インドではナンを食べないって本当ですか? #もやもや解決ゼミ
日常に潜む「お悩み・ギモン」=「もやもや」を学術的に解決するもやもや解決ゼミ。
今回の疑問は「インドではナンを食べないって本当ですか?」です。
日本ではインド料理店が増加して、インド料理も一般的になりました。現在では、多くの日本人がインド料理店で舌鼓を打つようになっていますね。インド料理店では、たいていナンを提供していますが、「実はインドではナンはあまり食べられてはいない」という話があります。
これは本当のことでしょうか?
SHANTISREE GOSWAMI(シャンティスリ・ゴスワミ)さんに答えていただきました。
ゴスワミさんは、インド政府紅茶局広報室も務めたインド産紅茶のエキスパートで、すでに来日して40年以上。日本とインドの文化交流に尽力されてきた方です。
◇せんせいのかいせつ
北インドの主食はむしろチャパティ。ナンは日常食ではない
ナンを焼くには、400~500度の高温になるタンドール窯(かま)※が必要です。日本人の皆さんもタンドリーチキンはご存じでしょう。あのような窯がないと、ナンは焼けません。
一般家庭では大きな窯がないことが多いので、ナンは食べたいときに買ってくるものです。確かにインドでもナンは食べますが、主食になるのはナンよりもチャパティです。
ナンは小麦粉を用いて、発酵させてタネにします。これを焼くとナンになります。日本人にはあまり知られていないのですが、ナンには卵も使われています。ベジタリアンの人向けには卵抜きのナンもあります。
また、タンドール窯のあるお店にタネを持っていって、ナンを焼いてもらうこともあります。
一方のチャパティは、全粒粉で発酵させずに作ります。また、チャパティはナンと違って円形です。日本でいうとクレープのような丸くて平たい形をしています。
これは北インドの話です。南インドではお米が主食になります。
※粘土製の壷窯型オーブン。甕(かめ)を伏せたような形状をしており、底で炭あるいはたきぎを燃やして加熱します。約500度近くの高温を維持でき、そのため入口は狭まっています。この窯の内壁に発酵したタネを貼り付けて焼き、ナンを作ります。
なぜ日本ではナンが一般的になったのか?
ナンが日本で一般的に広く知られるようになったのは、1970年代です。
きっかけになったのは、1970年日本で行われた『大阪万博』だったと考えられます。大阪万博のインド館では、タンドール窯を設置したインド料理店が登場しました。
↑日本『MBS NEWS』が1970年当時のインドパビリオンの様子を捉えた動画をYouTubeで公開しています。
このときに、日本の一般の皆さんは初めてタンドール窯とナンをご覧になったでしょう。これを契機にナンがインド料理を代表するものと認識されたのではないでしょうか。
「こんな大きなパンがあるんだ」と日本の方は驚かれたでしょうね。
その後、日本でインド料理店は増えていきましたが、「ナンはないの?」と尋ねる日本人が増えたのでしょう。
ある人から伺った話ですが、ナンを提供しないレストランをオープンしたら、あまり人気がなく、すぐに閉店になってしまったそうです。それほど、日本では「ナンは代表的なインド料理」と認識されているわけです。
日本でナンがここまで一般的になった理由は、正直よく分かりませんが、きっと日本の皆さんがナンに驚いて好きになってくれたためではないでしょうか。
◇けつろん!
ナンはインドでは食べられますが、一般家庭で作るものではないのです。日本人はインドのナンがおいしかったので好きになり、インド料理店に行くと注文する人が増えたのでしょう。これが原動力となって、「ナンはインド料理の代表格。インドの人もナンを主食にしているに違いない」と認識するようになったのではないでしょうか。
日本のインド料理店では、恐らく「ナンがない」ということはないでしょう。ナンはインドでも日本でも「人気の外食料理」なのです。
◇おしえてくれたせんせい
SHANTISREE GOSWAMI(シャンティスリ・ゴスワミ)
1977年に初来日。元インド政府紅茶局広報室勤務。インド産紅茶のエキスパートで、独自のブレンドを行った素晴らしい茶葉を『シャンテイ紅茶』で提供している。
文:高橋モータース@dcp
編集:学生の窓口編集部
取材協力:『シャンテイ紅茶』
http://www.shanti-jbs.com/shanti.html