールスマン」と言いたくなるものでした。
「多分、私は好奇心が強くて、人に会うのが好きなんです。TikTokなどのSNSを見て、面白そうなことをやってる人だな、と思うとすぐ連絡をして会いに行きます。ネットで『こんなすごい技術があるの?』と思うとすぐメールを送ります。連絡が返ってこなくても当たり前(笑)、返事がきたらラッキーですよね。他にも、様々な方から面白い人や技術を紹介してもらいました。これらのシステムを統合できたのは、そのためです。感謝してますよ」
業界の常識を覆すサブスクモデル
こうして、運送会社側は『何人採用したい』と言えば、日本語能力テストもクリアした人材が採用できる「外国人ドライバー育成・定着システム」が完成しました。
しかし、これだけ至れり尽くせりの内容だと、導入費用が莫大になるのでは? と思いきや、高山さんはここでも業界の常識を覆します。「初期導入費用はゼロ円です。毎月定額でお支払いいただくサブスクリプション形式にしました。企業側にとって、採用時の金銭的なリスクを減らしたかったんです」
通常、人材紹介の業界では、入社時に多額の紹介手数料(初期費用)が発生します。しかし、もしその人がすぐに辞めてしまえば、企業にとっては大きな損失になります。ア・プロは「自社の仕組みとサポートがあれば、外国人材は必ず定着する」という自信があるからこそ、あえて初期費用無料のサブスクモデルを採用したのです。
この「ノーリスクで即戦力の外国人材を迎え入れられる」という画期的な仕組みに、物流業界は大きく反応しました。現在では、人手不足に悩む地方の中小運送会社だけでなく、誰もが知る大手物流企業とも契約を結んでいます。
さらに、ア・プロは事業領域を広げていきます。
「実はホテル・旅館や飲食店でも、『質の高い外国人を採用したい』という声が大きいのです。特に介護の現場ではお困りの企業が多いようで、最近、この分野に進出しています。介護に関する知識も教育した上で招けるので、好評なんですよ」
同時に進めているのが、倉庫の仕分けや梱包作業員の紹介。「この棚からこれとこれをとってきて、段ボールに入れ、伝票を出力して発送する」といった作業は、今、作業員を単発の日雇いバイトアプリで集めるのが主流になっています。しかし毎日別の人が働きに来たら、現場の社員は毎朝同じ業務説明を繰り返さなければなりません。
「教えるだけで疲弊しますよね。そこで私は海外の大学と結んだ独自のコネクションを活かして、物流や観光などを学ぶ学生を『インターンシップ(就業体験)』として招ける仕組みを整えました。学生は日本で1年間働けば単位がもらえ、お金も稼げます。一方、1年間続けないと単位がもらえないから、日本の企業は毎朝仕事を教えずにすみます」
高山さんは今、外国人人財に息抜きの機会も与えようとしています。
「たとえばみんなでサッカーをしたり、母国の料理を出し合ったりして、雇用してくれた会社の人と外国から来た人が心でも繋がれる仕組みがあるといいですよね。ここは売上が上がってから整備します。そのためにも、がんばらなきゃ」
課題がある場所にこそ、ビジネスの熱狂がある。世界中を飛び回ってきた元トップセールスマンの目に映る日本の物流現場は、決して「キツくて古い業界」ではなく、「アイデアとテクノロジーの掛け合わせで、いくらでも変革できる巨大なフロンティア」だったのです。
取材・文:夏目幸明
編集:学生の窓口編集部 降旗
協力:株式会社ア・プロ https://www.apro-hr.jp/






























