ミッションは「培養ステーキ肉」を作ること! 世界が注目する研究の裏側を日清食品ホールディングスの若手社員にインタビュー
2017年新卒入社
経歴:東京大学との共同研究である「培養ステーキ肉」プロジェクトを担当。世界初のサイコロステーキ状ウシ筋組織作製に成功するなどプロジェクトを牽引している。
「将来の“なりたい自分”がまだわからない」という悩みを抱えるみなさんに、いろんな企業で活躍する先輩たちの姿を通してロールモデルを見つけてもらう企画「#先輩ロールモデル」。
今回は日清食品ホールディングスで働く先輩社会人にインタビュー。東京大学との共同研究である「培養ステーキ肉」プロジェクトを牽引する古橋麻衣さんに、日々の仕事内容や学生時代に取り組んだことについてお話を伺いました!
――古橋さんは、どんな学生時代を過ごしていたのでしょうか?
学部時代は女子ラクロス部でバリバリ頑張っていて、「学業より部活!」というタイプの典型的な体育会系でした(笑)。大学4年生からは研究室に所属し、大学院も含めて研究一筋。研究室では食品の機能性などについて研究していて、丸1日実験室にいるような生活を送っていました。
――学生時代に一番頑張ったことは何でしょう?
ラクロスです。私はあまり上手くなかったのですが、仲間と一緒に地区大会制覇を目指しつつ、部の制度を改善したり、メンタルやフィジカルを強化するチームを立ち上げたりするなど、いろんなことに取り組みました。
ラクロスって、一般的には「キラキラした大学生のスポーツ」というイメージがあるかもしれませんが、身体がぶつかり合うスポーツなのでフィジカルも大事なんです。体幹が整っていないと、ディフェンスもオフェンスもできません。基礎的なところから身体を作って、そこに心・技・体を加えたトレーニングを取り入れました。
――仕事で役立っている学生時代の経験があれば教えてください。
部内でいろんな人とミーティングを重ねて議論してきた経験は、今も活きています。100人くらい部員がいる部活だったのですが、4年生で残っているメンバーは15人もいなかったので、それぞれがたくさんの後輩たちの面倒を見ないといけませんでした。本当にいろんなタイプの部員がいたので、彼らと接しながら磨いたコミュニケーション力は社会人になってからもそのまま活きていると思います。
――何か就活前にやっておいたほうがいいことがあれば教えてください。
アピールポイントをちゃんと持つことは大事だと思います。私は就活を始めるのが遅かったのですが、その分、大学でしっかり研究に取り組んだので、「企業に入って研究を続けたい」という思いは面接で伝えました。もちろん、研究ではなく、部活やアルバイトなどでもいいので、何か「こんなことを頑張った」とアピールできるものがあるといいのではないでしょうか。
――今の会社を選んだ理由を教えてください。
もともと、希望業種は食品メーカー一本に絞っていて、「あまりお堅くない会社がいいな」「楽しく仕事できそうなところがいいな」なんて考えながら就活していました(笑)。日清食品は社員の雰囲気もよかったですし、説明会も個性的だったので、「ここなら何か面白いことができそう!」と思って選ばせてもらいました。
――今のお仕事の内容について教えてください。
ウシの培養肉の研究開発をしています。普段食べているお肉は、食用の畜肉として育てた動物のお肉ですよね。培養肉というのは、動物から少しだけ細胞を取り出して増やし、増やした細胞を用いて肉の組織を培養して作ったお肉のことを指します。
――研究はどこまで進んでいるんですか?
今年ようやく、「食べられる培養肉」の作製に成功しました。実は、これまで培養肉は食用ではない研究用素材で作製していて、研究課程であっても食べられる制度がなかったのですが、今年初めて口にすることが出来ました。
まだまだ培養肉はお肉の脂肪分や味といった部分が再現できていないので、味もかなりあっさりしていますが、将来的に代替肉にしていけそうな噛みごたえは感じられました。現在は、2025年3月までに、7cm×7cm×2cm、約100gの大型の培養肉を作れる技術の確立を目標に研究開発を努めています。
――このお仕事ならではの特徴的な作業は何でしょう?
細胞を培養したり、お肉の組織を作ったりするなど、細胞工学や分子生物学の研究所が取り組んでいる実験に近いことをしています。ウシの細胞を育てて組織化するというのは、世界的にも珍しい研究として注目されています。
――今のお仕事のやりがいは何ですか?
多くの人を巻き込みながら実験ができていることに面白みを感じています。割と最近まではひとりで組み立てながら実験を進めていて、それはそれで楽しかったのですが、共同研究などでいろんな人が関わってくると、また違った面白さが出てくるんです。
また、「細胞をもっとこうしたら上手く培養できるんじゃないか」と仮説を立てながら研究に取り組んでいるので、その仮説が当たれば嬉しいですし、楽しいですね。商品化まではまだ先が長いのですが、ひとつひとつの実験で、成功や失敗の楽しさを感じながら、日々新しいことに取り組めています。
――仕事の面白いと思う点や魅力について教えてください。
研究の醍醐味は、毎日新しいことを試せて、より良い物を作っていけることだと思います。基本的に、研究というものはすぐに結果が出るものではありません。「培養ステーキ肉」もまだ誰も成功していませんが、世界的にこの分野のトレンドは大きくなっていますし、意外なところで結果が出るときもあるので、そうした瞬間に面白みを感じますね。
――この仕事に求められるスキルは何でしょう?
根気強さでしょうか。結果が出るまでの過程を楽しめる人が向いているのかなって思います。コミュニケーションスキルも大事だと思います。共同研究などではいろんな方々と関わるので、研究職でもやはりコミュニケーション力は必要です。
――これまでで一番印象に残った仕事は何ですか?
2017年からこの研究に携わってきたのですが、2022年 3月に初めて培養肉の試食ができたんです。約4年越しの初試食で、大きな一歩としてすごく印象に残っています。実際に食べた培養肉はしゃぶしゃぶ肉くらいの薄いもので、ボイルしたものを試食しました。
――培養肉を商品化するにあたって、どんな課題があるんですか?
味の改善のほか、畜産のお肉に近づけるために脂肪を入れることやコスト的な課題なども考える必要があります。また、私たちは「培養ステーキ肉」を目指しているので、もっと培養肉に厚さを出す必要があり、日々研究に取り組んでいます。
――オフタイムの過ごし方についても教えていただけますか?
走るのが好きなので、休みがあればマラソンやトレイルランをしています。皇居ランサークルに入っていて、多いときは1日でフルマラソン分の距離を走りますね(笑)。月曜日は毎週筋肉痛で、むしろ休日のほうが疲れるくらい身体を動かしています。
――プライベートの中で、何か仕事に活かされていると思うことはありますか?
皇居ランサークルにはいろんな業種の同世代が集まっているのですが、みんなポジティブでアクティブなので、一緒にいてすごくリフレッシュできますし、いつも刺激をもらっています。仕事で失敗が続いても、サークルの友だちと一緒にいる間は忘れられますし、普段の仕事とは全然関係のないコミュニティを持っていることはとても大事なことだと思います。
――最後に、学生のみなさんにメッセージをお願いします。
私は食品メーカーに就職すると決めていて、就活も短期決戦でしたが、皆さんはまだまだ長い期間、就活ができると思うので、ぜひ広い視野を持ってほしいと思います。「博士課程に行きたいけど修士で卒業したほうが良いのか」「起業したいけど、一度は会社に入ったほうがいいのか」と、悩むこともあると思いますが、まだ時間はたくさんあるので、ぜひ広い目で見ながら就職というものを考えてほしいと思います。
就職はゴールではありません。これから自分はどういう生活を送りたいかといったことを見据えながら、人生を選んでいくといいと思います。
文:猿川佑
編集:学生の窓口編集部
取材協力:日清食品グループ