もう「火花」は読んだ? 大学生にオススメしたい歴代芥川賞受賞作品4選
お笑い芸人であるピース又吉直樹さんが書いた小説、「火花」が話題になっています。テレビなどでよく顔を知られている作者が、お笑い芸人の世界を書き、更には芥川賞も受賞したということもあって、興味を持ったという人も多いのでは。第153回となる芥川賞、これまではどんな作品が受賞しているのでしょうか?
■第75回「限りなく透明に近いブルー」村上龍
この短期間に、「火花」が発行部数を伸ばすまで、芥川賞受賞作品の中では、単行本の発行部数が1位であった村上龍氏の「限りなく透明に近いブルー」。基地の町の一室で、ドラッグやセックスに明け暮れる若者たちを描きます。退廃した生活を書いているので、好き嫌いが分かれるところですが、どちらにしても強い印象を残すのは、特徴ある筆致を使った文学ならでは。道徳や規範に縛られる社会人となる前に、独特の世界に酔ってみてはいかがでしょう。
■第77回「僕って何?」三田誠広
学生運動の時代といえば、現代の大学生にはあまり馴染みがないかもしれません。作品では、学生運動が大きな背景となっていますが、題名に表されるように、若者が誰しも大なり小なり悩む、普遍的なテーマを抱えています。上京して大学に入った「僕」は、学生運動に熱心な年上のレイ子と出会い、やがて同棲することに。受動的で巻き込まれタイプでありながら、冷めた目も持ち、自立を考える主人公の姿は、現代の大学生にも共感できるのではないでしょうか。
■第130回「蹴りたい背中」綿矢りさ
2004年史上最年少の19才で芥川賞を受賞、金原ひとみ氏の「蛇にピアス」とダブル受賞し、若い女性2人で会見したことでも話題になりました。「蹴りたい背中」での登場人物は高校生。高校という集団生活にうまくなじめずにいる女子高生のハツと、アイドルオタクでやはりクラスからはみだしている男子にな川が、ふとしたきっかけから関わり合うようになります。友情や恋という言葉でくくれない微妙な感情を、題名にもなっているエピソードに表現しています。所属する世界に違和感を持ち、どこか折り合えないでいる、若い人におすすめの小説です。
■第134回「沖で待つ」絲山秋子
住宅設備機器メーカーで総合職として働く「私」と、同期入社の「太っちゃん」。性も性格も違うのに、「太っちゃん」が結婚後も、信頼し合う不思議な仲です。営業職で勤めていた経験のある作者が描く会社生活は、リアリティにあふれています。そんな現実の中、二人の間で成立する約束は、もし片方が死んだら、残った方が相手の、家族にも明かしたくない秘密を消し去ってしまうというもの。それを実行する日がきてしまう「私」は……。社会人となっても、奇跡のような絆があるのだと思わせてくれる、せつなくて温かい読後感です。
又吉直樹さんは、大変な本好きでも知られています。これまであまり読書経験がないという人も、最初は、話題性やちょっとした興味からでも小説を読み、もっと読んでみたいと思ったら、各賞の受賞作品というのは、道標になってくれます。数多く出版されている本の中でも、自分の心を揺さぶる作品に出会えることを願っています。