「コケない人」より「コケても立ち上がれる人」が勝つ時代。西野亮廣が新著『新世界』に込めた次世代へのメッセージ【第1章試し読み付き】

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取材・文/落合由希
編集/学生の窓口編集部

お笑い芸人・キングコングとしての活動に留まらず、絵本やビジネス書を出版するなどの作家活動も活発に行っている西野亮廣さん。有料会員制コミュニティーであるオンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』の会員数は約1万3000人と国内最大です。

そんな西野さんの視点から、ビジネスや社会の変化を切り取ったのが11月16日に発売となる新著『新世界』。「これから世の中に羽ばたく大学生世代にもぜひ読んでほしい」というメッセージを込めたという本作は、いったいどんな内容になっているのでしょうか。
オンラインサロンの活動で学生と交流することも少なくないという西野さんに、『新世界』執筆に至った背景や、特に大学生世代に、本著を通じて学んでほしいポイントを聞きました。

INDEX
1. サロンはお金と働き方の概念を変える
2. いま作っているのは「町」と「地図」
3. 圧倒的に強いのは「飛び込むヤツ」
4. 「コケないこと」より「立ち上がり力」
5. 【試し読み】『新世界』の本文を一部公開!

オンラインサロンはお金と働き方の概念を変える


――今回、『新世界』を執筆するに至った経緯や意図をお聞かせください。

発端となったのは「オンラインサロンのおもしろさ」を伝えたいという気持ちがあって。オンラインサロンは、月に○○円(『西野亮廣エンタメ研究所』の場合は月に1,000円)払えばそのコミュニティに入れるっていう、言ってしまえば月額制のファンクラブみたいなものなんですけど、オンラインサロンの存在が、おそらく今後世の中のお金の流れや、働き方や、会社の在り方なんかをごっそり変えちゃうだろうなと感じています。

今後世の中に確実にインパクトを与えるものだから、なるべく若いうちに知っておいたほうがいいし、世の中の見方が変わってくるという思いがあったので、「オンラインサロンって実際なんなの?」とか、「オンラインサロンがあることによって、何が生まれて何が廃れるの?」ということをちゃんと書こうと思ったんです。

――西野さんが思う「オンラインサロン」(以下、サロン)運営のおもしろさはどんなところですか?

サロンのオーナー(主催者)が誰かによってそのサロンのカラーは大きく変わってきます。僕のサロンの場合はクリエイターや経営者の方がわりと集まってくるので、なかなか得られない情報が入ってくるのが特色です。たとえば、今VRを開発している人から直接話が聞けたり、上場企業の社長から直接アドバイスがもらえたりとか。

オーナーの僕自身もサロンのスレッドで毎日情報発信をしていますが、そうやって色々な方面から最新情報をインプットできるので、外にいるよりもサロンにいた方が推進力が上がるな、っていうのは最近実感しています。

――ファンクラブと違って、一方通行じゃないところが魅力的ですね。

そうなんです。たとえば僕は”世界で一番楽しい学校“を掲げる「サーカス!」っていうイベントを主催しているんですが、そこでは、サロンメンバーが「お金を払って」運営スタッフをしているんですね。お金を払ってでもこのイベントに関わり、いい仕事をすることで、信用度が上がって仲間もでき、自身の価値が上がる。そうなると、巡り巡って自分の力でお金を得やすくなるんです。

――「お金を払って働く」というのは新しい発想に思えます。

普通はお給料や報酬をもらってその対価として働いている人がほとんどだと思いますが、サロンの中ではもう「お金を払ってでも仕事をしたい」層が出てきている――。優秀な人であればあるほど、自分にとって価値のある仕事を選ぶ時代になり、単にお給料が高いという条件では繋ぎ止められなくなってきていると言えます。そこを把握しておかないと、会社や組織は今後ちょっとつらいかもしれないですね。

いまサロンで作っているのは「町」と「地図」

――実際、西野さんのサロンでは今どのような活動が行われているのでしょうか?

今は地元である兵庫県川西市に、絵本『えんとつ町のプペル』に登場する町を、実際に作ろうとしてますね。「シムシティ」っていう都市を作るシミュレーションゲームがありますが、あれのリアルバージョンです(笑)。

サロンの中にはいろんな部(チーム)があるので、それぞれの部が持っている知見をフル活用しています。不動産部に行って土地を押さえてもらって、建築部に行って設計を立ててもらって……『えんとつ町のプペル美術館』を中心とした、絵本の世界観に沿った景観の町を1個作りあげ、地域活性化につなげるプロジェクトです。

――「えんとつ町」づくり以外には、どんな活動がありますか?

あとは、本の中にも出てきますが、「人検索」ができる地図を作りました。
今やどのお店もサービスが均一化されてきて、お店を選ぶ基準が「モノ(何を売っているか)」から「人(誰が働いているか)」に変わってきています。

そこで、人軸で店を選べるように、働いている人の情報からお店を検索できる仕組みをサロン内で展開しています。具体的に言うと、サロンのメンバーが働いているお店がわかる地図ですね。僕自身も「サロンの○○さんがやっている飲食店だから、行こう」みたいな使い方をします。人検索の地図はサロンに限らず、今後どんどん需要が出てくるだろうなと思いますね。

そんな風にいろんなテーマで「おもしろそう」と思ったことを研究して実践して、うまくいったりいかなかったり……ということを日々繰り返しているのが僕のサロンです。活動のモチベーションになっているのは「見たことがないものを見たい」という気持ちですかね。「実際にえんとつ町を作ったら、どんなものになるんだろう?」とか。まだ世の中にない、見たことがないものを見るために、時間もお金も全部つぎ込んでます。

これからの時代、圧倒的に強いのは「飛び込むヤツ」

――サロンを含め、日々活動の幅を広げている西野さんが、これからの時代で活躍するために重要になってくると思うスキルはなんですか?

やっぱり、人はひとりでは生きられないじゃないですか。なので、周囲の人が参加できる余白を自分の中に作っておかなきゃいけないんじゃないかと思います。「あいつだからしょうがねぇな」って、協力したくなる余白というか。

それってどういうヤツかというと、やっぱり「飛び込むヤツ」ですね。危なっかしいヤツ。コケかけてるヤツです。過去の成功体験に留まるんじゃなくて、次のポジションを取りにいかないと、仲間は増えないしひとりで何もかもやらなきゃいけなくなる。
飛び込むヤツが圧倒的に強いですね。そこに人が集まってくるんで。

僕の場合、「『えんとつ町のプペル美術館』を作る」と言って土地を買ったものの、まだ更地。これから上物を建てなきゃいけないんですね。で、美術館を作るのに15億円かかるんですけど、その15億円の集め方がまだわかってないんです(笑)。でも、そんな感じで突き進んでいると、「しょうがねえな」って手を差し伸べてくれる人も集まってきて。

――普通、15億円の資金繰りの見通しがある程度立ってからじゃないと怖くて動けないと思うんです。

そもそも「見通しがついてから動こう」っていうスタンスでいると、町なんていう巨大なものはいつまでたっても作れないんですよね(笑)。

――『新世界』に書かれているように、「町を作っていく過程も見せる」という発想もおもしろかったです。確かに「今しか見られないもの」に人は価値を感じますもんね。

たぶん、美術館を作ってる途中で、失敗はむっちゃあると思うんです。「うわ、ここ先に建ててもうたけど、この道幅やったらトラック通れへんやん!」みたいな(笑)。でも、そんなストーリーもいちいちネタになるし。そうやってなんでもおもしろがれるんですよね。

だからやっぱり飛び込むヤツ、人間っぽいヤツが今後は活躍すると思います。

「コケないこと」より「立ち上がり力」を身につけて

――本書を読むとき、特に大学生読者に意識してほしいポイントはありますか?

まずはお金のことですね。今の大学生はお金オンチのまま社会に出ようとしてるんで、まず間違いなく苦しむと思う(笑)。だから、「お金っていったいなんなんだ?」とか「どういう時に発生するんだ?」とか、そういうことを知って「自分でお金を作れるカラダ」になっておいた方がいい。なので、本書の第1章では「お金ってこういうものだ」ということを全部書きました。

――そういった意味で、大学生活を有意義なものにするにはどうすればいいと思いますか?

クラウドファンディングをやってみるといいかもしれないですね。別にテーマはなんでもいいんですよ、「北海道旅行に行きたい」でも。すると、お金の動き方とか、「なんで同じような企画をやってるのに、僕には流れてこなくてあの人にはお金が流れていくんだろう?」とか、その違いが見えてくるんで。小規模でいいので、一度やってみると人からお金をもらうことがどういうことなのか見えてくると思います。

――ほかに、将来に向けて、大学生が学生時代に取り組んだ方がいいと思うことはありますか?

「捨て癖」をつけておくといいと思います。今のまま社会に入ってトントン拍子にうまくいったら、だいたいそこにしがみつくと思うんですけど、何年かに1回は今持っているものを捨てないと、新しいものが入れられないじゃないですか。

それと「コケないこと」より「立ち上がり力」を身につけた方がいい。そのためにはやっぱり何度も、そしてなるべく早いうちにコケなきゃいけない。コケても、しっかり受け身をとれる体になってたほうがいいんです。これも今のうちにやっておかないと「しがみつき癖」みたいなものがついちゃうし、そうなっちゃうと身動きがとれなくなって、時代とともに、消えていっちゃう。。

――特に大学生はまだ若いし、失敗しても大丈夫ですよね。

たしかに、大学生ができる失敗なんかたかが知れてるんで。だからやっといたほうがいいと思う。大学時代の失敗なんか、絶対取り返せます! あとはネタを作っておいた方がいいですね。「あんな失敗した、こんな失敗した」って。それがやっぱり説得力につながるんで。

――失敗も財産になる?

そうですね。失敗を売ればいいんです。たとえば、芸人が話す失敗エピソードトークなんていうのも、あれは自分の失敗を売っていることになりますよね。失敗しても、それを稼ぐことにつなげる方法はいくらでもあります。

――サロンで大学生と関わることもあると思いますが、今の大学生について思うことはありますか?

サロンに「大学生部」っていう、大学生しか入れない部があるんです。そこはおもしろいですね。お金を渡しても、まだ使い方がヘタなんでむっちゃ失敗するし(笑)。でも、彼らが失敗することはたぶん他のサロンメンバーもわかってるんですよね。経営者の方もたくさんいらっしゃいますし。「大学生に挑戦させようよ」みたいなノリになってるので、失敗を承知のうえでまず任せるという。

今度五反田に貸し会議室を作ろうと思って物件を借りたんですけど、そこはたぶん大学生に運営を担当してもらいます。まぁ、最初はむちゃくちゃ失敗すると思うんですけど(笑)。

――そんな風に、サロン内で若い人が失敗しながら経験を積んでいくと、10年後、20年後にどんな人材が育っていくのか楽しみですね。

そうですね。大学生は、むっちゃおもしろいです。今の時点ですでに、少なくともボクよりは絶対優秀だと思います。話していて「あいつら、すげえこと考えんな」って思うことばっかりなんで。僕らの世代とは明らかに違っているのが、小さいころからインターネットを通じて世界とつながってるじゃないですか。だから、話のスケールが違いますよね。「どうやったらGoogleを倒せるんだろう」とか平気で言うんです。
僕らの時代に「イタい」って言われるヤツは「お笑いで天下取んねん」って言うヤツで、それが「イタい」の最上級やったんですけど、今「どうやってGoogleを倒すか」とか「どうやったら戦争を終わらせられるんだ」とか、そっちになってきていて、スケールが違うんですよね。たぶん、彼らが見てる世界は僕のとは全然違うんだろうなと思うし、僕はもう、年下から教わることばっかりです。

サロンというのは出入り自由なので、必要がなくなったら出ていってもいいと思うんですけど、でも僕は最終的には、その大学生たちの子分になりたいというか…(笑)。いまの彼らはめっちゃ失敗すると思いますが、いずれ僕が養ってもらわなきゃいけない側になるんで(笑)、そんな将来に向けての投資です。

――では最後に「最初の一歩が踏み出せない」大学生へのエールをお願いします。

今の時代で勝ってる人を見ればわかりやすいと思うんですけど、絶対、「コケたもん勝ち」なんです。ホリエモンもコケてるし(笑)。逆に、過去にコケた経験がない人は、最終的には全員負けてるんで。だから、コケてコケて、経験して、ネタを作って……。言い方を変えると、ストーリーがある人が勝つってことですね。ストーリーがないと人が寄ってこないんで。

僕なんかが大学生に偉そうなこと言えないけど、とにかく一歩を踏み出して、「負けるが勝ち」じゃないですけど、ストーリーを作りにいってほしいですね。

【試し読み】新著『新世界』の本文を一部公開!

ここでは特別に、新著『新世界』の第1章「貯信時代」より、本文の一部を無料公開。第1章には、インタビューにも登場した「お金オンチ」を脱するために知っておきたい考え方が、西野さんと「ホームレス小谷」さんとのエピソードを通じて書かれていますので、ぜひ試し読みしてみてはいかがでしょうか。

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キミは「ホームレス小谷」という男を知ってるかな?
その名のとおりホームレスなんだけど、キミがイメージしているホームレスとは少し違うかも。

彼は、この5年で25キロ太って、毎日好きなものを食べて、毎日好きな場所に行っている。
先々週はハワイにいたし、先週は台湾にいたし、今週はネパールにいて、来週はスリランカ。
来月はタイとパリとニューヨークで呑むらしい。
ホームレスなのに、なんだか楽しそうだ。
ね。
キミがイメージしているホームレスと、ちょっと違うでしょ?

そして、ここがポイント。
彼は、お金を持っていないけど、お金に困っていない。

「これまでのお金の常識」からすると、ここが大きく矛盾してるよね?
ボクらがお金に困るタイミングというのは、お金が無くなったタイミングだったハズだ。

だからボクらは、お金に困らないように「貯金」をしてきた。
だからボクらは、お金に困らないように労働の対価として、なるべく大きなお金を求めてきた。
お金が無くなったら、お金に困るからだ。

ところが、ホームレス小谷は、お金を持っていないのに、お金に困っていない。
お金がなくても、お金に困らないので「貯金」なんてしない。
労働の対価として、お金を求めない。
おかしくない?
なんで、そんな生き方ができちゃうんだろう?

その理由は、彼が「現代のお金」の形を正確に捉えて、それに合わせた生き方をしているから。
彼の生活を追いかけると、「現代のお金」の姿が見えてくるので、駆け足で紹介するね。

話は5年前に遡る。
芸人として売れあぐねていた彼に、こんなことを言ってみた。

西野「芸人を辞めて、ホームレスになって、その生活を生配信しちゃいなよ」
小谷「ホームレスですか?」
西野「うん。ホームレスの生配信って、地球人で、まだ誰も見たことがないじゃない?いいキッカケになると思うよ」
小谷「とりあえず、やってみます」

何でもかんでも、とりあえずやってみるのが、彼の才能だ。
そんなこんなで、彼のホームレス生活が始まった。

ホームレスの生配信は、すぐに話題になった。
今夜の寝床を探したり、炊き出しの列に並んだり、炊き出しの献立を発表したり…そのイチイチを生配信したんだ。
でも、ボク的には1ヶ月で飽きちゃった。
自分からやらせといて、ホント、勝手だよね。

西野「ホームレス生配信は、ちょっと飽きちゃったので、次に進もうよ」
小谷「何をすればいいっすかね?」
西野「ホームレスで社長になっちゃえばいいんじゃない?」
小谷「でも、僕、売るものが何もないっすよ」
西野「ネットショップで、自分の一日を売ればいいんじゃない?
何でもやる『何でも屋』さん」
小谷「一日、いくらで売りましょう?」
西野「できればゼロ円で売りたいところだけど、ネットショップだとサイトの
手数料の関係でゼロ円は無理なハズなんだよね」
小谷「なるほど」
西野「ネットショップで設定可能な最安の価格っていくらだろ? ちょっと調べてみて」
小谷「…50円です」
西野「オッケー。じゃあ、小谷君の一日を50円で売ろう!」
小谷「一日50円って、生活していけるんですかね?」
西野「そこは後で考えよう」
小谷「とりあえず、やってみます」

何でもかんでも、とりあえずやってみるのが、彼の才能だ。
そんなこんなで、ホームレス小谷の日給50円生活が始まった。
日給50円

50円で、草むしりだってするし、ヌードモデルもするし、iPhoneの新作発売の列に丸々1週間並んだりもする。
日給50円って、ちょっとイヤだよね?
一日働くなら、8000ぐらい欲しくない?
いや、1万円ぐらい欲しくない?
ところが、ホームレス小谷は50円しか受け取らない。

さて、これが、どうなったか?

最初は皆、「ウチの庭の草むしりをお願いしま〜す」といった軽いノリで50円で彼を買う。
しかし、彼が朝からよく働くもんだから、購入者は「さすがに50円で働かせてしまって申し訳ない」となり昼御飯をご馳走してくれた。

ホームレス小谷は、よく食べる。
キチンと「おかわり」もする。
そして、再び仕事に戻り、夜までよく働く。
30半ばの男を50円で丸一日働かせてしまった購入者は更に申し訳なくなって、夜御飯もご馳走してくれた。
ホームレス小谷はよく食べる。おかわりもする。

昼と夜の食事を共にすると、すっかり仲良くなっちゃって、購入者の方から「軽く呑みにいきませんか?」と声がかかるのがお決まりの流れ。

この時点で、購入者は、昼飯代を出して、夜飯代を出して、飲み代も出している。
50円どころか、そこそこの金額を彼に支払っている。
ところが、購入者の口からは出てくる言葉は、いつもこれだ。

「小谷さん、今日は本当にありがとう」

これね、日給を1万円(労働量に見合った価格)に設定していたら、こうはなってなかったと思う。
「1万円も支払っているのだから、それぐらい働いて当然でしょ」って感じで、ホームレス小谷との関係は、そこで終わっていたハズ。

だけど、ホームレス小谷がお金を受け取らないもんだから、彼を買った人間は別の形で恩を返そうとした。
ホームレス小谷の購入者は、彼に「ありがとう」と何度も何度も言ったんだ

これまでボクらは労働の対価として「お金」を受けとってきた。
でも、ホームレス小谷は違う。
「お金」を受け取ること(お金を稼ぐこと)を放棄して、その代わりに「ありがとう」と言われ続けた。
「信用」を稼ぎ続けたんだ。

さて。
そんな生活を半年ほど続けていた、ある日のこと…

ホームレス小谷が結婚した。

お相手は、50円でホームレス小谷を買った名古屋在住の女の子「モンちゃん」。
仕事の依頼は「鬼ごっこの人数合わせ」。

ホームレス小谷はヒッチハイクで名古屋まで行き、「モンちゃん」や、その友達と丸一日鬼ごっこをして、翌日に「モンちゃん」と一緒に東京に戻ってきて、そこで籍を入れた。
出会って二日目の話だ。

お察しの通り、この物語の登場人物で誰よりも頭がイカれているのは、ホームレス小谷ではなく、ホームレス小谷と結婚をした「モンちゃん」だ。
どのビタミンを摂取したら、出会って二日目のホームレスと結婚することになるのだろう?
今度、モンちゃんに訊いとくね。

本題はここからだ。

籍を入れた翌朝に、ホームレス小谷から相談を受けた。

小谷「西野さん、モンちゃんの為に結婚式を挙げたいです」
西野「そりゃそうだね。絶対にやろう」
小谷「でも、結婚式を挙げる『お金』が無いんです」
西野「結婚式って高いの?」
小谷「200〜300万円ぐらいです」
西野「高いね。小谷って月にどれくらい稼いでるんだっけ?」
小谷「一日50円で売ってるんで、一ヶ月マックスで1500円です」
西野「即死じゃん」
小谷「死にました」
西野「じゃあ、クラウドファンディングで結婚式をしようよ」
小谷「クラウドファンディングで結婚式っすか?」
西野「うん。そもそも結婚式って参列者から、ご祝儀を貰ってんじゃん?
あれこそがクラウドファンディングだよ」
小谷「なるほど」
西野「『4000円支援してくださったら、僕の結婚式に参加できます』というお返しを
用意して、クラウドファンディングで結婚式を挙げよう。
小谷は結婚式を挙げることで1円も負担しなくていい」
小谷「とりあえず、やってみます」

こうしてスタートしたホームレス小谷のクラウドファンディングには、なんと3週間で250万円が集まった。
これは5〜6年前の話で、まだ日本人の99%が「クラウドファンディング」を知らない時代だ。
そんな時代に、名もなきホームレスが3週間で250万円を集めた。
彼に支援をしたのは一体誰だ?

正体は、「ホームレス小谷を50円で買ったことがある人達」だった。

これまでホームレス小谷を50円で買った人達が、「あの小谷さんが結婚式を挙げるのなら、4000円ぐらい喜んで」と一斉に支援を始めたんだ。それは、彼が半年間貯め続けた「信用」がお金に換金された瞬間だった。

はい。ここがポイント。

ホームレス小谷は『お金持ち』じゃなかったけど、『信用持ち』だった。
信用の面積がバカでかいから、「クラウドファンディング」という「信用をお金に換金する装置」を手にした時に、お金を作りだすことができた。

以降、ホームレス小谷は20〜30回ほどクラウドファンディングをしているけど、全て成功している。
彼が、お金が無くても困らない理由は、自分のタイミングでお金を生むことができるから。

ここで押さえておきたいポイントは、クラウドファンディングは「お金を集める装置」ではなく、「個人の信用をお金に換金する装置」だということ。
換金するモトとなる「個人の信用」がなければ、クラウドファンディングでお金を作ることはできないんだ。

今、クラウドファンディングやオンラインサロンといった「個人の信用を換金する装置」が次から次へとポコポコ登場している。
信用さえあれば、お金が作れるようになってきた。
『信用持ち』は現代の錬金術師とも言える。

お金を貯めた人間ではなく、信用を貯めた人間があらゆるメリットを受け取れる時代が幕を開けた。
覚えておくといいよ。
貯信時代だ。

※この原稿は2018年8月に執筆したもので、『新世界』では加筆・修正が行われています。

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『新世界』(KADOKAWA)
著者:西野亮廣
定価:1,500円(本体1,389円+税)
発売日:2018年11月16日

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