「○○監督が選手にゲキを飛ばしました」とは、スポーツニュースなどで、よく聞かれる言葉。「ゲキ」は漢字で「檄」と書きます。スポーツのチームや企業の社員たちを強い調子で激励したり鼓舞したりする時に使われますが、この言い方は正しいのでしょうか。
「檄を飛ばす」の意味や語源を詳しく掘り下げながら、例文や類語も含めて説明します。
▼目次
1.「檄を飛ばす」とは?
2.「檄を飛ばす」は誤用が多い?
3.「檄を飛ばす」の正しい使い方・例文
4.「檄を飛ばす」の類義語・言い換え表現
5.まとめ
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「檄を飛ばす」は「げきをとばす」と読みます。どんな意味があるのでしょうか。
「檄を飛ばす」の「檄」は常用漢字表にはなく、表外字です。そのため、放送での字幕をはじめとしたマスコミでの表記は「げきを飛ばす」が使われています。この言葉には、次のような意味があります。
「檄を飛ばす」には、1つ目に「考えや主張を広く人々に知らせて、同意を求める。行動を促す文書を各方面に急送する」という意味があります。
そして、2つ目に俗用として「元気のない人に刺激を与えて活気づける」という意味があります。
現在よく使われている2つ目の意味は、間違いとまでは断言しませんが、本来の意味とは異なることが分かります。
「檄を飛ばす」の意味は分かりました。さてその「檄」とは、具体的にはどのようなものでしょうか。
「檄」とはもともと木札に書いた文書のこと。人々を徴集したり、説得したりする目的で書かれた「召文(めしぶみ)」や「触文(ふれぶみ)」などを指していました。
つまり、もともとは対面で肉声を使って口頭で伝えるメッセージではなかったわけですね。報道でも使われている、直接誰かを激励したり励ましたりする意味は、本来含まれていなかったと考えられます。
また、檄を送るでもなく、届けるでもなく「檄を飛ばす」という理由も探してみました。中国の文献に、「飛檄(ひげき)」という言葉があります。「檄を飛ばす」はこれを訓読みにしたものです。
三輔とは、中国の前漢時代,都の長安を中心に設けられた3行政区画の総称です。その地域に檄を飛ばしたのでしょう。特に、鳥の羽をつけた「飛檄」は「羽檄(うげき)」とも呼ばれ、国家の緊急事態に使われたそうです。
やがて、この「檄を飛ばす」という言葉が、「考えや主張を広く人々に知らせて同意を求める」という意味で使われるようになったのですね。「檄文を送る」という言い方もされます。
このように「激を飛ばす」という言葉は、その成り立ちに沿った本来の意味で使われてきました。しかし、昨今「激励する」という意味でも使われることが多いのはなぜでしょうか。
文化庁が行った「国語に関する世論調査」(平成29年度)によれば、「自分の主張や考えを広く人々に知らせて同意を求めること」という本来の意味で捉えていた人は全体の22.1%。でした。いっぽう、「元気のない者に刺激を与えて活気づけること」という意味で捉えていた人は、その3倍以上で67.4%でした。
本来の意味と異なるとはいえ、7割近くも支持されているとなれば、辞書の編集でも変化が見られるのは当然かもしれません。
『広辞苑 第七版』で2つ目に俗用として「刺激を与えて活気づける」意味が掲載されていることは述べましたが、他にも同じような扱い方をしている例があります。
もとは誤りだった意味が、なぜ誤用という注意書きではなく、俗用として辞書にも載るまでになったのでしょうか。その理由としては、「檄を飛ばす」の「檄」が、読み方も見た目も「激励」の「激」とよく似ていることが考えられます。
また、決起を促す場面では、しばしば激励を伴います。書き手側が文書を送って決起を促す意味で使ったとしても、受け手側としては激励されていると受けとめやすいことも容易に想像できます。
いずれにしても、複数の辞書に掲載されていることからも、「檄を飛ばす」を叱咤激励の場面で使うことを誤用と断定することはできません。むしろ、新しい用法として許容されつつある段階だと考えられます。
とはいえ、誤用が定着するかどうかは、まだ見守る必要があります。それというのも、平成15年度の調査では、本来の意味で捉える人が14.1%、俗用の意味で捉える人が74.1%でした。わずかですが、本来の意味が復元されつつあると見ることもできますね。
このようなケースでは、現状でどう扱うべきか、対応に困るところです。まず、書き手(話し手)としては「考えや主張を広く人々に知らせて、同意を求める。行動を促す文書を各方面に急送する」という本来の意味を尊重しましょう。同時に、読み手(聞き手)としては、「刺激を与えて活気づける」という意味で使う人が多いことを前提にコミュニケーションを取ると良いでしょう。
「檄を飛ばす」を本来の意味で用いる場合の例文を紹介します。
キャンペーンやプロジェクトなどで趣旨を理解してもらう旨の文書を送った時などに、次のように使えます。
年度代わりや節目の時期に、年度計画などを共有する時、次のように使えます。
社内報や広報誌、さまざまな紙媒体も「檄」として捉えることができます。
社内メールで共有する情報も一種の「檄」と捉えることができます。
決起集会を促す案内チラシなどは、まさに「檄」です。
「檄を飛ばす」の類語として、次の表現が考えられます。同じような意味で使いたい時に、言い換えの表現として使ってみてください。
読みは「げきぶんをおくる」。「檄文」は決起を促す文書のことで、全体としては「檄を飛ばす」と同じ意味です。
読みは「かいじょうをまわす」。「回状」とは順に回覧させる文書のこと。「回章」「回報」も同様です。文書を皆に読んでもらう点は「檄を飛ばす」と同じですが、順に送るため、勢いに欠けます。また、単なる案内にも使えるため、文書の内容は「檄」とは異なります。
読みは「せいめいをだす」。「声明」「声明書」は政治・団体が発する意見書のこと。発信者が限定される点を除けば、「自分の主張を広く人々に知らせる」という点で「檄を飛ばす」と同意です。
読みは「こうほうする」。「広報」とは企業や自治体、あるいは個人などが、思いや活動を伝え、共感を求めるために行う活動のこと。「檄を飛ばす」と異なるのは、決起を促す場面のほかにも、広くマーケティングの一環として使われる点です。
「檄を飛ばす」は、本来の用法と俗用が混在する微妙な段階に位置づけられる言葉だといえますね。誤解が生じそうなケースでは、辞書に載っているからと俗用を奨励するよりも、その言葉の言い換えで対応することをおすすめします。
例えば「活を入れる」。これは「刺激を与えて元気づける」という意味です。「檄を飛ばす」の俗用の意味とほぼ同じですね。気掛かりな場面では、その場に合った別の言葉で言い換えるほうがスッキリすることでしょう。
(前田めぐる)
※画像はイメージです
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