ミッションはインスタントラーメンの主原料である「パーム油」の代替素材を作ること! 日清食品の若手研究者が挑む、次世代のための偉業
2019年新卒入社
経歴:基礎研究部門で微生物を用いた物質生産を行う業務に従事。特に「酵母由来の代替パーム油」プロジェクトを入社以来リードしている。
「将来の“なりたい自分”がまだわからない」という悩みを抱えるみなさんに、いろんな企業で活躍する先輩たちの姿を通してロールモデルを見つけてもらう企画「#先輩ロールモデル」。
今回は「日清食品グループ」で働く先輩社会人にインタビュー。健康科学研究部で酵母由来の代替パーム油の研究に取り組む三根健太郎さんに、日々の仕事内容や学生時代に取り組んだことについてお話を伺いました!
――三根さんはどんな学生時代を過ごしていたんですか?
大学、大学院では主に水産食品に含まれる酵素の研究をしていました。具体的にいうと、かまぼこの弾力を形成するトランスグルタミナーゼという酵素の働きを解明する研究です。聞き慣れない酵素かも知れませんが、トランスグルタミナーゼはヒトの身体にも存在していて傷の修復にも関わっている大事な酵素なんです。研究テーマの決め手はやはり「食」への興味でした。学生時代から「食」への興味がモチベーションになっていることが多かったですね。
部活やサークルには入っていなかったのですが、割と大きな学生寮に入っていたので、そこのみんなと一緒に遊ぶのが生活のメインでしたね。寮生は合計500〜600人いたと思います。そのツテで、もつ焼き居酒屋でアルバイトも始めました。
――学生時代一番頑張ったことは何でしょう?
アルバイトだと思います。私は広島出身で、大学から東京に出てきたのですが、東京に来るまではもつ焼きという食べ物を知らなくて、初めて食べたときは「こんなに美味しい食べ物があるんだ」と衝撃を受けました。
もつ焼き居酒屋のアルバイトでは、調理場でもつを焼いたり煮たりしましたし、もっともつ焼きのことを極めたいと思って、備長炭の会社でアルバイトもしました。もつ焼きの有名店にも大体足を運びましたし、『もつ焼きの専門書』という、多分私くらいしか持っていないの本も読み込むなど、とにかく熱中しました。
――仕事で役立っている学生時代の経験はありますか?
もつ焼きがまさにそうですが、いろんな側面から物事を捉える力は今の仕事にも活きています。ただ「もつ焼きが好き」というだけで終わらせず、自分でもつ焼きを作ってみたり、いろんなお店で食べてみたり、炭の研究をしたり……そうやって、いろんな角度からもつ焼きに向き合ったのが、今の仕事にも活きていると思います。
研究はひとつのことにフォーカスしがちですが、それだとうまいこといかないことも多いんです。むしろ、一見無関係に見えるものの中に答えの一端があったりもするので、やはりいろんな角度から物事を見る力は大切だと思います。
――何か就活前にやっておいたほうがいいことはありますか?
私の場合、OB訪問はたくさんしましたね。大学や学生寮のOB名簿を参考に、食品企業の研究職に進んだOBをリストアップして話を聞きに行きました。そこで自分のやりたいことや、「面接ではこういうことを話そうと思っている」ということを伝えると、先輩の皆さんからいろんな意見をいただけましたし、そこでの経験が就活中の自信にも繋がったと思います。
――今の会社を選んだ理由について教えてください。
さまざまなインターンに参加しましたが、日清食品のインターンはヒットしそうな製品を自分たちで考えて、実際に麺やスープを作って、容器もいろいろ組み合わせて、最後に試食する、という普段の開発業務内容を丸ごと体験させてもらえるという内容だったんです。しかも普通は入れない研究所の中まで案内してもらえました。このインターンのときの経験がすごく楽しかったので、直感的に日清食品にしようと決めました。
――今のお仕事の内容について教えていただけますか?
油脂酵母を使った「代替パーム油」の研究に取り組んでいます。油脂酵母というのは「身体の中に油を溜める酵母」で、その油脂酵母がつくり出す酵母油は、即席麺を揚げるために使われる植物油「パーム油」と非常に近い脂肪酸組成を持っています。
日本の油脂資源の自給率は低くて、今後世界的な需要拡大が見込まれる中、その確保が大きな課題となっています。今後研究科進み「代替パーム油」を実用化することができれば、広い土地を必要とせずにタンク培養で油脂を生産でき、気候の影響も受けずに安定供給することができるようになるため、「パーム油」に代わる資源として期待されています。
ーー今はどれくらい研究が進んでいるんですか?
油脂酵母を1000兆個くらい培養して、そこから油を抽出し、その油で麺を揚げたところ、既存の製品と食べ比べても味の遜色がないということが解明できました。
ちょうど今年、日本農芸化学会で発表したところトピックス賞も受賞することができ、培養業界からの注目も集めています。油脂酵母の油を抽出するにはコストがかかるので、いかにコストをかけずに製造できるかが産業化の課題ですね。
ーーこの仕事ならではの特徴的な作業は何でしょう?
三角フラスコで油脂酵母を培養して挙動を確認したり、どれくらい油を溜めるのかといったことを解析したりすることですね。微生物の研究はいろんな大学や企業がやっていますが、我々の場合は油を取り出して実際に麺を揚げるところまで研究しています。このあたりが日清食品ならではの特徴かもしれません。
ーー実はあまり知られていない仕事の「秘密」はありますか?
日清食品は即席麺がメインですが、次世代の柱を作らなければいけないという意識も持っています。私が所属する健康科学研究部は、まさに健康食品や機能性食品をひとつの柱にするべく生まれた部署ですが、最近ではさまざまな機能を持った乳酸菌入りの製品や、“トリプルバリア”という食後の中性脂肪・血糖値の上昇を抑え、高めの血圧を下げるといった機能を持った食品を出してヒットしているというのは割と知られていないと思います。
ーー今の仕事のやりがいをどういったときに感じられますか?
パーム油は日清食品の根幹をなす素材ですから、この必要不可欠なパーム油に関わる研究に携われているというのはやりがいになっています。
日清食品は、即席麺の製造に使用するパーム油について、環境保全や人権に配慮されて生産、加工された「RSPO認証パーム油」の調達を推進しており、2030年までに「RSPO認証パーム油」に加え、独自アセスメントにより持続可能であると判断できるパーム油の調達を進め、持続可能な調達率100%を目指しています。
私の研究はその代替油を国内で生産し、供給安定性を上げることにも寄与できます。もちろん会社のためにもなるので、日々やりがいを感じながら研究しています。
ーーこの仕事の面白いと思う点や魅力について教えてください。
日清食品に入社するまでは、あまり微生物を扱ったことがなかったのですが、微生物も生物なので日によって機嫌が違いますし、機嫌は温度によっても変わります。そういった細かい条件によっていろいろと変わるのは見ていて面白いですね。
微生物の機嫌をコントロールできるスキルも身につきます。醤油づくりや酒づくりなどはよく「職人芸」と言われますが、微生物の機嫌を考えながら作業できることが「職人芸」の秘訣だと思いますし、それは酵母の研究にも同様のことが言えると思います。
ーーこの仕事に求められるスキルは何でしょう?
生物系の研究なので、もちろん洞察力や科学的好奇心は必要です。ただし、かなり大きな研究テーマなのでやることも多いですし、一点にフォーカスするより、いろんな側面から物事を捉える力が大切だと思います。1個の物事に固執すると、残りの99個がおろそかになってしまうので、いろんなことを同時にこなす力は必要ですね。
ーーこれまで一番印象に残った仕事は何ですか?
実際に酵母から取り出した油で麺を揚げて試食したことです。
ーーいつ頃の話ですか?
2021年2月頃なので、今から約1年半前のことになります。そのときは大量の酵母を培して、油を抽出して、麺を揚げるときの条件なども検討して、実際の完成品を会議で出して「うん、大丈夫だね。遜色ないね」と言ってもらえたのですが、その一連の流れは苦労も多かった分、感動もしました。
――オフタイムの過ごし方についても教えてください。
車に乗るのがすごく好きで、もちろん通勤も車ですし、ちょっと空いている時間はドライブなどを楽しんでいます。車自体もすごく好きで、今はスイフトスポーツという車に乗っているのですが、これはターボエンジンがついていて加速もいいですし、休日は山を走ったり遠出したりしていますね。
――趣味のドライブが仕事の役に立っていると思うことはありますか?
ドライブ中は運転に集中できて、いろんなことを忘れられるということでしょうか。普段仕事をしていると、やらなければならないことが無限にあるので、常にいろんなことを考えていて、ほとんど暇もありません。仕事中は頭の余白もない状態なのですが、空き時間にドライブすることで、いいリフレッシュになりますし、メリハリがつけられていると思います。
――最後に、学生のみなさんにメッセージをお願いします。
私は大学院の修士1年の終わりから就活を始めたのですが、当時は研究室の活動と就活の両立が大変だったのを覚えています。学生の皆さんも就活と学業の両立に悩まれることもあるかと思いますが、私個人の体験としてはどちらか片方に振り切るより、できるだけどちらも頑張ったほうがプラスになると思います。大変かと思いますが、ぜひ頑張ってください!
文:猿川佑
編集:学生の窓口編集部
取材協力:日清食品グループ