落語経験3年未満で全国優勝! 学生落語日本一の大阪大学の寿山安紀さん(銀杏亭福豆)に話を聞いてみた!
落語ブームが続いているといわれます。若い世代が落語に興味を持ち、寄席や落語会に足を運んでいるそうです。観客も増加していますが、落語家になりたいという人も増えているとか。大学の落語研究会に入って「学生噺(はなし)家」となる人も少なくありません。今回はそんな「学生噺家」の頂点に立った大学生にインタビューしました。
「第12回 全日本学生落語選手権『策伝(さくでん)大賞』」で優勝した、大阪大学基礎工学部3年生の寿山安紀(すやまあき)さんにお話を伺いました。寿山さんは「銀杏亭福豆(いちょうていふくまめ)」の高座名で噺家活動を続けてこられました。
――寿山さんが落語を始めたきっかけは?
寿山さん 中学・高校のときに「映画部」に入っていました。映画を製作するのですが、人数が足りないため自分たちで演じることもやっていました。その経験があったので大学に入ったら「何か表現するサークルに入りたい」と思っていました。
「演劇部」も考えたのですが、一方で「伝統芸能」にも興味があったものですから、「狂言」「落語」などの選択肢がありました。「落語研究部」を選んだのは雰囲気が良かったからですね。
――ということは、落語の世界に触れたのは大学に入ってからですか?
寿山さん そうですね。もちろん落語がどんなものかは知っていましたし、学校に落語家さんが来て高座をみんなで見るという経験はありました。でも落語について深く知るようになったのは大学で落研に入ってからです。自分でやるようになってから本格的に聞くようになりました。
――大学に入ってから本格的に落語を聞き始めて3年未満で全国大会優勝というのはすごいですね。落語のけいこはどのようにするのでしょうか?
寿山さん 大阪大学の落研では「師匠と弟子」という関係はないんです。先輩二人にはなすのを見てもらってけいこをします。
――なるほど。落語のけいこというと、師匠と弟子が一対一で行うイメージがありますが。
寿山さん そうですね。大学によってけいこのスタイルはいろいろなんです。師弟関係があったりして一対一で見てもらうところもあるし、大勢で一人のネタを講評するところもあるみたいです。いわれてみると「二対一」というのは珍しいかもしれませんね。多くの人に見てもらって批評された方がけいこになるという理由で、先輩二人に見てもらうのですが。
――落研のけいこのスタイルが大学によって違うとは知りませんでした。
寿山さん うち(大阪大学 落語研究部)では自分のやりたいネタごとに先輩を変えて見てもらうようになっています。
――好きな落語家さんはいらっしゃいますか?
寿山さん 桂文珍師匠、桂南天師匠、桂紅雀師匠などです。南天師匠、紅雀師匠の高座はよく聞きに行きます。落語は「好き」というのが難しいです。「この人のこのはなしが好き」というふうになりますので。
――では、一番好きな演目は……。
寿山さん 文珍師匠の『不動坊』です。
――寿山さんは何本ぐらいネタをお持ちですか?
寿山さん 9本です。うちの落研では、通常、1年生のときに4本、2年生の時に3本の、計7本のネタを下ろす、つまり、けいこして部の寄席で実際にやります。3年生の間は原則ネタ下ろしはないのですが、私は欲張ってもう2本下ろしました。
――寿山さんが得意なネタを教えてください。
寿山さん 得意というより好きなネタになりますが……『船弁慶』は好きですね。けっこう長くて30分を超える大ネタですが、強烈な奥さんが出てきたり、季節の情景があったりと、やりたいことが全部入っている噺なのです。
お客さんにウケるネタという意味で好きなのは『千早ふる(ちはやふる)』『いらち俥(ぐるま)』。『書割盗人(かきわりぬすっと)』『松山鏡(まつやまかがみ)』も好きですし。
――その『松山鏡』で優勝されたわけですが、優勝が発表されたときの気持ちはいかがでしたか?
寿山さん 最高にうれしかったですね。3年の12月で引退ですから、最後の全国大会として臨みました。それで最高の結果でしたから。
――来年(2016年)は4年生ですが、これで落語からは引退でしょうか?
寿山さん そうですね。いったん引退ですね。中学・高校の理科の先生になりたいという希望はありますが、会社に入るかもしれませんし、また研究者の道に進むかも。ちょっとまだ将来はわかりませんが、落ち着いたときにまた落語ができたらと思います。
――なるほど。落語の魅力とは何でしょうか?
寿山さん リアルタイムで評価してもらえることだと思います。はなしたことが面白かったらすぐに笑いが返ってきます。自分がどのくらい面白いかがその場ですぐわかる、これが魅力ですね。
――ありがとうございました。
寿山さんは、さすがは学生噺家というはきはきと語られる人でした。落語は一段落というお話でしたが、この先どんな道に進まれてもその優れた話芸はきっと役立つのではないでしょうか。
写真提供:寿山安紀さん
(高橋モータース@dcp)