最近、夜に散歩をすることが増えた。動脈硬化のリスクを減らそうだなんていう高尚な目的を持ち合わせている訳ではなく、十月も中頃を迎え外気が散歩をするのに適した温度になっていたから…|エッセイ企画「#Z世代の目線から」キーワード:夜
エッセイキーワード:夜
エッセイタイトル:『ナイトオウル論』/著者:久保獎太朗 さん
1391文字/4分かからないくらいで読み終わります。
最近、夜に散歩をすることが増えた。動脈硬化のリスクを減らそうだなんていう高尚な目的を持ち合わせている訳ではなく、十月も中頃を迎え外気が散歩をするのに適した温度になっていたから、歩かないでおくのは勿体無いような気がして行くのである。家の近くに散歩をするのにうってつけの広大な公園が広がっているのも手伝っているのかもしれない。兎も角、利用できるものは利用しなければ損をしているように感じてしまう性分が夜に悪さをしているのだろう。
そう言ったわけで散歩自体にこれといった目的もないから、いつも適当な場所で、円形の公園にこれまた適当な間隔で配置されたベンチに腰をおろししばしば物思いにふけるのが常である。この日に限っていつもと違ったことは「ホーホー」と鳴く客人が広い公園のどこかにいることだった。そこで、ふと昔見た何かの洋画のワンシーンが思い出された。
主人公が朝寝坊して、待ち合わせに大変遅れていく場面でのことだ。普通ならば開口一番、謝罪の言葉を述べるだろうが、その主人公は「アイ アム ア ナイトオウル」とキザに言い放った。その時、私はその一言のあまりの清々しさにあっけらかんとしていた。後になって調べてみると夜型の人間のことを夜行性のフクロウに準えて言った言葉であるようだ。丁度うまい具合に夜型な私だったので、ナイトオウルを自称することにひどく憧れたものだ。
同じ夜行生物同士、何か通じ合うものを感じ、なかなかいい機会だと踏んで、フクロウのことをもう少し調べてみることにした。検索窓に「フクロウ」と打ち込み、一番上に出てきたサイトを覗く。
フクロウ:まん丸な目が両方前を向いて並んでいる。これによって獲物の立体視が可能となる。ふむふむ、確かに私も物事を立体視するのは得意な方だ。中々に似ているかもしれない。特に私にとっての獲物に当たるレポートや資料作成に関しての視力は一級品だ。あまりに精細にやらねばならない事が見えすぎて、やる気が削がれてしまい家に放置されたまま埃をかぶっているレポートが三枚ほど転がっているけれど。
スクロールする。
フクロウ:首が270度も回ることで、広い視野を持ち、獲物を狩るのに適している。うむむ、ここに関しては甚だ相違しているようだぞ。私は一つの課題を見つめすぎるあまり、他の課題が目に入らなくなる。課題に対する私の視野は甚だ狭いのだ。それに何より、課題を抱えすぎていて常々首が回らない思いをしている。
さらにページを進める。
フクロウ:「不苦労」と書けるように、昔から神の使いとして崇められたり縁起のいい鳥と言われたりしている。あなかしこ、どうやらフクロウとは相容れないようである。世の大学生は不苦労と言われるほどにはモラトリアムを享受できる権利を有していないのだ。私には、私の帰りを今か今かと待つたくさんの苦労たちがいるのだ。
ブラウザバックと共にスマホをポケットに突っ込んだ。思いがけず、嫌なことを思い出してしまった。興が削がれ、そそくさとベンチから立ち上がった。
結局のところ、私が一番得意なのは課題から目を逸らすことなんだろうな。課題相手にあっち向いてホイをしたらきっと百戦錬磨だ。などと得意の逃避を行いながら、ナイトオウルを自称するのはまだまだ先のことになりそうだぞと感じる。
差し詰め今の所は「アイル ビー ア ナイトオウル」で通しておこう。公園から未熟なフクロウが帰路についた。
著者: 久保獎太朗 さん |
学校・学年:大阪医科薬科大学 3年 |
ブログ:http://omcbungei.blog.jp |
著者コメント:散歩の最中、フクロウに出会い、それについて調べているうちに、家で留守をしている課題の存在に気付かされてしまいました。ナイトオウル論を説く前に、現実を見た方がいいかもしれない、そんな夜のお散歩でした。 |
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