タコやウニを食べた人は哲学者? 「勇気ある挑戦」を哲学で考える #もやもや解決ゼミ

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私たちが何げなく口にしている食べ物には、例えばタコやウニなど「初めて食べた人はすごい!」と思わされるものがたくさんあります。その「チャレンジングスピリッツ」には驚くばかりです!!

今回は、気鋭の哲学者である山口大学 国際総合科学部の小川仁志教授に、「未知への挑戦」を哲学的視点で解説していただきました。

挑戦することこそが哲学

そもそも、哲学そのものが「失敗を恐れない挑戦」であるともいえます。なぜなら、哲学というのは、常識を疑い、果敢に新しい世界を切り開こうとする営みだからです。失敗を恐れていてはこうした果敢な挑戦はできません。

かつて、世界は「神々が支配している」といわれていました。そんな中、ソクラテスは勇気を出して神の支配する世界を疑い、そこから哲学が誕生しました。あるいは近代ドイツの哲学者・ニーチェが勇気を出して「神は死んだ」と宣言したことで、キリスト教が支配する世界から脱却し、近代合理主義が花開きました。

タコやウニといった食べるのに臆するような未知の食べ物を口にしたり、他にもスポーツで新しい方法を試したりというのも、私はある意味で「哲学的態度」だと思います。それまでの常識を疑ったわけですからね。

哲学は命を懸けた危険な挑戦だった

未知への挑戦は命懸けの行為です。タコやウニのような未知の生き物を口に入れるわけですから、もし毒があれば体に悪い影響が出て、場合によっては命を落とします。また、スポーツも同様で、新しい挑戦は時に自分の身を犠牲にする可能性もあります。例えば、陸上競技の高跳びには「背面跳び」がありますが、あのような跳び方は下手をすれば大けがにつながります。にもかかわらず、果敢に挑戦したことで大きなイノベーションが生まれ、今や当たり前の跳び方になりました。

このように未知への挑戦は「命を懸けている」という点も哲学と共通しています。疑うというのは哲学のプロセスの第一歩です。しかし、その行動は常に命懸けです。哲学者の異議申し立ては物事の根本を突くため、既得権益のある人たちからすると常に反感の的になるからです。

古代ギリシャで神々を否定する行為は権力を批判することでもありました。その結果、ソクラテスは死刑になったのです。また、近代以前のヨーロッパでは、キリスト教を批判することも命に関わる危険な行為でした。当時の哲学者たちは命の危険に関わると知っていても、命懸けで自らの哲学を貫き通したのです。

強い直感が挑戦の原動力

哲学は自らを犠牲にする行為でもあります。それでも挑戦することをやめない原動力は「強い直観」です。哲学は直感から入り、そこから疑問につなげ、自らの考えに発展させていく行為。恐らくタコやウニといった未知の食べ物を口にしたり、スポーツで前例のない挑戦をしたりと、常識を破る勇気のある人は、哲学者と同じように直観力の強い人なんだと思います。「これは食べられるのでは?」という強い直感、疑問があったからこそ、食べてみたのでしょう。

先日、私の授業で『ハンナ・アーレント』という、ナチスの捕虜収容所から脱出し、アメリカに亡命した現代思想家を主人公とする伝記映画を扱いました。ハンナ・アーレントは、ユダヤ人でありながら同じユダヤ人たちのナチスへの加担を訴えた人物です。その結果、激しい非難にさらされました。それでも彼女は、自らの信念を曲げることなく、非難に立ち向かったのです。

偉大な挑戦が今につながっている

挑戦というのは時に命を脅かす危険な行為ではありますが、救いとなるのは「必ずその危険に報いるだけの成果がもたらされること」でしょう。哲学の場合も、偉大な哲学者が危険を顧みずに思想を広めたことで、私たちは自由になりました。

食でもスポーツでも、危険に見合う成果が人類にもたらされています。タコやウニが食べられると分かったことで、私たちの食文化は豊かになりました。スポーツにおいても、例えば先駆者が果敢に海外挑戦を行ったことで道が開け、日本のスポーツレベルが上がっています。

ソクラテスは「善く生きること」が哲学の目的だという言葉を残しています。そう考えると、未知の食べ物や世界に果敢に挑む行為は、まさに「哲学」だと考えてもいいのではないでしょうか。

「タコやウニを最初に食べる」といった、未知の世界に果敢に挑戦する行為は哲学と同じ、とのことでした。そのときは「無謀な挑戦」だと思われていたかもしれませんが、後の世に与えた影響を考えると、人類史に名を残してもおかしくありません。小川先生の解説を踏まえてタコやウニを食べると、最初に食べた人のすごさを改めて実感するかもしれませんね。

イラスト:小駒冬
文:高橋モータース@dcp

教えてくれた先生

小川仁志 Profile

1970年、京都府生まれ。哲学者・山口大学国際総合科学部教授。京都大学法学部卒、名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。商社マン(伊藤忠商事)、フリーター、公務員(名古屋市役所)を経た異色の経歴。徳山工業高等専門学校准教授、米プリンストン大学客員研究員等を経て現職。大学で新しいグローバル教育を牽引する傍ら、「哲学カフェ」を主宰するなど、市民のための哲学を実践している。また、テレビをはじめ各種メディアにて哲学の普及にも努めている。NHK・Eテレ「世界の哲学者に人生相談」では指南役を務めた。最近はビジネス向けの哲学研修も多く手がけている。専門は公共哲学。著書も多く、ベストセラーとなった『7日間で突然頭がよくなる本』や『ジブリアニメで哲学する』、『孤独を生き抜く哲学』をはじめ、これまでに約100冊を出版している。

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