「心」の悩みに答えはない。だからこそ、SHE’S 井上竜馬は唄い続ける #セルフライナーノーツ

編集部:ゆう

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イライラすることがあったとき、友達に当たってしまった。自分の気持ちをうまく説明できず、相手に誤解を与えてしまった。もう吹っ切れたと思っていたのに、気づいたら涙がこぼれていた。

人は、自分の心でさえも思い通りにすることができません。だからこそ、誰もが後悔を経験しているのではないでしょうか。

ピアノロックバンド・SHE’Sの井上竜馬さん(Vo/Key)は、そうした人間の心を唄い続けている人です。自分の感情とどう向き合うか。そのうえで他者とどう関係性を築いていくか。社会に生きている以上避けられないこの課題と、わたしたちはどのように付き合っていけばよいのでしょうか。

「心」をテーマにした最新アルバム『Tragicomedy』について、お話をうかがいました。

文:蜂須賀ちなみ
写真:佐藤友昭
編集:学生の窓口編集部

見逃しそうになるほど当たり前のことを言葉にしたい

――「Letter」、たくさんの人に広まっていっていますね。

ありがとうございます。「Letter」は2018年、シングルの候補曲をたくさん書いていた時期にできた曲でした。

僕らはメンバーそれぞれSNSをやっていますし、ファンクラブでラジオをやっているんですけど、ファンの方から「友達や彼氏・彼女と距離感をうまくとることができなくて……」という質問をいただく機会が多くて。

「Letter」は、そういう悩みを肯定したくて書いた曲。この曲を通して「こういうことはよくあるから、大丈夫やで」と言いたかったんです。そんな曲がいろいろな人に響いているのは、自分としてもすごく安心感がありますね。やっぱりみんな一緒なんやなって。

――SHE'Sは人と人との関わりについて、ずっと唄い続けているバンドですよね

はい。僕は、普通に生活しているなかではわざわざ考えないこと、だけどよくよく考えてみたら「いや、そんなん当たり前やん」って思えるようなことを歌にするのが音楽だと思っているんですよ。

そういう意味では、作詞家って哲学者とそんなに遠くない存在な気がしていて。

僕も、もしも曲を書いていなかったとしたら「どうして僕らは、大切な人から順番に傷つけてしまうんだろう?」なんて考えないと思います。だけど、見逃してしまいそうになるほどすごく当たり前のことを言葉にしたいと思いながら、いつも歌詞を書いているんです。

――当たり前だけど大切で、そして難しいと感じているからこそ歌にしているのかなと思いました。

それもありますね。いわゆる世渡り上手な人やったら、「心と向き合う」みたいなことを難しく考えなくてもうまくコミュニケーションが取れるだろうから、こういうことは唄わんと思うし。

僕は自分の人間性にコンプレックスがあるというか、人として好きになれない部分がたくさんあります。でも人間には自分を守ろうとする本能があって、自分が一番大事やと思ってしまうものだから、そこで生まれる矛盾みたいなものをずっと感じていて。

そこに対して、ちゃんと向き合いたいんですよね。放っておけば、自分を正当化する方向に行っちゃうのがわかっているからこそ、「まあいっか!」で終わらせず、「今のはなにがあかんかった?」「どうしたらよかったんやろ」っていうことを考えたい。

だから僕は、変わりたくて唄ってるんやと思います。

反省や後悔を繰り返したくない、変わりたいから唄っている

――どのように変わりたいのか、という部分が曲に表れているんですかね。

そうですね。たとえば、「Masquerade」は仮面舞踏会をテーマにした曲で、普段とは違うキャラクターを演じ続けることへの失望感・嫌悪感を自分自身に対して抱き始めたことから書き始めた曲でした。

友達や家族に対して、本当は素直な自分でいたいと思っているのに、嫌なことを嫌だと言えなかったりするのはあまりよくないですよね。ホンマに仲良くなりたいなら、自分の素顔をちゃんと見せて、そのうえで相手のことを「この人はこういう個性なんやな」って受け容れるべきやし。

――そもそも人が繕ってしまうのはなぜだと思いますか?

嫌われたくないからじゃないですかね?

多分、全員に好かれるのは無理だということはみんなわかっていると思うんですけど、「できるだけ人から嫌われたくない」という気持ちは誰しも持っているんじゃないかな。

嫌われることを避けるために、これまでに出会った「周りに好かれる人」のデータを収集して、その人を模倣して……みたいなことを無意識にやってしまう。そういうところから仮面が作られていくんじゃないかと思います。

僕自身もまさにそういうタイプでしたね。たとえば、高校生の頃、クラスの中心にいた人は、明るく振る舞えておもしろいことを言える人でした。

当時の僕は、その人のところにたくさんの人が集まっているのを見て、「こういう人になれたらなぁ」と無意識のうちに思うようになっていったんです。自分の性格にふざけた一面があるのは、きっとその経験からで。

だけど、ふと自分を省みたときに、めっちゃ恥ずかしい気持ちになるんですよ。「なんでそんなにかっこ悪いことしてるの?」「そんなやり方で、本当の友達になんてなれるわけないやん」って。

そういうかっこ悪い経験をしているからこそ唄える歌ではありますよね。反省や後悔があるからこそ、それを何回も繰り返したくはない、だからこそ言葉にしよう、と思えるんです。

「Masquerade」は自分が変わりたいからこそ唄った歌であり、僕の周りにいる大切な人や、SHE’Sのことを好きでいてくれるお客さんたちに「こういう人間にならないでほしい」と伝えるために唄った歌でもあります。

鍵は「想像力」? 27歳の今考える大人像

――大学生世代は子どもと大人の狭間だといわれていますが、現在27歳の井上さんとしては「大人になる」ってどういうことだと感じていますか?

現段階での考えになっちゃうんですけど、自分としては、想像力のある人に対して「大人やなぁ」って感じることが多いですね。

たとえば、うちの事務所の社長は、僕が話しながらどれだけ熱くなったとしても、「いや、それはこういうことでな」っていうふうに冷静に返してくれるんですよ。そうやって言葉を発する前に考えられる余裕のある人を見ると、かっこいいなぁ、大人やなぁ、って思います。

人って、自分に理解できないことが起こっているときに、どうしても感情的になってしまいますよね。だからこそ、自分自身を知ること、自分がなにに喜び、なにに悲しむのかを知ることが、大人への一歩なのかなと思っていて。

それを知ることができたら、「自分はこういうことをされて悲しかった」「だからきっと、他の人もこういうことをされたら嫌やろうな」というふうに想像できるようになるじゃないですか。

それはあくまで自分の物差しでの判断にはなりますけど、自分を知ろうとしている、そのうえで他人のことも考えようとしている、ということがまず大事なんじゃないかと僕は思っています。

――直情的にならず、一呼吸置いて考えるのが大事ということですよね。

そうですね。そう考えると、「想像力」は自分の人生のキーワードになっているかもしれないです。いまだにできへんこともいっぱいあるし、1日が終わってから後悔することも多々ありますけど、それ(想像力)を意識するのとしないのとでは、全然違うと思っていて。

僕、ケンカをしたときに黙り込む人のことが苦手だったんですよ。「言葉にせなわからへんやん」っていう気持ちがあったから。

だけど今だったら、「きっとこの人は“どんな言葉を使えば、相手に誤解なく伝わるのかな?”ってすごく考えてくれていたんだろうなぁ」と考えることができるんですよね。

だから想像力って、やさしさ、相手への思いやりに直結しているんだと思います。

――一方、「相手の迷惑になるかもしれないから」と考えすぎてしまい、悩みを誰にも相談できなくなり、抱え込んで、苦しくなってしまうという人もいますよね。

たしかに。人にはなかなか言いづらいっていう気持ちもめちゃくちゃわかります。

でもそういうときに救ってくれるもの、自分の気持ちを少し楽にしてくれるものが音楽やと思います。映画しかり、ドラマしかり、芸術はそういうものだと僕は思っているんですけど、SHE’Sの音楽もそのひとつになれたらいいですよね。

というのも、僕自身がそうだったんです。元々、よっぽど温度感の合う人とじゃないと仲良くしない性格やし、だから友達の人数はそれほど多くなかったし、その友達にすらあんまり愚痴りたくないなぁって考えちゃうタイプだったんですね。

そんななか、僕は、自分の部屋で爆音で音楽をかけたり、唄ったり、曲を作ったりすることでストレスを発散させていました。そうやって気持ちのやり場を作ってあげていたんです。

だからこそ、僕らの音楽が、誰かにとってのそういう場所になれたらうれしいです。最初に話したように、僕はあくまで自分を変えるために音楽をやっています。だけどそれが伝播して、僕らの大事なお客さんにいい作用を起こせればいいなあと思いますね。

強い願いと振り切った迷い、制作に導かれた成長について

――今回のアルバムには、憎悪や怒りを唄った曲もありますよね。人にはなかなか打ち明けづらい感情を井上さんが唄ってくれていることで、救われる人もいるんじゃないかと思いました。

怒りをテーマにした曲って、今まで1曲しかリリースしていなかったんですよ。それ以降なぜ書かなかったのかというと、あんまり得がないから。怒りの感情を曲にしても、自分がスッキリするだけで、自己満足で終わってしまうと思っていたんです。

だけど今回は「心」というアルバムのテーマがあったから、そういう曲もあえて書くことにしました。改めて書いてみたら……スッキリしましたね(笑)。

それに「Unforgive」を先行配信したとき、お客さんからもいいと言っていただけることが多くて、書いてよかったと思いました。

やっぱり、悲しみもうれしさも怒りも、全部あってこその「心」なんですよね。

――『Tragicomedy』、どんなアルバムになったと感じていますか?

強く言葉を発信することができたアルバムですね。

僕は基本的に「歌がリスナーに与えるものは、あくまで選択肢であってほしい」という考えだったんですよ。だから今までは「こういう考え方もあるよ」みたいな(歌詞の)書き方をしていたんですけど、今回は「俺はこう思う」「あなたにもこうしてほしい」っていうところまで唄っているんですよね。

それはなぜかというと……そもそも『Tragicomedy』は、自分の身近にいる人が心の病になったことをきっかけに書き始めたアルバムやったんですね。

今までは自分自身に対して言葉を書いていたから「ここまで言っちゃうのは恥ずかしい」みたいな甘えが多少はあったかもしれません。だけど今回は、その人を救うことが大事だったから迷いがなかった。だからこそ変わることができたんでしょうね。

――自分自身を見つめることも、そのうえで他者と向き合うことも簡単ではないけど、だからこそそれは発見や成長のきっかけになるわけで。このアルバムの制作を通じて、井上さんご自身もそういう経験をされたということですよね。

本当にそうですね。「この人の心をどうにかして救えないだろうか」「どうやったら楽にできるかな」と踏み込んで考えられたからこそ、言葉の強度が上がった、強くなれたんじゃないかなと思います。

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