【現役大学生が突撃!】インフラ整備を支える「発注者支援業務」って? 若手建設コンサルタントに聞いてみた
“土木業界”と聞くと、どのようなイメージを抱くでしょうか? 体力勝負、女性が少ないなど、就職先としてはハードルが高いと感じる人もいることでしょう。
そんな印象がガラッと変わる仕事が、公共事業の「発注者支援業務」です。聞き慣れない名称ですが、どのような業務なのでしょうか。現役大学生が、発注者支援業務に携わる若手建設コンサルタントに、仕事の魅力や働き方、将来のキャリアパスなどについて話を聞きました。
参加した学生たち!

Kさん
大学院修士1年。応用化学を専攻している。

Lさん
大学院博士3年。出身は韓国で、AI関係の研究に携わっている。
取材に応えてくれた建設コンサルタントのみなさん!

小枝さん
日本振興株式会社に所属。入社5年目で、名古屋支店での工事監督支援業務を経験したのち、2024年度から積算技術業務を担当している。

滑川さん
株式会社ティーネットジャパンに所属。入社4年目で、工事監督支援業務を担当している。

伊藤さん
株式会社東建工営に所属。入社3年目で、資料作成業務を担当している。
毎日工事現場には行かない!? 建設コンサルタントの働き方
お二人は“⼟⽊業界”と聞いてどのような印象を抱きますか?
現場仕事が中心で、筋力や体力が求められる仕事というイメージがあります。
人手不足が深刻ですし、勤務時間も長くて大変そうです。
私たちは国や地方自治体のインフラ整備に携わっていますが、実は工事現場にずっといるわけではないんですよ。私はほとんどオフィスで仕事をしていて、たまに現地調査で外出するくらいです。
そうなんですか!?
勤務時間や休日の取り方は公務員と変わらず、土日祝日や年末年始が休みで、夏季休暇も取得しています。
私は急ぎの案件や不測の事態がなければ、いつも定時で帰っています。有給休暇もきちんと取れますよ。
国・自治体を専門知識と技術でサポート
これまで抱いていた土木業界のイメージと、みなさんの働き方が大きく違っていて驚いています。具体的にはどのような仕事をしているのでしょうか。
私たちは「建設コンサルタント」という、建設事業やインフラ整備において技術的な助言や支援を提供する職業に就いています。建設コンサルタントの業務にはさまざまなものがありますが、私たちは主に「発注者支援業務」という仕事をしています。
道路や橋、河川・ダムなどのインフラは、国や自治体が発注することで整備のための工事が実施されます。「発注者支援業務」は国や自治体(発注者)と、工事の施工者である建設会社やゼネコンの間に入り、事業が円滑に進むようにサポートする仕事です。私は発注や調査、報道などに使う資料を用意する「資料作成業務」に就いています。
私は「積算技術業務」を担当しています。インフラは国民の税金を使って工事をするので、無駄遣いはできません。最新の物価などを基に積算技術業務では、人件費や材料費などの予算が適正価格になるよう計算したり、工事中に発生した変更を予算に反映させたりします。
私の仕事は「工事監督支援業務」です。工事に必要な資料を施工者とやりとりしたり、基準通りに工事が進んでいるかをチェックしたりする仕事です。ほかにも地域住民の方々への影響を最小限にするために、警察をはじめとする外部機関と打合せをして工事の時間や区間を調整することもあります。
インフラ整備は、工事や設計以外にもさまざまな仕事があるのですね。
発注者である公務員の方が、こうした業務を1人でこなすのは大変です。しかも工事の各段階で求められる専門知識も異なります。だからこそ、私たちのような建設コンサルタントのサポートが求められるんです。
遠隔操作やドローンなど業界全体で進むDX
発注者支援業務では、どのようなツールを使って仕事をしていますか?
仕事ではパソコンを使う場面が多いですね。材料の単価も多くは積算システムに登録されているので、必要な種類や数値を入力すればすぐに計算できます。工事費算出に必要な施工条件を、根拠を元に正確に整理することが主な仕事だと言えますね。
今は業界全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいるので、施工者となる建設会社とやりとりする書類もほとんど電子化されました。工事現場のチェックもカメラを遠隔操作して行うことが珍しくありません。
私は現場の様子を記録する際、ドローンを利用したことがあります。資格を持っている先輩社員に操縦をお願いして、資料作成のために空撮をしてもらいました。
ドローンを使う機会もあるとは驚きです!
他では経験できない大規模なスケールと、ゼロから形になる仕事に魅力
みなさんは就活前から、発注者支援業務を知っていたのですか?
知りませんでした!(笑)
発注者支援業務を知ったきっかけは、たまたまスケジュールが合う企業のWeb説明会に参加したことです。土木業界の仕事は発注者、施工者、設計者の3つしかないと思っていたので、新しい選択肢が提示されたような気持ちになったのを覚えています。仕事内容と発注から施工まで広く携われることに魅力を感じました。
私はもともとゼネコン志望でしたが、ライフステージが変化しても長く働けるのか、不安を感じていました。そんなとき、偶然大学で実施されていた企業説明会で発注者支援業務を知って、現場と社内での仕事のバランスがちょうどよく、「女性でも長く働けそう!」と期待を持てました。実際、結婚を機に働く場所や業務内容も調整していただけているので、働きやすさを感じています。
私は宮城県出身で、東日本大震災をきっかけにインフラの重要性を実感し、将来インフラ整備に携わりたいと思っていました。発注者支援業務は私の考えにぴったりな仕事だと感じて就職しました。
発注者支援業務のやりがいを教えてください。
大規模なスケールの工事を通じて貴重な経験ができることです。私は入社2年目でダム事業に携わりました。ゼロから始まった工事がだんだんと進んで、ダムが形になっていく過程を間近で見たときには、この仕事のやりがいを感じました。
大きなプロジェクトに継続して関われるのもやりがいのひとつですよね。例えば、道路拡幅(どうろかくふく)事業であれば、歩道を広げたり車道を整備したりするプロセスをすべて見られます。
私も工事監督支援業務に就いていたころに担当した道路を通ると、工事前との変化を感じられて嬉しかったなぁ。今は積算技術業務で数字をメインに見ているけど、事業が形になると感慨深さを覚えますね。
どんな人が発注者支援業務で活躍できる?
みなさんの企業ではどのような方が活躍されていますか?
発注者支援業務は業務内容が幅広いですし、道路や河川、ダムなど対象によっても必要とされる専門知識が異なります。こうした知識は一朝一夕では身に付かないので、コツコツ勉強できる方が活躍しています。
視野の広さとコミュニケーション能力も大切です。発注者、施工者、そして地域で暮らす住民の方々など、さまざまな人の目線に立ったうえでの提案が求められます。
聞く力だけでなく、専門知識をかみ砕いて話す力も重要ですよね。
根拠をきちんと持ったうえで、相手の気分を損ねない言い回しもできるといいですね。技術や予算の根拠を示しつつ、対立や否定にならない伝え方や提案をすることでプロジェクトを円滑に進められます。言い方一つで相手の印象も変わるため、私も上司の対応を見て、「こういう風に提案するのか。次は実践してみよう」と参考にしています。
大学時代に経験しておくといいこと
就職活動を進めるにあたって、大学時代に経験しておくと役立つことってありますか?
学生にしかできないことを精一杯やっておくと、その経験や知識が社会人になってから役立つと思います。
コミュニケーション能力を上げるためにアルバイトをしてみるのもおすすめです。とくに接客業はコミュニケーション能力が上がると思います。
将来の選択肢を広げるために、幅広く情報収集するのもおすすめです。私もたまたま企業説明会に参加したおかげで、発注者支援業務と出会えました。
もし建設コンサルタントを目指すなら、大学生のうちから取れる国家資格に挑戦すると良いと思います。建設系の業務で重宝される「土木施工管理技士」の試験は2025年から規定が変わって、2級は17歳以上、1級は19歳以上で受けられるようになりました。
学科試験に受かったあとは実務経験が必要になりますが、それは就職後に積めるので心配ありません。
土木業界でプロフェッショナルを目指し、長期でキャリア形成
みなさんは今後、どのようなキャリアを歩んでいきたいですか?
私は今妊娠中で、もうすぐ産休と育休を取得する予定です。復帰後は積算技術業務でもう少し経験を積み、最終的にはまた工事監督支援業務に戻れたらと考えています。また将来的には、どこかの支店の管理職になって長く働きたいです。
まずは工事監督支援業務の経験を積み、1級土木施工管理技士の資格を取ろうと思っています。その後は他の業務も経験したうえで、いちばんやりたい仕事を見つけて、プロフェッショナルとして極めたいです。
私も1級土木施工管理技士を目標にしています。まずは資料作成業務以外の仕事も幅広く経験して、知識をつけたいです。
建設コンサルタントや発注者支援業務について、いろいろ説明しましたが、業界に対するイメージが変わったなら嬉しいです!
公共事業は施工技術の高さが重要だと思っていたので、まさかコミュニケーション能力が求められる仕事もあるとは思いませんでした。DXも進んでいるとのことで、働きやすそうだと感じました。
土木業界へのイメージが変わりました。建設コンサルタント、そして発注者支援業務には思っていたよりたくさんの仕事があり、技術や知識、他者への想像力が求められるんですね。
最近は土木ではなく「インフラ整備」と呼ばれることも増え、以前より幅広い分野から業界に人材が集まっている実感があります。会社の同期には農業系学部出身の人もいますよ。
土木専攻以外でも活躍できる可能性があるのですね! ますます興味がわきました。