「ネコの気持ち」はどこまでわかる?-麻布大学・高木博士の研究

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「ネコの気持ち」はどこまでわかる?-麻布大学・高木博士の研究

日本でイヌとネコの飼育頭数が逆転したというニュースもありましたが、ネコを飼っている人は増加傾向にあります。ネコを飼っている方はうちの子がどんな気持ちなのか知りたいのではないでしょうか? では、ネコの気持ちはどこまで測ることができるのでしょうか? 

今回は、ネコの気持ちを科学的に明らかにしようとする興味深い研究についてご紹介します!

「京都大学総長賞」を受賞した高木博士の画期的な研究

2017年(平成29年)度の「京都大学総長賞」を受賞した高木佐保博士(受賞時は京都大学文学研究科行動文化学専攻DC(ドクターコース)3年生)の研究は、「ネコの認知」について新しい知見をもたらす画期的なものでした。

受賞の理由は、

多様な動物種を扱う比較認知分野において、その扱いづらさから敬遠されていたネコに対して新たな研究手法を開発し多数の成果を上げ、国際論文誌Springer社、Elsevier社に投稿された2本は国内外から高い評価を得た。

と説明されています。

⇒参照:『京都大学』「平成29年度 京都大学総長賞表彰者」

研究の詳細については、下記URLの論文を見ていただきたいのですが、高木博士の研究によって、ネコは物理法則を理解し、それに反する事象が起きると「あれ?」と驚くことが明らかになっています。つまり「ネコの気持ち」にまで踏み込んだ独創的な研究なのです。

↑実験中の1カット。ネコは研究対象としてはかなり手強い存在です。

また、上記のとおりネコについては研究対象として扱いづらいこともあって、研究手法についても開発されているとはいえませんでした。高木博士の研究の独創性は、ネコに特化した研究手法を編み出した点にもあります。

⇒参照:高木佐保博士の論文(英文・abstractのみ)「Use of incidentally encoded memory from a single experience in cats」

⇒同上:「There’s no ball without noise: cats’ prediction of an object from noise」

⇒同上:「Cats match voice and face: cross-modal representation of humans in cats (Felis catus)

子供のころから「動物の心」に興味があった!

現在、麻布大学で学術振興会特別研究員(SPD)を務めていらっしゃる高木佐保博士にお話を伺いました。

――高木先生がネコの研究を始めたきっかけは何でしたか?

高木博士 子供のころから動物が好きで、「動物の心」に興味がありました。小さいころは、親戚のイヌと触れ合う機会がよくあったので、イヌは頭の中でどんなふうに考えているんだろう?と想像を巡らせたりしていました。親に「イヌはわんわんと頭の中で考えているの?」と聞いてみましたが、「どうなんだろうね」といった答えしか返ってきませんでしたけれども。

――人間は言葉で思考を巡らせますから、イヌの場合はたしかに「わんわん」という鳴き声かもしれませんね。

高木博士 イヌはヒトのような言語を恐らく持っていないので、「わんわん」で考えることはないと思うのですが、子供のころから動物の心理に興味があったのです。
そんなことはしばらく忘れていたのですが、同志社大学在学中に京都大学の藤田和生先生の講義に出会って、「幼いころの疑問を科学的に解明することができるんだ!」と気付き、感銘を受けました。それで動物の心理について研究しようと思い立ちましたので、きっかけは藤田先生の講義ということになります。

――それで京都大学大学院の藤田教授の研究室に進学されたのですね。

高木博士 はい。親から進学は止められましたが、どうしても入りたかったので。

――藤田教授の研究室では動物の心理について研究をされていますね※1。京都大学は、霊長類の分野で世界トップクラスの研究を行っていることで知られていますが。

高木博士 藤田先生も元々は霊長類研究所の出身ですが、現在は文学研究科で従来実験動物として用いられてきた鳥類やげっ歯類、さらにはイヌやネコなどの、人間と一緒に暮らす動物の心の働きについての研究も行っています。

――藤田研究室で高木先生はネコの研究を行われたわけですが、ネコの心理についての研究はポピュラーなのでしょうか?

高木博士 コンパニオンアニマルでいえば、やはりイヌの研究のほうが進んでいます。藤田研究室でもイヌの研究チームは2002年からありましたが、ネコの研究チームは私が在籍したときにできました※2。

↑「子供のころから動物が好きだった」という高木先生。

――ネコの研究チームの立ち上げメンバーなのですか?

高木博士 はい。たまたま同時期にネコ好きの人が多くいたので。ネコの研究は一人ではできないという面がありまして。チームで動いたほうが効率がいいですし。

――ネコは研究対象として扱いづらいそうですが?

高木博士 心理学の実験というと、例えば実験参加者にモニターに表示されるものを見てもらうとか、そのような形態のものが多いのですが、ネコはじっと座っていてくれないですからね。

――ネコのほうが落ち着きがあるような気がするのですが、そうではないのですね。

↑実験中の1カット。モニターを用いた実験に参加しています。

高木博士 寝ているときやくつろいでいるときはじっとしているのですが、人がじっとしていてほしいときにはそうしてくれません。人の思いどおりには動いてくれないです(笑)。
イヌなら「お座り」と言えばそうしてくれる子も多いですし、トレーニングで覚えさせることができるのですが、ネコの場合はそうはいきません。

――ということは、研究手法なども試行錯誤なのではありませんか?

高木博士 そうですね。今までイヌの研究で培ってきた手法を用いても、そのままではうまくいきませんでした。やはりネコの研究用のやり方を見つけないと。

――大変そうですね。

高木博士 でもつらくはないんですよ。基本、ネコが好きなので(笑)。

※1
⇒参照:京都大学大学院 文学研究科心理学研究室 藤田和生教授のホームページ
http://www.psy.bun.kyoto-u.ac.jp/fujita/

※2
藤田研究室には「CAMP-WAN」と「CAMP-NYAN」があり、前者はイヌの研究チーム、後者はネコの研究チームです。CAMPは「Companion Animal Mind Project」の略で、コンパニオンアニマルの心の働きを心理学の手法を用いて調べています。
『CAMP』公式サイト

『CAMP-NYAN TOKYO』公式サイト

↑高木先生の研究室。ワンコが一緒なのでとても癒やされるそうです。

↑高木先生の研究室は麻布大学キャンパスの7号館にあります。

研究目標は「ヒトとネコとのコミュニケーションを円滑にする」こと

――高木先生は自身の研究の目的、また将来の目標についてどのようにお考えでしょうか?

高木博士 日本でもイヌとネコの飼育頭数が逆転しましたし、たくさんのネコがヒトと共生しています。ヒトとネコとのコミュニケーションが円滑になるためには、「ネコがわかること」「ネコが知っていること」をヒトがわからないといけません。

その「ネコがわかること」「ネコの知っていること」をさまざまな側面から明らかにすることが研究の目的です。またその結果、「ヒトとネコが今よりもっと仲良くなれること」、それが最終的な目標ですね。

――ヒトとネコとのコミュニケーションはどのくらい円滑になるのでしょうか? 例えば、ネコはヒトの言葉を理解しているのでしょうか?

高木博士 実は、現在その研究をしていて、ネコはヒトが想像する以上にヒトの言葉を理解していることがわかってきました。論文発表前ですので、まだ詳細は申し上げられませんが、たしかにこの点は飼い主さんも気になるところだと思います。

――では、先生の新しい研究論文を楽しみに待つことにいたします(笑)。

高木博士 ネコは約1万年前から人間と暮らすようになったといわれています。イヌの方が古いとされますが、ネコの場合はネズミを取ることを期待されて一緒に暮らすようになりました。ヒトと積極的に協働してきたイヌと共生の歴史は異なりますが、もしかしたらネコも祖先種と比べるとヒトとコミュニケーションを取りやすいように変化した部分があるかもしれません。

――それはどのようにすれば確認できるのでしょうか?

高木博士 現在のイエネコの祖先種は「リビアヤマネコ」だといわれています。リビアヤマネコとネコの間にどのような行動的差異が見られるのかを比較研究することで、ヒトと共生する中でネコがどのような進化を遂げてきたのかを明らかにすることができるかもしれませんね。

比較研究は将来的には絶対行わないといけないのですが、リビアヤマネコは国内ではほとんど飼育されていないんです。そのせいもあって、なかなか難しいのが現状です。

研究の大変なところはネコの招集?!

――先生の研究で面白い点はどんなところでしょうか?

高木博士 動物の心は観察しているだけではなかなかわからないのですが、それを実験的に調査して明らかにするところでしょうか。

↑実験中の風景。ネコの様子を複数のビデオカメラで記録します。

――では逆に研究のつらい点は?

高木博士 そうですね……動物実験を行うもの全てにいえることだと思うのですが、ヒトと違って、予備実験を行ってある程度の結果を得ることができません。フタを開けてみないとわからない。予測がつかないんですね。

それで結果が出ないとつらいです。もちろん「結果が出ないこと」も一つの結果ですが、30-50匹のネコに対して実験を行いますので、結果が出ないとへこむこともあります(笑)。

――ネコを集めるのは大変ではありませんか?

高木博士 それが一番大変です(笑)。実験の説明をしてご協力いただけるボランティアの方を募るなどしています。やはりネコよりイヌのほうが実験参加者を募りやすいんです。

――それはなぜですか?

高木博士 散歩に出掛けた際に、イヌの飼い主さん同士が仲良くなってコミュニティーができます。それで、知り合いの飼い主さん同士で声を掛け合ったりなどしていただけるのです。

――ああ、なるほど!

高木博士 ネコは外に出ない分、SNSでつながっている人が多いと思うので、もう少しその方面での呼び掛けを行っていきたいと思っています。

――ネコの気持ちを理解するための研究ですので、「ネコの心理を知りたい」という飼い主さんはぜひ先生の研究に参加してほしいですね。

高木博士 そうですね(笑)。ぜひお願いしたいところです。

心配し過ぎないでやりたいことをやろう!

――当サイトは、現役大学生から大学進学を目指す高校生までたくさんの方が読んでいます。中には研究者になりたいと思っている読者もいます。
「研究者の道が気になっているけれど踏み出せない」という学生へのアドバイスがありましたら、ぜひお願いいたします。

高木博士 現在、メディアなどでも研究者への待遇が悪いと報道されたりしますが、そういう情報を見ているのかもしれませんね。ただ私としては、私が近視眼的すぎるのかもしれませんが……とりあえずやりたいことをやるほうがいいと思っています。

その方が精神衛生上もいいですし、未来のことは誰にもわかりませんから、やりたいことをやってみて無理だと思ったら、そこで少し立ち止まって、また自分が何をしたいのか、考えたらよいのではないでしょうか。

――なるほど。

高木博士 研究者ってつらいことはほとんどないというか……。もちろん私自身も不安定な雇用の上に立っているんですけれど、そんなに心配し過ぎることはないと思います。
一つの選択を誤っただけで人生が終了するなんてことはないので。何かしら次のステップで対応を取れば大丈夫でしょう。あまり心配し過ぎず、今、自分がしたいことを突き詰めていくことが大事だと思います。

――ありがとうございました。

そのままズバリの『ねこのきもち』なんてタイトルの雑誌がありますが、飼っているネコの気持ちを知りたいと思う飼い主さんは多いでしょう。しかし、ネコは言葉をしゃべれないですから、本当はどんな気持ちでいるのかは想像するしかありません。

高木先生のネコの心理に迫る研究がさらに進めば、ネコとのコミュニケーションがもっと円滑になる可能性があります。ネコ好きな人は高木先生の研究に期待しましょう!

(高橋モータース@dcp)

高木佐保 Profile
京都大学大学院 文学研究科博士過程修了。博士(文学)。
学術振興会 特別研究員(SPD) 専修大学 非常勤講師
現在、麻布大学で学術振興会特別研究員(SPD)を務める


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好きなものはチョコとビールと音楽と映画。ネトフリ廃人。ときどき絵を描きます。
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