なぜ夏には炭酸飲料を飲みたくなるの? #もやもや解決ゼミ
日常に潜む「お悩み・ギモン」=「もやもや」を学術的に解決するもやもや解決ゼミ。
みなさんは、夏になると無性に「炭酸飲料」が飲みたくなりませんか? なぜ暑くなると炭酸飲料が飲みたいと思うのでしょうか。
今回、炭酸が体に与える効果について研究されている『国際医療福祉大学』リハビリテーション学分野の前田眞治教授にその理由を伺いました。

夏になると「炭酸飲料」が飲みたくなる理由は?
何といっても爽快感でしょう。冷たい炭酸飲料を飲むと、喉(咽頭)が炭酸の気泡で刺激され、爽快感が生まれます。そもそも冷たい飲み物は咽頭を刺激して爽快感を与えますが、そこに炭酸が加わることでより爽快になるということです。
私が行った実験では、常温の炭酸水を飲むと炭酸の刺激で覚醒レベルは上がりますが、心地よいと感じる脳波は減少しました。しかし、冷やした炭酸水は覚醒レベルもリラックスしていることを示す脳波も増加したのです。
炭酸は夏バテ防止にも◎
炭酸は血管を拡張させる性質を持っており、炭酸水が胃の中に入ると胃粘膜の血管が拡張します。血管が拡張すると、胃酸を分泌して食べ物を早く腸のほうに送ろうとするので胃の動きが活発になります。また、胃の細胞が冷えると酵素がうまく働かなくなるため、胃は冷たいものを早く腸に送って胃を温めようとします。
つまり、冷たい炭酸は胃をより活発に動かして、食欲を増進させる働きがあるのです。成人以上の方ならわかると思いますが、食前にビールやシャンパンなど炭酸のお酒を飲んで食欲を上げることがあります。これも同じメカニズムです。
以前、「食前に冷たい炭酸水を100~150ml飲み、食事中は胃の中にとどまった食べ物を流すために20分ごとに炭酸水を飲みながら限界まで食べる」という実験をしました。すると、炭酸水を飲まないときと比較して1.2~1.4倍多く食べることができました(3人ずつで2回実験を行いましたが、同じ結果でした)。
夏は食欲が落ちるものですが、冷たい炭酸水を食前に飲むと食欲が高進し、夏バテが防げます。また水分をしっかり取ることで脱水や熱中症を防げます。こうした食欲増進効果も夏に炭酸飲料が飲みたくなる理由だと考えられます。
炭酸で胃の働きをコントロール
胃の動きは、自律神経の交感神経と副交感神経によって支配されており、胃が動けば腸も同時に動きます。胃と腸が同調して活発に動けば肛門の方に食べ物が送られるので、快便につながり便秘解消になります。
そのため便秘の方は、朝にコップ1杯(100~150ml)程度の冷たい炭酸水を飲むことをおすすめしています。 少量の炭酸は食欲を促進させますが、300~500mlと炭酸水を多く飲むと、胃が炭酸水と炭酸水から出る気泡で膨らんでしまいます。すると胃は脳の中の視床下部にある満腹中枢を刺激。「おなかがいっぱい」と感じて食欲が抑えられます。
前述の限界まで食べるという実験で、「食前に常温の炭酸水500mlを飲んでから食べる」という実験も同時に行ったところ、7割程度の食事量になりました(これも5人で試みました)。
これをダイエットにも利用できるのでは、ということで数人のモニターをしたところ、個人差はありますが、2週間で4kg程度減るという結果になりました。
炭酸はからだに悪くないの?
炭酸は人間の体の中に存在し、濃度が一定であれば安全な物質です。飲んだ炭酸は腸から吸収され、静脈を通って肺に達すると、9割以上は吐く息と一緒に放出されます。動脈に入って全身に回ることはほとんどありません。
ただ大量の炭酸水(1.5L程度)を一気飲みすると、肺が排出する炭酸の許容量を超えてしまうことになり、動脈側に炭酸が送られてしまうことになります。炭酸が動脈のほうに行くと血液のpH値が少し酸性に傾き、神経がうまく働かなくなることでボーッと酔っぱらったようになります。これを「炭酸酩酊」といいます。
世の中には「炭酸でも酔える」と驚く人がいますが、それはこのためです。しかし、多く摂取した炭酸も再び肺に到達するとほとんど排出されてしまいますし、腎臓からも排泄されますので安心してください。
前田先生によると、冷たい炭酸飲料がもたらす爽快感には「体を覚醒させるとともにリラックスさせる効果がある」とのこと。この覚醒とリラックスを味わいたいために、暑い季節になると冷たい炭酸が飲みたくなるようです。また、爽快感が味わえるだけでなく、食欲を増進させる効果も炭酸飲料を欲する要因だといいます。
過度な飲み過ぎは避けるべきですが、暑い夏は冷たい炭酸飲料でスカッと爽快な気分を味わいたいですね。
イラスト:小駒冬
文:高橋モータース@dcp
教えてくれた先生

前田眞治 Profile
国際医療福祉大学 保健医療学専攻リハビリテーション学分野教授。
1974年北里大学医学部卒業。1978年同大学院修了・神奈川県総合リハビリテーションセンター。1981年北里大学医学部内科専任講師。1991年北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科助教授。1998年北里大学東病院リハビリテーション科科長。2005年より現職。リハビリテーション専門医、脳卒中専門医、リウマチ科専門医。人工炭酸泉研究会会長。