まじめな監督 筧昌也が語る、映画と日芸とキスマイ北山くん |あの人の学生時代。#33
著名人の方々に大学在学中のエピソードを伺うとともに、現役大学生に熱いエールを贈ってもらおうという本連載。今回は2月15日(金)に公開される、Kis-My-Ft2の北山宏光さん主演映画『トラさん〜僕が猫になったワケ〜』の監督・筧昌也さんです。
ある日突然、死んだはずの売れないマンガ家・寿々男が猫の姿で家族の元にもどってくるという、ファンタジックでありながら普遍的でとびきり温かい家族のドラマを描き出す筧監督は、いったいどんな大学時代を送られたのでしょうか?
文:落合由希
写真:為広麻里
編集:マイナビ学生の窓口編集部 点P
INDEX
漫画家より、映画監督をめざした理由
ーー筧さんは日本大学芸術学部映画学科に行かれていたそうですが、大学・学部選びの理由は?
実は僕、高校生のころはマンガ家になりたかったんです。賞にも応募して、受賞したりもしていて(ビックコミックスピリッツ月間賞を受賞)。ただ、文化祭で演劇をやったときに「集団でモノを作るのも面白いな」と思って。それで、美術系に行くか、映画の学校に行くか迷ったんです。で、結論を先送りしたんですよね。
--なぜ先送りを?
マンガはひとりで描けるし、美術もやろうと思えばひとりで勉強できるけど、映画は学校に行かないと撮れないなと思って。映画づくりって、集団作業だし。
で、悩んだ結果、「集団でモノをつくるおもしろさ」を追いかけようと思って、日大の映画学科を選びました。学費が高いから親には申し訳なかったんですけど(笑)。
まじめで、要領がいいのかもしれない
ーー大学での経験は今の仕事に活きていますよね。
もちろんそうですね。演出中に、学校の先生の言葉を思い出すんです(笑)。
たとえば、演出で困ったら「人がいないところから人を入れさせれば編集は絶対つながるから、困ったらフレームインさせればいいんだ」とか。当時の先生は、まさかそんなことを僕がまだ覚えているとは思わないでしょうけど(笑)。
そう思うと、我ながらすごくまじめな学生ですよね。
ーー映画づくりって忙しそうですが、大学にもまじめに通われていたんですか?
まじめに行ってましたよ。卒業制作が結構大変なんで、3年間でほぼ単位を取り終えて、4年目は卒業制作を作るために時間を作って。いわゆるフル単ってやつです。たぶん、要領がいいんだと思います(笑)。
ーーすごく要領がいいと思います。
ただ、うちの学校は他の学校と比べると、わりと実技に比重を置いているほうだったので、(単位を)取りやすかったのかもしれないですけど。
でも、もともと(映画学科の)勉強は趣味というか、映画が好きで、映画を作りたいと思っているところからスタートしているので、あまり“勉強”という概念はなかったですね。
ただ、脚本を先生に直されたりしてましたね。当時の日大芸術学部は映画学校の中でも歴史があるぶんクラシカルというか、わりと王道志向というか、先生も年配の方が多かったので、当時僕らが好きだった、ミニシアター系の『トレインスポッティング』とか『バッファロー’66』とか、あの辺のエッジの効いた作品を真似して作ろうと思うと怒られるんですよ。
職人として仕事していくとき「基本が大事」だというのは、今思えばすごく正しいと思うんですけど、当時は岩井俊二監督とかウォン・カーウァイが流行ってたから、みんな手持ちカメラで撮るんだけど「見づらいよ!」って先生に怒られるみたいな(笑)。
でも、そういうのもやりたかったんで、学校の授業ではまじめな作品を作って、なるべく早くそれを終わらせて、空いた時間で自分のやりたい作品を作ってたんです。だから、そういう意味では、まじめというよりは、ただ(学校の勉強を)早く終わらせて自分の時間を作りたかっただけかもしれないです。
ーーやっぱり、要領がいいんですね。
でも、当時習ったことが、あとからジャブのように効いてくるというか……。いやホント、基本をおさえるのは大事ですね。30歳をすぎて、この仕事をしながら気づきました。
まじめな監督が語る、監督論
今って簡単に映画が撮れちゃうんで、基本はないがしろにされがちだと思うんですけど、監督がやることって今も昔も変わってないんですよね。
カメラマンや照明さんは、どんどん機材が発達することによって変わっていく部分もあると思うんですけど、演出って、どんなに大きくていいカメラを使おうが、iPhoneで撮ろうが、やってることは全く変わらないんです。
そういう意味では、大学の勉強ってめちゃくちゃ大事でしたし、日本映画の歴史とか、アカデミックな勉強をやっていてよかったなと思います。
ーー映画製作以外に夢中になっていたことってありますか?
当時の仲間ともよく話していたことなんですけど、普通の大学生が飲み会やスノボー、旅行に使うようなお金を全部映画製作に使ってたな、って(笑)。
ーーいま思えば、そういったことも少しはやっておきたかった?
なので、その反動で、1回就職したんですけど1年くらいでやめちゃって、27〜28歳ぐらいまでほぼプータローみたいな時期がありました。監督としての仕事が増えるまでは、若干ニート期間というか(笑)。
エントリーシートって、なに?
ーー大学時代、就活はしてましたか?
就職活動はほとんどしなかったですね。しないって決めたというよりは、なんかフワフワしたというか「そんなことより卒業制作を面白くするのが先だろ」って思ってて。
ーー当時の仲間で「オレそろそろ就活するわ」みたいな人はいなかったんですか?
いや、それがいたんですよ、いっぱい。
意外と、日本大学芸術学部でも、7割ぐらいは手のひら返したように、ある日突然スーツ着るんです。「え、ちょっと待って! 聞いてなかった。なに、エントリーシートって」みたいな(笑)。
当時ってインターネットでエントリーするのが始まったころだったんですけど「インターネットってなに?」って。完全に遅れてましたね。でも、それより映画をつくる方が忙しくて。それで、4月から社会人なのに、結局、直前の2〜3月にちょっとだけ就活して会社に入ったんです。
筧監督が考える「映画内のリアリティ」
ーーここからは映画『トラさん〜僕が猫になったワケ〜』についてお聞きしたいのですが、本作の監督のオファーを受けたときはどう思いましたか?
(C)板羽皆/集英社
この作品は、家族ものであり、ダメな男の再生物語でもあり、いろんな要素のあるお話なんですけど、原作のマンガだと、主人公の寿々男(北山宏光)があたりまえのように猫として生き返るんです。でも、それをそのまま映画化するとなるとほぼ無理というか……。
たぶん、まじめな監督さんなら「これはCGかな」とか「猫の部分だけアニメにする」とか、その線で考えると思うんですけど、今回は猫スーツで出来ないかって、そこも含めてプロデューサーにオファーされたんですよ。要は、「これ、そもそも映画になりますか?」と聞かれたというか(笑)。そこがダメだったら映画としては成立しないというか。
これを全編アニメでやるのは現実的じゃないし、何より主演の北山さんが早々にアニメになっちゃうってありえないじゃないですか(笑)。それで、僕が過去いくつかの作品で犬を擬人化したりしていたので、そういうことであればやったことあるし、可能といえば可能かな?と思ったのが最初でした。
ーー映画に登場する猫の“トラさん”は、猫だからといってサイズが小さいわけでもなく、完全に人と同じ大きさですもんね。なんだったら(妻や娘に比べて)大きいっていう。
どうなってんだって話ですよね(笑)。でも、僕はわりと映画をツッコんで観るタイプの人間で、ツッコめる部分が多ければ多いほど好きなんですよね(笑)。ツッコめるって、要は想像の余地を残してくれているということじゃないですか。
でも、なかには僕がツッコんで楽しんでる部分をマイナスに捉える人もいるんです。僕は「それがおもしろいんじゃん!」って思うんですけど。
たとえば、「娘の実優ちゃん(平澤宏々路さん)にとってはトラさんはどう見えてるのかなぁ?」というのを探りながら観て、観た人が答え合わせをしてくれるというか。
観ている人にはある種の負荷がかかるんですけど、その負荷は“考える余地”でもあるんです。映画って、そういう負荷がかかる部分も含めておもしろかったりするから、こういう表現の仕方っていいと思うんですけどね。
ーー猫を人で表現する際に、いちばん気を遣ったことはどんなことですか?
今作の場合、正確にいうと猫を擬人化しているわけじゃないんですよね。元々は人(寿々男)だったので、猫に見えているけど、本当はずっと寿々男という「人」なんです。猫になった寿々男がたまたま「トラさん」と名付けられただけであって。
なので、あんまり猫にしようとは思わなくて。ただ、観ている人に「なんだ、猫のスーツ着てる北山くんじゃないか」って冷めさせないために、たまに猫の仕草なんかは取り入れるようにしたり……そのあたりは気を遣いました。
確かに苦労はありましたけど、この作品の一番大事なところはやっぱり家族3人の関係性であったり、寿々男が何を後悔しているのかということであったり、そういう気持ちの部分の方が大事なので、意外に演出テクニック的な苦労はそんなでもなかったかなっていう気がします。
キスマイ北山さんは、圧倒的な「陽」
ーー寿々男役を演じられた北山宏光さんはどんな役者さんでしたか?
主演が初めてだそうなんですけど、それが意外というか「こんな人どこにいたんだろう」みたいな(笑)。
もうとっくに連続ドラマの主演をやっていてもおかしくないし、撮影前に舞台を拝見したんですけど、その舞台もすごくよくて。歌手としてや、バラエティタレントとしての部分はなんとなく知ってたんですけど、俳優としてこんなに素敵な人なんだなぁという発見がありました。
映画初出演ということは、“映画ファン”というアングルで見るとまだ見つかっていない方だから、今作で見つかっちゃうんだろうなと思いますね。見つかってほしいですし、ついでに僕のことも見つけてほしいです(笑)。
ーー北山さんの役者としての魅力はどんなところにあると思われますか?
圧倒的な「陽」な感じですね。
むかし、伊丹十三監督がこんな趣旨のことを書かれていました「描き方や脚本の作り方次第で、空き巣を応援することが出来る。それが映画だ」って。つまり、空き巣される側の視点で映画を作れば空き巣はただの悪者だけど、空き巣のバックボーンがあって、なぜ空き巣をするに至ったのかっていうことがちゃんと描かれていたら、観ている人は「捕まるな!」って思うっていう。今作にも少しそういうところがあると思うんです。
陰のある人の方が映画俳優としてはいいってよく言われますし、もちろんそれも一理あるんですけど、今作においては、だらしないことをしていてもなぜか憎めないっていうのは、陰の部分があまり感じられないからこそ、その奥に悲しみがあるというか、奥深いものがあるんじゃないかと思うんですよね。
ーー確かに、寿々男は本当は悲しいはずなのに、それを全然見せないですもんね。
そうなんです。僕が好きなシーンがあって、出版社からマンガのダメ出しをされた寿々男がトボトボと家に帰ったら、こたつで実優が寝てて、実優に毛布をかけてあげるっていう場面で。
子どもにはあんまり落ち込んでいるところを見せられないというか……。しかもそれが本来は明るいものを描く、夢のあるマンガ家っていう職業なのに、必ずしもそんなにいいことばかりじゃなくて。ああいうところがすごくいいというか、(役者として)うまいなぁと思いました。
▼予告編
最後に、今の大学生に一言メッセージをお願いすると、すこし悩んだあとで「たくさん好きになろう!」と、トラさん風のかわいい自身のイラスト付きで書いてくださいました。
「ホントは『たくさん恋をしよう』とか『恋愛しよう』とか書こうと思ったんですけど、なんか、きれいすぎて気持ち悪いじゃないですか(笑)」と話す、意外に照れ屋な筧監督でした。
●プロフィール
かけひ・まさや●1977年11月2日東京都生まれ。日本大学芸術学部映画学科映像コース卒業。2003年、中編映画『美女缶』がゆうばり映画祭グランプリなど、国内の自主映画祭の賞を数多く受賞し、2004年に劇場公開される。2008年、『Sweet Rain 死神の精度』で長編映画監督デビュー。その後、ドラマ『ロス・タイム・ライフ』シリーズ(フジテレビ系)、『豆腐姉妹』(WOWOW)、着ぐるみ表現を使った短編『世にも奇妙な物語〜PETS〜』(フジテレビ系)、『死神くん』(テレビ朝日系)、『素敵な選TAXI』(フジテレビ系)などを手がける。
©板羽皆/集英社・2019「トラさん」製作委員会