著名人の方々に大学時代のエピソードを伺うとともに、現役大学生に熱いエールを送ってもらおうという本連載。今回のゲストは、800年以上の歴史を持つ刃物の都、岐阜県関市に生まれ、キッチン用品、製菓用品、ビューティケア用品といった生活用品から、医療用品や業務用刃物まで、1万点にもおよぶアイテムを日本国内、世界各地へと展開する『貝印株式会社』の代表取締役社長・遠藤宏治さんです。来年には創業110周年を迎える老舗の3代目として生まれた遠藤社長は、一体どのような学生時代を過ごしていたのでしょうか？

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大学へ入学したときから海外留学を考えていた

――どのように大学や学部を選んだのですか？

私は岐阜で生まれ育ったこともあり、東京の大学に憧れを抱いていました。当社は祖父が創業した会社ですので、学生のころから、将来は家業に携わっていくという自覚はありましたね。そこで、経営を勉強するために早稲田大学政経学部経済学科へ進学しました。でも、いざ入ってみると、近代経済学などは数学や統計理論などの分析が多くて、典型的な文系人間だった私はけっこう苦労した思い出がありますね。

――当初から経営について学ぼうと考えられていたのですね。

そうですね。あと、学生のころはちょうどアメリカ西海岸のカルチャーがブームになっていた時期だったこともあり、また高校生のときに短期の交換留学でロサンゼルスやサンフランシスコへ滞在したこともあり、将来は海外へ行って外国人と英語で自由にコミュニケーションしたいなと思っていましたね。そこで、親には浪人をしないという条件で、大学進学時点で卒業後は海外へ行かせてほしいと頼んでいました。

――入学当初から海外留学を考えていたのですね！ 学生生活はどのように過ごしていましたか？

ご多聞にもれず、大学近辺の雀荘にこもって遊んだりする普通の学生でしたよ。気が向いたときにテニスやゴルフをしたりする自由なサークルにも入り、そうした活動を通じて人とのネットワークを広げていきました。後々の事業のことを考えたわけではなく、気の合う人たちと自由に過ごしていた感じです。ただ、いま振り返ると、あれだけ時間があったわけだからもっと知らない場所へ行ったり、たくさんの人に会えばよかったと思いますね。交友関係は広かったほうだと思いますが、もっといろいろなことができただろうと感じます。

――なにか思い出に強く残っていることはありますか？

友人と2人で、まったく無計画にアメリカを2カ月ほど旅行しました。彼は高校の同級生で、社会へ出て10年後に当社へ入社し、いまは当社の専務を務めています。そんな親友と自由気ままに、その日の宿泊場所を探したり、行程を考えたりしながらアメリカ中を旅しました。憧れのロサンゼルスから始めて、フェニックスへ向かい、その後はラスベガスやグランドキャニオン、そしてニューオーリンズやシカゴ、ニューヨークにも行きましたね。最後は旅の締めくくりにハワイでのんびりしていたら、日本から「いつまでやってんだ」と連絡が入って（笑）。セットされた旅行ではなく、なんでも自分たちで決めて行動したのがいい経験になりました。

――それはおもしろそう！ でも、ずいぶん仲がよかったんですね。

いや、男2人で2カ月も一緒にいれば、けんかもしますし、いろんな思い出がありますよ。忘れられないのは、グレイハウンド（長距離バス）でラスベガスに着いた夜のことで、ホテルがなかなか見つからなかったんです。そして、ようやく探し当てたのがダブルベッド一部屋。仕方がないので泊まることにしたのですが、ただ、いくら親しいとはいえ、男2人ダブルベットで寝るのもどうか……ということで一考し、カバーと毛布で壁を作る要領で互い違いにベッドに入り、体が触れ合わないようにしました。そんなことに2人で知恵を絞って、一夜を共にしたことがあります（笑）。

――エキサイティングな経験をたくさんされたのですね……。

当時は学生の海外旅行は一般的ではなく、チャレンジというほど大げさなものではないのですが、いろいろな失敗もしたし、とてもいい経験になりましたね。アメリカという国はやっぱり広くて、何か新しいものを取り入れていく気風や息吹みたいなものを感じました。