大学の寮のベッドで目が覚めた時、カーテンの隙間から見える空は真っ暗だった。横にあるスマホを確認すると22時。ふと…|エッセイ企画「#Z世代の目線から」キーワード:夜
エッセイキーワード:夜
エッセイタイトル:『夜の東京散歩』/著者:まと さん
1485文字/5分かからないくらいで読み終わります。
大学の寮のベッドで目が覚めた時、カーテンの隙間から見える空は真っ暗だった。横にあるスマホを確認すると22時。ふと炊き立てのお米の香りがするので顔を横に向けると、同室の友人が好物の白米を食べている。「今日はどうだった?」ベッドに横になったまま声をかけると、「まあバイトだね」と苦笑いが返ってきた。「クリスマスなのになんかもったいないね」私の声が虚しく響いた。「…やっぱり今から東京行こうよ」しばらくの沈黙の後、友人が力強くそう言う。バイトや課題に追われる私たちは先週、今日のお出かけを中止にしていた。「行っちゃうか」どうしても出かけないといけない気がしてそう返した。そうして、私たちは慌ただしく準備をして、東京駅行きの電車に飛び乗った。
30分ほどして、原宿に降り立った。「うわあ、ここ本当に原宿?」思わず口からこぼれる。広い道は薄暗く、人もいなければ、車も通っていない。横断歩道の向こう側に、大きなドラッグストアの電気がついているだけだ。横断歩道を渡り、慣れた足取りで竹下通りへ進む。竹下通りのゲートの手前の両サイドの店の看板はまだ光っていて明るいが、その先に真っ直ぐ続く道には街灯がぽつぽつとあるくらいで真っ暗だ。「いつもこのくらい空いていて欲しい!」友人が言う。普段の歩く隙間もないほどの人で埋め尽くされた様子とは打って変わって、会社帰りらしいサラリーマンが2、3人歩いているだけだ。すると背後から低く響き渡るエンジン音がして、大きな青いゴミ収集車が門を潜って通りに入っていった。「車って入れるんだね」東京のこんな一面は誰も知らないんじゃないかという気がして、少し得意気に、私たちは車の後に続いて暗い道へと足を踏み入れた。
何十分歩いたのだろうか、「さすがにもう一人も見かけないね…」いよいよ人気はなく、街灯も弱々しく、道の両サイドに木がずらっと生えている道に、次第に不気味さを感じ始める。「なんか、アレ、出てきそうだよね」友人もそう言う。お化けのことだろう。「ジングルベル、ジングルベル」突然友人が歌い出した。「鈴がなる」私もすかさず口ずさむ。
20分ほどクリスマスソングを歌った頃に、右手にだだっ広い公園のようなものが見えてきた。そしてふと、公園に立て掛けられている白い看板に気がつく。「墓参者専用駐車場」と書いてある。公園ではない。「もしかして、ここ墓地じゃない?」どおりでどこか人寂しく感じるわけだ。目の前にあるこれから進む道を見てみると、その右手にどこまでも墓跡が並んでいるのが見えた。少しの間立ちすくんだ。「でも他に道はないよ」私たちはまた歌を再開して、歩き始めた。徐々にその足は早まり、歌うスピードも速くなった。しまいには、足を必死に動かして走っていた。3分ほど走って、ようやく大通りに出た。
「うわあ、眩しい!」見渡す限り、街灯が光り、マンションなのか会社なのか分からないが、ガラス張りの建物の明かりもたくさんついている。そして、真っ直ぐとした通りに沿って背の高い建物がいくつも立ち並び、遠くまでその明かりが見えた。横断歩道の前で立ち止まっていると、ふと一台の白いトラックと、乗用車が何台か左から右へ走り去っていった。「写真とろう、写真」それで我に返り、記念にと言ってお互いを撮り合った。しかし、「あはは、何かに取り憑かれているみたい」寒さか興奮か、あるいはお化けの仕業なのか、写真はすべてブレてしまっていた。
深夜に出かけるなんて「良い子」のすることではなかったかもしれない。しかしこの寒いはずで暖かく、不思議と清々しい気持ちになれた散歩は、一生忘れられない夜だ。
著者: まと さん |
学校・学年:津田塾大学 4年 |
著者コメント:文章を書くことは好きですが、初めてエッセイを応募するのでドキドキしています。墓地の横を通り抜けた時くらい。たまの息抜きにも良いことがあるかもしれないということが伝われば幸いです。 |
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