「人生がガラッと変わる」日本郵船の二刀流が語る、航海士という職業
ヒット商品やサービスを手掛ける企業のキーマンにお話を伺う企画「#お仕事図鑑」。
今回は、日本郵船で働く社会人にインタビュー。二等航海士と採用担当という2つの顔を併せ持つ丹下皓太さんに、航海士の仕事内容や仕事観、今後のキャリアパスについてお話を伺いました!
PROFILE
丹下 皓太
二等航海士として、300mを超える巨大船を操船している。確かな操船技術と幅広い知識を身に付けた「船長」になることを目標に、日々勉強中。現在は陸上勤務で、採用イベントの計画、イベントへの登壇、その他採用HPの運営やパンフレット作成など、採用に関する幅広い業務に携わっている。
文学部から航海士へ
――自己紹介をお願いします。
日本郵船で二等航海士として新卒の採用担当をしております、丹下皓太と申します。私は2016年に、日本郵船の自社養成コースで航海士として入社いたしました。大学時代は、文学部の英米文学科で文学を勉強していましたので、入社後は自分にとって全く未知のフィールドで働いているということになります。本日はせっかくですので、航海士の目線でお話させていただければと思って参加しております。どうぞよろしくお願いいたします。
――文学部のご出身なのですね。
はい、見かけによらず(笑)。
――もともと船や海に関する専門的な事を学ばれていたのかなと思っていたので、少し意外でびっくりしました。
大学時代には全く船のことは勉強していなくて、就職活動を通じてこういう仕事があることを知り、興味を持ちました。
――航海士としてご入社なさったとの事ですが、今は採用担当として働かれているんですね。
はい。今は航海士というよりは、皆さんが思い浮かべるような”純サラリーマン”として、月曜日から金曜日まで採用活動にコミットして働いています。
――航海士と採用担当という二足のわらじでお仕事をされているとの事ですが、初めに航海士のお仕事内容について教えてください。
メインは大型船の操船です。全長300m~400m級の船を自分の手で操船します。あとは「荷役(にやく)」と呼ばれる、貨物の積み降ろし作業の計画や安全性を考えたりする役割も担っています。加えて、船体整備も行っています。船は鉄の塊ですので、海上を走ると錆びてしまう等の不具合が生じるため、メンテナンス作業を行います。
これが主な仕事内容です。
――1日のスケジュールを教えてください。
私は二等航海士として、まずお昼の12時から16時までの4時間を操船します。次に夜の12時から朝の4時まで操船する時間がありますので、1日に計8時間操船することになります。夕方16時から夜中の12時まではフリータイムとなります。私はその時間帯に、一等航海士になるための勉強を毎日1~2時間ほど行っています。
――採用担当のお仕事内容についても教えてください。
9時に勤務開始で17時が定時です。具体的な仕事内容としては、採用イベントのスケジュールの考案や、採用ホームページ等のウェブ媒体の管理を行っています。
――現在一等航海士になるための勉強をされているとの事ですが、階級によって仕事内容に違いはあるのでしょうか。
航海士は一等航海士から三等航海士まで分けることができ、それぞれで異なる仕事を任されています。
一等航海士は操船ももちろん行うのですが、貨物管理の主担当として活躍します。船種(船の種類)毎に貨物の特性が異なるため、それぞれの知識を適切に身につけ管理する必要があります。加えて、マネジメントする立場にもなりますので、25人程の乗組員の労務管理や作業計画を立てるなど、仕事内容は多岐にわたります。
二等航海士は航海長と呼ばれ、航海計画を立案する責任者です。航海計画とは、実際に船が走る航路を計画する事です。決してミスが許されない仕事です。加えて、操船する上で必要な機器のメンテナンスを行います。
個人的に、二等航海士が一番航海士らしい仕事かなと思っています。かなり面白いです。
三等航海士は操船の他に、外国の港に提出する書類を作成します。港によってフォーマットや内容が異なるため、注意力が必要な作業です。また、緊急事態の発生時に必要な消火設備や救命設備の保守点検の責任者としても役割を果たします。
――船長はまた別のポジションの方が担当されるのですか?
はい、一等航海士の1つ上のポジションが船長です。イメージは小さな会社の社長です。乗組員約25人の上に立ち、全責任を負うのが船長です。
――航海士になるために必要なスキルや免許があれば教えてください。
免許に関して、海外航路を走る船に乗るためには海技士免状と呼ばれる国家ライセンスを取得する必要があります。私は大学時代に専門の勉強はしてこなかったので、入社後に給料をもらいながら免許が取れる学校に通わせてもらい、国家試験を受けました。
――入社までに専門的な事を身につけておく必要はないということですね。
そうですね。海上職としてご入社いただく方法は大きく分けて2パターンあります。1つ目は、商船系の学校に在籍する学生が船についての知識を身につけて入社するパターン。2パターン目は、私のように一般の大学を卒業して専門知識を持たないまま入社し、2年かけてしっかり勉強して資格の取得を目指すパターンです。
海上職は人生を変える
――どのような人が航海士に向いていますか?
まずは、船に乗ることが好きな人だと思います。仕事をする環境が船上ですので、乗船することに抵抗の無い人が向いているかなと思います。また、探究心がある人だと思います。実際に仕事を進めていく上で、専門的な知識が必要となったり、初めての事や分からない事に直面するケースが頻発します。そんなときに自分なりに調査して、論理的な根拠を持って回答を導き出せるような方は海上職にマッチしていると思います。
――海上職で身につけたことが採用担当の仕事内容に活かされたことはありますか。
正直、2つの仕事内容が直結しているとは感じません。採用担当として、海上職の業務内容を学生の皆様に正しくお伝えすることができていると思いますが、技術的な面で直接繋がりを感じる場面はないように感じます。ただ、逆にそれが面白いところかなとも思います。
日本郵船の海上職は海上勤務中に活躍するために必要な専門的な知識や船を運航する力をまず養う必要があります。しかし、そういったものを直接生かせるか生かせないかに関わらず、陸上勤務中には色々なポジションに就く可能性がありますので、全く新しいことを陸上で経験出来る土壌が日本郵船には整えられているように感じます。
――海上で培った技術やスキルを陸上に生かすというよりは、異なる職種を経験する事で自分の視野を広げることが出来るといったイメージですね。
おっしゃるとおりです。弊社には海上職のほかに陸上職の事務系や技術系といった職種があり、私の所属する採用育成チームには陸上職事務系の方がたくさんいます。彼らと一緒に業務を行うことで、一人のビジネスマンとして吸収できることが山ほどあります。日本郵船には航海士として成長できるだけでなく、ビジネスマンとしても成長できる土壌があると思っています。
――最も印象に残っているお仕事のエピソードがあれば教えてください。
私が三等航海士として初めて一人で操船したときのことです。台湾沖を航行していたのですが、船舶がたくさん通る海域だったので非常に緊張したことを覚えています。レーダーや電子海図その他あらゆる機器を駆使して自分の頭の中で明確な操船のイメージを持ちながらくぐり抜けました。航海士として一人立ちできた瞬間だったと思います。
航海士はお客様の大切な貨物を取り扱う、非常に責任のある仕事ですので大きなプレッシャーを感じます。そのため、どの航海も私にとっては印象的です。
――航海士として一番気を付けていることはありますか。
遠回りしても安全な道を選ぶことです。貨物を届ける上で、安全よりも大事なことはないと断言できます。自分のちっぽけなプライドは全て捨てて、近道よりも安全な道を選ぶようにしています。
――今後のキャリアプランはありますか?
船長になることが目標です。船長になるまでにはおよそ15~20年程かかりますので、日本郵船で知識や技術を身につけ続けたいと考えています。また、弊社では自動車やコンテナ等の乾いた貨物を運ぶ船か、LNG(液化天然ガス)やLPG(液化石油ガス)等の液体貨物を運ぶ船か、どちらかのキャリアアッププランを選択するのが一般的です。ですが、私は両方を取り扱えるような一等航海士、そして船長になりたいという目標を持っています。
――最後に大学生に向けてのメッセージをお願いします。
海上職という仕事は、皆様の人生が良い意味でガラッと変わる、そんな仕事だと思います。私のような外航船員は日本に約2000人しかおらず、非常にプロフェッショナルな仕事です。海上職としての入社を目指せるのは大学時代がラストチャンスになるかもしれません。私個人としては、日本の物流、世界の物流を支える仲間として皆様と是非一緒に働きたいなと思っています。
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取材:清水 碧
執筆:浅井 宏允
編集:学生の窓口編集部
取材協力:日本郵船株式会社