読ませる力がすごい! 短編の名手だと思う漫画家7選
漫画の中には、長編ではなく「短編漫画」の作品があります。短いページでテーマを描き切り、読者に強い印象を残すというのは、生半可な力量でできることではありません。今回は「短編の名手」という漫画家をご紹介します。
漫画の神様・手塚治虫先生は「16ページあればなんでも描けますよ!!」とおっしゃったそうです(出典:『ブラック・ジャック創作秘話 2』原作:宮崎克/漫画:吉本浩二)。また、
「長編を描くよりも短編を数多く完成させてください。それが上達の早道です」
(出典:『ブラック・ジャック創作秘話 3』原作:宮崎克/漫画:吉本浩二)
とも。この言葉を証明するように、「短編漫画の名手」の作品はやはり長編でも面白いのです。
●手塚治虫
代表的短編漫画集:『ザ・クレーター』
前述のとおり、手塚先生の作品には短編漫画が数多くあります。代表作『ブラック・ジャック』も一話完結の連作となっていて、その1話ごとにきちんとストーリーが帰結していますから、これは登場するキャラクターが固定された短編漫画集ともいえます。ブラック・ジャックは全242話ですが、これだけの数のお話を作れるというのはまさに天才の仕事といえるでしょう。
●藤子・F・不二雄
代表的短編漫画集:『藤子・F・不二雄 SF全短篇』
藤子・F・不二雄先生もまた短編の名手です。そもそも代表作『ドラえもん』が1話完結の物語ですからそれも当然です。藤子・F・不二雄先生には「SF(すこしふしぎ)」と題する一連の短編があります。そのどれもが傑作で、よくこんな短いページでこれほど面白いお話を作れるものだ」と驚かされます。
●細野不二彦
代表的短編漫画集:『細野不二彦短編集』『幸福の丘ニュータウン』
『Gu-Guガンモ』『太郎』『電波の城』などを代表作とする細野不二彦先生は、短編漫画でも優れた作品を描いていらっしゃいます。また、代表作『ギャラリーフェイク』はアートの世界を舞台に、天才的キュレーターの主人公・藤田玲司の活躍を描いていますが、これは1話完結の作品。どこから読んでも、どのエピソードを読んでも面白いのはさすがです。
●大友克洋
代表的短編漫画集:『ショート・ピース』『ハイウェイスター』『彼女の想いで…大友克洋短編集(1)』
大友克洋先生といえば『AKIRA』が代表作品として知られています。『AKIRA』は2,000ページを超える長編ですが、実は大友先生は短編漫画の名手でもあります。初期の作品集『ショート・ピース』『ハイウェイスター』には、センスあふれる短編漫画が詰まっています。初期の大友先生の作品には「白い」「突き放したような独特の空気感」などの特徴があります。上に挙げたのはどれも多くのフォロワーを生み出した珠玉の作品集です。
●高橋留美子
代表的短編漫画集:『高橋留美子劇場 (1)』 『鏡が来た 高橋留美子短編集』
『うる星やつら』『らんま1/2』『めぞん一刻』などの大ヒット漫画を生み出してきた高橋留美子先生。1話完結の傑作が多いですから、高橋先生の手に成る短編漫画はやはり面白いものばかり。例えば『高橋留美子劇場 (1)』では、サラリーマンを主人公に、その周辺に起こるちょっとした事件を面白く仕上げたコメディー作品が読めます。日常生活の中から笑いを切り取ってみせるその手腕はさすがという他ありません。
●岡崎二郎
代表的短編漫画集:『アフター0』『アフター0 Neo』『トワイライト・ミュージアム』
藤子・F・不二雄先生のSF短編シリーズに通じる、センス・オブ・ワンダーとかわいらしい絵柄で短編の名手といえば岡崎二郎先生です。代表作『アフター0』シリーズでは、1話完結の短いページ数の中に読者を楽しませるお話がいっぱいに詰まっています。上で挙げた他にも『国立博物館物語』『NEKO2』など見逃せない作品があります。
●諸星大二郎
代表的短編漫画集:『夢みる機械』『アダムの肋骨』
『暗黒神話』『西遊妖猿伝』など壮大な物語を代表作に持つ諸星大二郎先生ですが、その才能は短編漫画にも遺憾なく発揮されています。上に挙げた他にも1話完結の多い『妖怪ハンター』シリーズ、鳥をテーマに描かれた短編漫画集『私家版鳥類図譜』など、日常生活に忍び込む怪異を描かせたら諸星先生の右に出る者はいないだろうと思わせるほど面白い作品が数多くあるのです。
作風は違いますがどの先生もそれぞれ素晴らしい短編漫画の名手です。女性誌に多く作品を発表している漫画家は挙げられませんでしたが、その中にも短編の名手というべき先生はいらっしゃいます。皆さんに共通するのは物語を作る力がずば抜けていることです。手塚先生の言葉どおり、短編漫画を作る力は長編漫画制作の基になるということなのでしょう。
(吉田ハンチング@dcp)