私が幼い頃に、実家が暖房として使っていたのはエアコンの温風ではなく灯油ストーブだった…|エッセイ企画「#Z世代の目線から」キーワード:ほっとするもの
エッセイキーワード:ほっとするもの
エッセイタイトル:『灯油ストーブ』/著者:幸人 さん

私が幼い頃に、実家が暖房として使っていたのはエアコンの温風ではなく灯油ストーブだった。
ストーブのスイッチを押すとちちち、と音を立てて数秒後にぼっ、と火がつく音が聞こえる。よく見ると、青白い火がゆらゆらと揺れているのが見える。
私はそれが好きだった。
じっと見つめるとゆらゆらと燃える青白い炎と、それから、灯油が燃える匂い。
幼い頃に実家が使っていたその灯油ストーブは、窓の近くにあった。カーテンを開けると滅多に降らない雪で白くなった景色が広がっていたのと、結露で床がびしょびしょに濡れていたのを覚えている。
幼い頃の記憶というのは案外この体が覚えているようで、灯油の匂いがすると家に帰ってきたとホッとしてしまうと同時に、今年も冬が来たと思う。
当時の私は、なぜエアコンに変わってしまったのかわからない。確かに灯油ストーブで怪我をしたこともあったし、定期的に窓を開けないといけないのは不便なものだ。エアコンはそんなこともないし、案外暖かい。文明の発展には目を見張るものがある。
けれども、時々だが灯油ストーブの匂いが恋しくなる時がある。祖父母宅では、未だに灯油ストーブを使っているものもあるだろう。幼い頃を思い出して懐かしいのだ。
今、陽が傾く時間がはやくなっている。陽が落ちると、冷たい風が体に纏わりついてくる。それが嫌だと思うと同時に、その冷たい風に乗って灯油の匂いがすると幼い頃の記憶が呼び起こされる。
そして、私はエアコンのある家に帰りたくなるのだ。
著者: 幸人 さん |
学校・学年:人間環境大学 4年 |
著者コメント:灯油ストーブは私の幼い頃の冬の記憶と結びついています。けれど、今はエアコンしか使っておらず、それが普通です。それが今の私の冬の記憶です。これがおそらく時の流れであり、自分の成長なんだと思います。 |