夏のある日、高校一年生。 川沿いの花火大会。同じクラスの彼女を駅で待つ......|エッセイ企画「#Z世代の目線から」キーワード:夏のある日
エッセイキーワード:夏のある日
エッセイタイトル:『花火』/著者:ゆうしょう さん
1493文字/4分くらいで読み終わります。
夏のある日、高校一年生。
川沿いの花火大会。同じクラスの彼女を駅で待つ僕。
生まれて初めて出来た彼女。緊張。
周りは浴衣に身を包んだ男女でいっぱいだった。
僕は持っていなかったので、洋服を着ていた。
まだかまだかと待っていると一際輝く浴衣姿の女の子が。
彼女だ。
お待たせと言いながら僕に近づいてくる。
“かわいい”
初期微動。
“かわいい”
主要動。
彼女はとにかく“かわいかった”。
子犬よりも赤ちゃんよりも芸能人よりも初恋のあの子よりも“かわいかった”。
待ってないよと返す僕。
それに続けて“かわいい”と伝えたかった。
でも、伝えられなかった。口が乾いて仕方なかった。
何度も言葉にしようとしたが、結局出来ず、電車に乗った。
カップルで溢れる会場。伝えようとした。
綺麗な花火。伝えようとした。
花火を見る彼女の顔。つよく伝えようとした。
繋いだ手。かなりつよく伝えようとした。
でも、伝えられなかった。
悔しかった。
僕は来年こそは伝えようと心に誓った。
そして、“かわいい”は心の奥でしばらく眠ることになった。
それから、僕らは秋も冬も春も超えた。
その間に、文化祭があった。初詣にいった。何度もデートに行った。
けれど、夏は超えることができなかった。
夏のある日、高校二年生。
僕はフラれた。
理由はよく覚えていない。でも悲しかった。
彼女のことが大好きだった。
そういうわけで、僕は伝えられなかった。
まさに心残り。
眠ったままの“かわいい”は僕をじくじくと痛めた。
それから僕と彼女は交わることなく秋と冬と春そして夏を何度か超えた。
その間に、修学旅行に行った。部活を引退した。受験をした。大学に合格した。
何人か素敵な人に出会った。
僕はそう思うたびに彼女たちへ「可愛い」と伝えた。
一切の嘘はなかった。
でも、“かわいい”は眠ったままだった。
じくじくした。
春のある日、大学三年生。
生まれて何人目かの彼女が出来た。
笑顔が可憐な子。とてもやさしい子。
沢山の時間を一緒に過ごした。
小さい頃の話や辛かったこと、嬉しかったことを色々話した。
僕は彼女が好きだった。
夏のある日、大学四年生。
就活を終えた僕らは夏休みの計画について話していた。
すると、彼女は川沿いの花火大会に行きたいと言った。
僕は思わず「いやだ」と口をつきそうになった。
でも、無理やり飲み込んで代わりにいいねと言う。
彼女は嬉しそうだ。
けれど、大きくは頷けなかった。
だから、僕は何個か別の案を出してみた。
それでも彼女は譲らないので、結局僕ら二人は川沿いの花火大会に行くことになった。
「いやだ」も心の住人になった。
夏のある日、大学四年生。
川沿いの花火大会。同じバイトの彼女を待つ僕。
生まれて二度目。楽しみ半分緊張半分。
周りは浴衣に身を包んだ男女でいっぱいだ。
僕は彼女と選んだ浴衣を着ている。
まだかと待っていると一際きらめく浴衣姿の女性が。
彼女だ。
お待たせと言いながら彼女は僕のそばに来る。
可愛い。
伝える。未だに照れてくれる彼女が愛おしくてたまらない。
一緒に電車に乗る。
カップルで溢れる会場。
とても綺麗な花火。
彼女の横顔。
「一緒に来られて嬉しいよ」
彼女が言う。
目が輝いている。
僕は彼女の手をそっと握る。
二人だけの時間ができる。
ばーんと花火の開く音がした。
すると心に残る一つの言葉がとけだし、代わりに別の言葉が生まれる。
夏のある日、大学四年生。
僕は彼女に伝える。
“可愛い”と。
著者:ゆうしょう さん |
学校・学年:中央大学 4年 |
note:sskyh_aaiuo |
著者コメント:夏になると色々思い出しちゃいますね。 |
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