帰省する日の午前中はそわそわする。帰省する日の午後は......|エッセイ企画「#Z世代の目線から」キーワード:夏のある日
エッセイキーワード:夏のある日
エッセイタイトル:『バスタ新宿24時10分』/著者:おもち さん
1119文字/3分くらいで読み終わります。
帰省する日の午前中はそわそわする。帰省する日の午後はもっとそわそわする。午前も午後もそわそわするって、一体いつ帰るというのだ、と思われたあなたはその通りだ。
私はだいたいいつも「24時」を過ぎてから帰省するのだ。だから正確には午前も午後も過ぎてしまっている。「24時」を過ぎてからバスに乗り込み、朝日が昇る頃、実家のある東北地方の一県の土を踏むことになる。
私は今、大学二年生だが、帰省の際には夜行バスを使用することが既に当たり前となってしまった。夜行バスは安い。今振り返ると、新幹線を使っていたころの私はブルジョワだったなと思う。
夏の、夜の、バスタ新宿は、まぶしい。スーツケースを持った沢山の人々が、白く光ったバスタ新宿に吸い込まれていく姿は見物だ。バスタ新宿にはロマンがある。私はバスタ新宿という都会の真ん中から、日本各地に散っていくバスたちが好きだ。バスの乗客をさばくお兄さんの「NP322便、名古屋行き到着でーす」という威勢の良い声が好きだ。運転手の脇に立って、台に寄りかかりながら気怠そうにマイクで何かを喋っているおじさんが好きだ。その表情が。そのバスは大阪・堺へ向かうらしい。既に亡くなってしまった私の祖父は、バスの運転手をしていたらしいが、バスタ新宿の4階で、ぼんやりとロータリーを眺めているときほど、バスの運転手のかっこよさを感じることはない。私はまだ見ぬ土地を想う。私が乗ろうとしているこの仙台行きも、誰かにとってはまだ見ぬ土地で、憧憬の対象なのかもしれないと思うと、誇らしいような、気恥ずかしいような、「仙台行き」に帰省のために乗っている私がやっぱり誇らしいような気がするのだ。
私はもう大学生だけれど、深夜二時なのに、途中のトイレ休憩でバスを降りたとき、「那須塩原」の文字が煌々としているのを見て、わくわくしてしまう性分なのだ。そこで降りない手はない。因みに私は夜行バスで眠れない。夢とうつつの間の状態に移行するのは、決まって三カ所目のトイレ休憩に止まるほんの少し前だ。だから初めから寝る気ではいない。サービスエリアでは必ず降りて、それぞれのご当地ラーメンを眺める。食べたことはないけれど。
やっと夢の色が濃くなってきたと感じた頃に、ぱっとバスの明かりがつく。
「まもなく仙台駅西口、仙台駅西口に到着します」
地元に帰ると、地元の交通の便の悪さや両親からの学業に対する質問攻め、祖母からの熱烈な歓迎に身を任せているうちに、ついさっきまで体験していた夜行バスのプチ旅行のことは忘れてしまう。だが、それで良いのだと思う。夜行バスは利用者にちょっとした興奮を贈りつつも、自ら移動手段の域を出ようとはしないのだ。
著者:おもち さん |
学校・学年:法政大学 2年 |
著者コメント:ちょうど今年の夏に、実家に帰省したときのことをエッセイにしました。夜行バスにロマンを感じているのは私だけではないと思うので、これを読んで共感してくれる方がいたら嬉しいです! |
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