人はストレスがたまると、なぜ攻撃的になってしまうの? #もやもや解決ゼミ
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ストレスがたまると、ちょっとしたことでもイライラしたり、人に対して攻撃的になったりしてしまうときがありますよね。では、なぜストレスがたまると攻撃的になってしまうのでしょうか。
ストレスによって人が攻撃的になってしまう理由について、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院にて、心理生理学・ストレス科学の研究をされている、環境・社会理工学院 社会・人間科学系の永岑光恵准教授にお話を伺いました。
ストレスがたまると感情をコントロールする機能が低下
人は慢性ストレス状態におちいると、脳の前頭前野の機能が低下することが分かっています。前頭前野は思考、意思決定、感情のコントロールなどを行う脳の部位です。そのためストレスがたまると感情をうまくコントロールできなくなります。
また、慢性ストレス状態では、感情の中枢と呼ばれる大脳辺縁系の「扁桃体」という部位が活発になる傾向にあります。 感情を抑制する機能はおとろえているのに感情は活発になるため、ちょっとしたことで怒りを感じてしまう、他者に何らかの攻撃を加えてしまうといったことが起こりやすくなるのです。
感情的になってしまう人とそうでない人の差は?
同じようにストレスがたまっている場合でも、すぐに感情的になってしまう人と、感情を抑えられる人がいます。その差は「認知」にあると私は考えています。私たちは、ある状況に置かれたとき、まず「認知的な評価」を行っています。つまり、「これはどのような状況なのか」を考えるということです。
人は「認知的枠組み」の中で判断を行っています。どのように認知するかは個人で異なるため、同じ状況であったとしても人によって受け取り方が変わり、怒る人もいれば冷静なままでいられる人もいるのです。
感情的にならないためには認知を変えてみることが大事
攻撃性につながる「怒り」の感情は、下記の通り定義されています。
「自己もしくは社会への不当なもしくは故意による(と認知される)、物理的もしくは心理的な侵害に対する自己防衛もしくは社会維持のために喚起された心身の準備状態である」
つまり「不当性」「故意性」が、怒りにつながる重要な要素であるということです。人は、何か不利な状況におちいったとき、または「理不尽だ」と感じたときに怒りがわきます。そういうときにまず必要なのは「認知を変えること」、つまり「自分の考え方を変えること」で、怒りの感情が喚起されなくなるのです。
例えば、私の講義の受講生に、毎日満員電車でイライラしながら通っている学生がいました。しかし、考え方(認知)を変えたところ、あまり怒らなくなったといいます。電車で押されても「みんな満員電車で大変なんだ」と思えば、自分自身のイライラも抑えられ、相手に攻撃的な感情を持つこともなくなります。
認知と行動を考え直すことは、自分だけでなく周りの人間を助けることにもつながるのです。
自分の状態を俯瞰で見るためには日記がおすすめ
「認知的枠組み」は、自分の中では「当たり前のもの」なので、人との違いに気付きにくく、なかなか変えられない人もいます。そうした人におすすめなのが「日記」です。その日に体験した、怒りを感じたことやその状況を可視化すれば、次第に自分の状態を俯瞰で見ることができるようになり、認知を変えるきっかけになります。
また、怒りを感じているときは心拍数や血圧が上昇していますから、深呼吸をするなど「身体的なアプローチ」を行い、落ち着かせることも重要です。他にも、怒りが生じた場合は「鞄のひもを強くつかむ」など、あらかじめ「自分を落ちつかせるための行動を決めておく」ということもポイントです。
ストレスも「自分を成長させる糧」にしよう
ストレスにさらされたときに生じやすくなる「怒り」の感情に対して、ネガティブなイメージを持つ方も少なくはないでしょう。しかし、怒りも意味がないものではありません。例えば、怒りがモチベーションとなり、時に前に進む原動力になることもあります。
ストレスによって生じる感情を拒絶するのではなく、なぜ怒りを感じているのかを考えてみるなど、ありのままに向き合ってみることも大事です。感情と向き合うことが、認知的枠組みを見つめ直すなど、自分を変えるきっかけにもなります。
ストレスを避けて生きるのは難しいと思いますが、「自分を成長させてくれる」と考えられるようになれば、うまく付き合っていけるのではないでしょうか。
ストレスがたまると、感情をコントロールする機能が衰えるだけでなく、「扁桃体」という感情に関わる器官が活発になるとのこと。つまり、アクセルは敏感なのにブレーキはあまり利かないという、非常に困った状況に陥るようです。こうした状況を変えるには「認知」を変えることがポイント。ストレスがたまるとついカッとなりやすい人は、いつもと違う考えで怒りの感情と向き合ってみるといいかもしれませんね。
イラスト:小駒冬
文:高橋モータース@dcp
教えてくれた先生
永岑光恵 Profile
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院/環境・社会理工学院 社会・人間科学系 准教授
2002年3月、東京工業大学大学院社会理工学研究科人間行動システム専攻博士課程修了 博士(理学)。国立精神・神経センター精神保健研究所(現 国立精神・神経医療研究センター)流動研究員、東京大学大学院総合文化研究科 特任研究員、玉川大学脳科学研究所 特別研究員、防衛大学校人間文化学科 准教授を経て2016年4月より現職。
⇒永岑光恵研究室のHP
http://www.shs.ens.titech.ac.jp/~nagamine/jp