風鈴の音ではとても涼しさなど感じることのできない暑さのなか、ベランダで麦茶......|エッセイ企画「#Z世代の目線から」キーワード:夏のある日
エッセイキーワード:夏のある日
エッセイタイトル:『喜雨』/著者:寺田翔 さん
709文字/2分くらいで読み終わります。
風鈴の音ではとても涼しさなど感じることのできない暑さのなか、ベランダで麦茶を飲みつつ景色を眺める。
暑さに苦しむ人々を嘲笑するような太陽と、憎いほどに青い空を映す川の水面に、禍々しい黒色の雲が映り始めた。この黒色は高さが十キロにも届こうかという積乱雲を想像させる。まさに川の水面が黒色に染まろうかという時、水面に波紋が広がった。
日照り続きだったこの頃、久しぶりの雨だ。雨粒が落ちる度に、ホイヘンスの原理に従って同心円を描いて波が広がる。雨脚が強まるにつれて、波紋が幾重にも重なり、波の模様は複雑さを増してゆく。黒い雲は波に揺れる。川の水面の表情を見ているうちに激しくなってゆく雨は、頭上の雲がやはり私が想像した積乱雲であると物語っている。
激しく地面に打ち付ける雨の音は、蝉の声を聞き飽きた耳には心地よく、自然に感じられた。太陽に熱されたアスファルトから上がる水蒸気の匂い。
夏の雨の匂いだ。
匂いで季節を感じたのはいつぶりだろうか。至極自然なことではるはずだが新鮮に感じた。
厳しい暑さを忘れ、夕立の中に身を置き、落ち着きを感じ、ボーッと景色を眺めていた。小一時間ほどだっただろうか、徐々に雨脚が弱まり、雲が捌けてゆく。天気雨のようになってきた。今度目の前に太陽が現れたときには、まるで表情が違って見えた。
思わず外に出る。蒸発熱のせいか、心なしか涼しく感じる。太陽を背にし、空を見上げた。虹が架かっている。初めの数分は副虹まで見えた。すっかり晴れた青空の下、川の水面には清々しい青空と虹が映る。
晴れに憂いを、雨に喜びを感じる。イスカの嘴の食違いである。冬鳥に嘲笑されている気がした夏のある日だった。
著者:寺田翔 さん |
学校・学年:大阪医科薬科大学 3年 |
著者コメント:天気が晴れの方が明朗で、雨の方が陰鬱になりやすいと思う。暑すぎる夏にはそれが逆転することもあると感じた。雨の降り始めには、折角の良い天気がと思っていたが降り始めてみると雨の心地よさに気づいた。 |
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