「好きなことは絶対に手放さない」マカロニえんぴつ・はっとりにとっての”生きるをする”とは #セルフライナーノーツ
「生」と「死」について考える機会の多い2020年。そんな情勢の中で注目を浴びたロックバンド・マカロニえんぴつが11月4日にメジャー 1st E.P.「愛を知らずに魔法は使えない」をリリースする。
「生きるをする」や「mother」など、「生きる」ことについて考えさせられる曲が多く収録されている今回の E.Pの魅力や、自身が考えるこの時代を「生きること」についてボーカルのはっとりさんにお話を聞いた。
文:於ありさ
写真:友野雄(YU TOMONO)
編集:学生の窓口編集部
▼INDEX
1.「言い訳しだしたら黄色信号」スランプを乗り越えるのに大切なのは立ち止まらないこと
2.「生きるをする」は音楽への自信がなくなった自分を鼓舞するために作った曲
3. 「自分を見つけるんじゃなくて、居心地の良い場所」を見つけることが大切
「言い訳しだしたら黄色信号」スランプを乗り越えるのに大切なのは立ち止まらないこと
――Major 1st E.P. 「愛を知らずに魔法は使えない」のリリースおめでとうございます!今回、初のメジャーレーベルからのリリースとなりますが、ここまでの道のりを振り返ってみていかがでしょうか?
はっとり(Vo):そうですね。一言で言うと、長いようで短かったかなという印象です。というのも、僕ら大学時代の同級生というのもあって、大学でバンドを組んだ当時と変わらない感覚、ずっと大学生活の続きをしている感覚なんですよ。
ただ、その一方で、結成当時から今を振り返ると、このバンドは変わったなって思う節もあります。
――具体的にどのようなことが変わったのでしょう?
はっとり:まず、音楽の作り方や、ライブに対する向き合い方ですかね。メンバーの脱退を経験したり、レーベルの移籍があったりと何度かバンドの存続を危ぶむ試練もありましたが、いろんな仲間や先輩に出会って、すごい刺激を受けて少しずつ変わっていきました。
そもそも、僕らはとにかく音楽を届けたいとの思いだけでふわっと組んだバンド。誰も最初は「長く続けよう」とか「有名になろう」とか意気込んでなくて、衝動的に組んだんです。
そんな僕らがいろんな人との出会いの先で、少しずつ変化して、できるだけ長く続けたくなったっていうのも大きな変化ですね。
――そうだったんですね!結成から今日に至るまでの8年間、特に印象的だった出来事を1つあげるとすればなんでしょう?
はっとり:SHIBUYA CLUB QUATTROで初めてワンマンをやったときですね。800人くらいのキャパの会場なんですけど、いざ幕が開いたらキャパの半分も入らなくて、すごく悔しかったんですよ。
お客さんにも「わあ、こんなにたくさん人が来るくらい、すごいバンドを好きなんだ」って、僕らを好きでいることに誇りを持ってほしかったのに、がっかりさせちゃったかなって、申し訳なかったですね。
――それははっとりさんだけでなく、メンバーの皆さんも同じように考えていたんですか?
はっとり:そうだと思いますよ。恥ずかしいんで、あんまり熱くなれないんですけど、みんな言わずとも明らかに同じことを思ってましたね。感情的にはなってないけど、「悔しいよな」「そうだよな、悔しいよな」「でも、間違っちゃないよな」って静かに確かめ合いました。
――悔しさを覚えながらも、「間違ってないよね」って確かめ合えるのってすごく素敵ですね。
はっとり:やっぱり不安になっちゃいますからね。でも、いつも1番近くで音を鳴らしてるメンバーが、一番大事で信頼している存在なので、そんな彼らが「間違ってない」って言ってくれるのは心強かったですね。そのときにより一層メンバーのことを好きになったし、一緒にもっと大きくなりたいなって思えました。
――お話を聞いていて、「もうダメだ」と思いかねないくらいの出来事なのかなと感じたのですが、マカロニえんぴつさんにとってはその悔しさがポジティブに変わったんですね。
はっとり:そうですね。「間違いないことやってるはずなのに、なんで思い描いたビジョンとのギャップがこんなにあるんだ」って、そこでの悔しさがブーストした感じがします。まずは、自分たちを好きでいてくれる人たちを「もっとお客さんがいっぱいのところで見てもらえるように、頑張んなきゃ」「絶対リベンジしてやるぞ」って意気込んだのを覚えています。
だから、しばらくして、もう一度同じ会場でやったときにソールドアウトにできたのは、めちゃくちゃうれしかったですね。
――聞いているだけで嬉しさが伝わってきます。今お話しいただいたエピソードもそうですが、悩みや葛藤ってたくさんあったと思うんですね。そういうときに打開するために必要なことってなんだったと思いますか?
はっとり:結局ね、進むしかないんですよ。立ち止まってしまうと、余計自信もなくなりますから。進んで何かを生み出す、生み出せなくても生み出す努力をしてみるということが大切かなと思います。
――なぜ進むことが大切なんですか?
はっとり:自分が立ち止まっていると、走っているときは気にならなかった周りの景色が気になっちゃって、自分より先を動いてる人のことばかり気になっちゃって言い訳ばかりしちゃうようになっちゃうんですよ。「俺らはわかってもらえないだけだ」とか「大したことないよ、あいつら」みたいな。
自分を正当化することに必死になって、動いてるものの足を引っ張るじゃないけど粗を探すような感じの汚い気持ちになってしまうんです。そうなったら黄色信号なんですよ。だから悩んだ時こそ、なにかする、なにかを作るというのは大事だと思います。
「生きるをする」は音楽への自信がなくなった自分を鼓舞するために作った曲
――2020年はコロナウイルスや著名人の訃報も多く「生きる」ということについて考えさせる機会が多くなりました。だからこそ「生きるをする」が強く響いた人も多いと思うのですが、はっとりさんはこの曲を通じて、どんなメッセージを届けたいと思ったのでしょう?
はっとり:そうですね。このコロナ禍の中で、日に日に増える死者数や、感染した人たちからのメッセージを通して、「死」というものをすごく考えたんだと思うんですよね。その結果、自ずと「生」を意識する人も増えた気がしています。
僕自身は、「生きてる」ことって、常に人に見せていかないといけないと思ってるんですね。でも、緊急事態宣言の時に僕が「生きてる証」として見せてきた音楽、芸術は不要不急に属するものであって、医療とは違って命を救えないという扱いをされて、ちょっと自信がなくなったんです。
そんな中でいろんなアーティストの方が音楽を発信しているのを見て、「自分や自分の好きな音楽を信じないとな」って思って書いたのが「生きるをする」だったんですよ。ある意味エゴというか、自分を鼓舞するために書いた曲なんです。だから、これを聞いた人たちのことも鼓舞してくれるようになったのは、僕はもう作った甲斐があったなと思っています。
――お話の中で芸術や音楽に対して、少し自信がなくなった瞬間もあるというお話がありましたが、自粛期間中に生活の中で変化した価値観はありますか?
はっとり:やっぱり音楽って気持ちに余裕がないと全力で楽しめないなって思いましたね。4月、5月って音楽を聞きたいなってあまり思えなかったんですよ。
でも、星野源さんの「うちで踊ろう」を見たときに、みんなが自分のアプローチで「うちで踊ろう」に参加しているのを見て、音楽ってやっぱり楽しいものだなって。自分の中でも楽しむ余裕が生まれたなと思いました。
やっぱり音楽ってみんなが広げていくものを伝えていくもの、みんなで楽しめるものだなと考えさせられましたよね。届けたりするだけじゃなくて、みんなを巻き込む力みたいな音楽のパワーを改めて実感しました。
「自分を見つけるんじゃなくて、居心地の良い場所」を見つけることが大切
――収録曲の「生きるをする」の歌詞の「見つからない?自信じゃなくて自分自身」 という部分を聞いて、自分自身が見つからず将来の進み道を決められない学生と重なるなと感じました。そんな学生に、アドバイスをお願いします。
はっとり:迷うのは、きっと何でもなれる可能性があるからこそ悩むんですよ。結局のところ、物事は思いもよらぬ方向にいくもんだと思うんです。就職を前に「自分自身が何者か」って考えるのもわかるんですけど、あまり「自分を見つけなきゃ」って気負わないでほしいです。自分が思う自分なんて自分じゃないので。
――自分が思う自分なんて自分じゃない…どういうことでしょう?
はっとり:人から見た自分が自分だと思うんです。だから、自分のことを「こういう人間だ」って決めてしまうと、人から違う風に言われた時に耐えられなくなると思うんですよ。
――なるほど。では、将来の進む道に迷いを感じている学生はどのようなことを大切にしたら良いのでしょう?
はっとり:自分が好きでいられることを、好きでいられる場所で生きていくとを見つけることの方がよっぽど大事な気がします。
結局、どんなに好きなことをやっていても、仕事に関係付けちゃうと責任が生まれるので、すごく大変なことだと思うんですね。でも、居心地の良い場所でだったら、結構過酷なスケジュールだったりしても、楽しんで乗り切れるだと思うんです。それに、居心地の良い場所って自分の好きな人が集まると思うんですよ。
だから、「自分探し」をしようとしないで、「自分が輝ける場所」「自信を持てる場所」を探せばいいなと思います。
――最後に、この情勢の中で前を向いて頑張っている学生にメッセージをお願いします。
はっとり:勤めた経験のない僕が何を言えるんだろうなっては思うんですけど、やっぱり好きなことを手放さないで欲しいなと思います。僕にとっては、音楽がそれなんですけど、本当に音楽を好きでよかったと思うんですよ。それは、すごい大事な時、辛い時に救ってくれるから。僕はただ好きだから音楽を作っていたのに、今はそれを誰かに聞いてもらえる、必要としてもらえるようになりました。これって好きでい続けたことへのご褒美だと思うんですよ。
もちろん、いろんな状況がある中で、好きなものを手放さないといけないって状況もあると思います。でも、手放すことはあっても、結局は気持ち次第でいつでも戻れると思うので、好きな気持ちを封じ込めることはしないでほしいんですよ。だから、気負いせず、誰かにお願い、お願いされて共存しあえる心の軽さを持って、前進してください!