石油が枯渇しないのはなぜ?専門家に聞いたメカニズムと石油資源延命の努力
「石油はあと○年で枯渇する」という話は、1970年代の石油ショック以降、繰り返し流れている噂です。
噂は流れるものの、「本当になくなってきた」という話は聞きませんよね。最近では、石油が枯渇するのかどうかよりも環境への配慮から脱炭素社会が叫ばれるようになってきています。
原油資源の枯渇問題について、JOGMEC 広報課の荒井智裕さんにお話を伺いました。
JOGMEC(独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構)は日本の安定的な資源確保のためにさまざまな活動を行っている組織です。
活動には新たな資源探査、技術開発、民間の資源開発企業支援などの業務も含みます。
※こちらの記事は2015年に取材・公開したものに最新情報を追記しリライトしたものです。
石油がなくならないのは何故なのか
――石油ショックのころから「○年後に石油が枯渇する」なんて話がずっとあるのですが、枯渇したという話は聞きません。これはどうなっているのでしょうか?
荒井さん 原油の需給バランスでいうと現在(2015年取材時)は供給過剰で、つまり原油はだぶついている状況です。そのため原油価格は安価です。1バレル当たり40-50ドルといった価格になっています。例えば2014年7月には1バレル100ドルを超えていたわけですから、信じられないぐらい安価になっています。
――現在(2015年取材時)、原油は余っているんですね。
荒井さん はい。で先ほどの質問に戻りますが、枯渇するといわれてきたのに枯渇しない理由は主に2つです。
- ●探査によって新しい油田・油井が発見されたこと
- ●開発、採掘技術の発達で生産性が向上していること
例えば、いわゆる「シェールオイル革命」は、新技術の開発によって今まで採取できなかったところから原油を採取できるようになった成果です。
――「シェールオイル」は大きく取り上げられましたね。
荒井さん はい。エポックメーキング(画期的)な出来事でした。ただ、シェールオイルの採掘は原油価格が100ドルを超えているからこそできたことなのです。現在のように原油が40ドルといった価格では採算割れといわれています。
――つまり、シェールオイルはコストが高いと。
荒井さん それまで採掘できなかったところから原油を採取する技術ですからコストが高いのです。原油価格の低迷のため、(アメリカの)採掘リグの稼働数が減っているというデータがあります。また、既存の原油開発プロジェクトへの石油会社の投資も減少しているという現象が起こっています。
埋蔵量から石油があと何年持つのか算出できる
――あと何年原油が枯渇しないで持つか、という計算はどうやって行うのでしょうか。
荒井さん 採取できる原油がどれくらいの量あるかを「可採埋蔵量」といいますが、これと原油の生産量の、年ごとのデータがあります。生産量は消費量ですから、原油可採埋蔵量を生産量で割れば、(ざっくり)あと何年持つかが計算できるわけです。
- ●1987年 原油可採埋蔵量:939 原油生産量:22.2 ⇒ 42.4年
- ●2011年 原油可採埋蔵量:1,652.6 原油生産量:30.5 ⇒ 54.2年
- ●2017年 原油可採埋蔵量:1,696.6 原油生産量:33.8 ⇒ 50.2年
- *……単位:10億バレル
- *2018年以降の年間原油生産量には天然ガス液(NGL)も含まれるため2017年までとした
つまり、1987年では「あと42.4年で原油は枯渇する」と考えられましたが、その24年後の2011年には「あと54.2年で原油は枯渇する」と考えられたわけです。
――なるほど。
荒井さん このように、1987年と比較すると2011年では埋蔵量も生産量も増えています。これは先ほど申し上げたとおり、探査技術、開発技術の向上がもたらした結果なのです。2015年のデータでは、
- ●2014年末の原油可採埋蔵量:1,700.1
- ●2014年の原油生産量:32.4
- *……単位:10億バレル
となってますので、あと「52.5年」持つことになります。
中東の石油が枯渇したら?「石油は有限」という意識は変わらない
――枯渇するという年がどんどん先に延びていっているのですね。
荒井さん はい。ですが、原油資源は「有限」ですので、いつかは枯渇すると思っていなければなりません。また、中国、インドなどの国で石油の消費量はこれからも上がっていくと思われます。ですから枯渇に備えて手を打っていかなければなりません。
――なるほど。水素社会が一足飛びに来るわけではありませんものね。
荒井さん 私どもでも「21世紀も続く炭化水素の時代」というリポート*を出していますが、21世紀に入ったこれからも石油が大事な資源であることに変わりありません。特に日本は原油資源の多くを海外に依存しています。この確保は大きな問題です。
2015年4月には、日本企業がアブダビ陸上油田の権益の一部を確保しました。私どももお手伝いさせていただきましたが、これは大きな出来事です。このような事例をこれからも増やせるように、私たちJOGMECも努力していかなければならない、と考えています。
――ありがとうございました。
原油資源は今日明日に枯渇するという状況ではありません。しかし、有限資源と考え、たゆまぬ技術開発を行っていくことが重要なのですね。
*2020年12月には「2050年カーボンニュートラルに向けた JOGMECのCCS事業の取組み」というリポートを、2021年には「JOGMECカーボンニュートラル・イニシアティブ ~基本方針と具体的行動計画~」を出している