「役不足」を「力不足」の意味で使っていない? 正しい使い方を解説【例文つき】

2024/02/22

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「私には役不足だ」とは、どんな意味だと思いますか? 自分の力量に対して役が軽いという意味でしょうか。それとも自分には役が重すぎて無理と謙遜しているのでしょうか。この両方は互いに逆の意味ですよね。

何らかの役を受けることは、人生の大切な転機となることもあります。大切な場面でしっかり気持ちを伝えるためにも、正しい意味を把握して使いたいですね。「役不足」の意味や使い方、類語や対義語、例文を詳しく紹介します。

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「役不足」とは?

「役不足」の読みは「やくぶそく」。次のような意味があります。

やくぶそく【役不足】
(1)俳優などが自分に割り当てられた役に対して不満を抱くこと。
(2)その人の力量に比べて、役目が軽すぎること。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)


もともとは、「役者が役に不満をもつこと」という意味です。さらに、役者だけでなく、一般の人でも 「自分の力量に対して役が軽いこと」という意味で使うようになりました。

「役不足」は誤用が多い?

冒頭の「私には役不足だ」は、「自分の力量に対して役が軽い」「役が軽くて不満だ」という意味です。この「役不足」という言葉は、広辞苑でも注意書きがあるように 「力不足」の意味で誤用されがちです。

例えば、力不足という意味でへりくだるつもりで「役不足ですが、頑張ります」と言うと、「自分の力量に対して役が軽いけれど、頑張ります」という意味になってしまうのです。力不足どころか、おおいに自負していると受け止められるでしょう。

また、その逆の場面を考えてみましょう。あるチームに入りたいと考えていたのに他の人が選ばれた。そこで「どうして私ではダメだったのですか」と上司に言ったところ、次のような返事があったらどうでしょう。「君では役不足だと思ったからだよ」と。

上司も部下も本来の正しい意味で理解しているなら、「能力が認められているからこそ、あえて外された」と分かり、一件落着です。

しかし、聞き手である部下のほうが、もしも「力不足」という間違った意味で理解していると、コミュニケーションに重大な食い違いが生じてしまいます。部下は「自分は認められなかった」と落胆して、働く意欲を失うかもしれません。

この誤用について掘り下げるために、平成24年度(2012年度)に文化庁が行った「国語に関する世論調査」を参考に見てみましょう。「役不足」を「力不足」という意味で間違えて理解している人が51.0%、およそ半数という結果が出ています。「役目が軽すぎる」という本来の意味で捉えている人は、41.6%。全体の4割強でした。

10年間で正しく理解している人が増えてきてはいますが、まだ半分の人が間違えて理解していることが分かります。

また、年齢別の調査では、「力不足」という間違いの意味で捉えている人は、特に50代に多いことが分かりました。社会的にも重役が多い年代であるため、「役不足」という言葉を使う機会も多いはず。十分に気をつけたいですね。

「役不足」の正しい使い方・例文

「役不足」という言葉の使い方には間違いが多いことが分かりましたね。場面や前後の文脈に合わせて、誤解が生じないように使う必要があります。

例文1

社内の人選に関わる話で、第三者として意見を述べる時に次のように使えます。

優秀な彼には、今回はさすがに役不足でしょう。

例文2

任命されて、自分には役が軽すぎて不服な時や、再検討を願い出たい時に次のように使えます。

正直に申し上げると、私には役不足です。もっと責任あるポストを任せていただけないでしょうか。

例文3

上司の命に従い、他のメンバーを抜擢したものの、優秀な部下をがっかりさせたくない時に次のように使えます。

今回はがっかりさせたかもしれないが、〇〇さんには役不足だと考えているよ。見込みがあるからこそ、今回は軽いポストだと思ったんだ。これからもがんばってほしい。

例文4

定年になり地域貢献をしたいと考える人に、町内会の会長など地域の役を依頼したい時、次のように使えます。

取締役までされた〇〇さんには役不足だとは思いますが、どうか地域のためにお知恵を拝借できればありがたいです。

「役不足」の類義語・言い換え表現

「役不足」という言葉には誤用も多いため、誤解なく表したい場面では、言い換えも検討しましょう。完全に同じ意味の言葉は見つかりませんが、ニュアンスを理解して使い分けてみましょう。

1)役に不満

読みは「やくにふまん」。「不満」は、広い意味で「満足でない」という意味です。「役に不満」と使うと、「役不足」という意味に近くなります。任命された直後であれば、その場での気持ちだと分かるため、「不満」だけでも通じるでしょう。

2)その役では意に満たない

読みは「そのやくではいにみたない」。「意に満たない」は、広い意味で不満を表す言葉です。「その役では」と組み合わせて、「役不足」と同じような意味で使えます。ただし、任命された直後やその場であれば「意に満たない」だけでも通じることがあるでしょう。

3)物足りない

読みは「ものたりない」。「何となく不満である」という意味です。「不満」よりはソフトですが、直接的で分かりやすい表現です。ただし、広い意味で使われるため、場面に応じて「その役では」などの言葉を加える必要があります。

「役不足」の反対語・対義語

続いて、「役不足」と反対の意味で、「自分の力量ではその役をこなせない」という意味を持つ言葉を紹介します。

1)力不足

読みは「ちからぶそく」。能力や努力が足りないこと。「役不足」と正反対の意味です。

2)手に余る

読みは「てにあまる」。力が及ばないで持て余す。自分の能力を超えていて、処理しきれないこと。「役不足」と正反対の意味です。

3)手に負えない

読みは「てにおえない」。自分の力では扱いきれず、取り扱いに困ること。「役不足」と反対の意味に近いですが、役に限らず力量のことだけでも使えます。

4)持て余す

読みは「もてあます」。うまく扱えずに、困ること。役目だけでなく、人の世話や、時間などにも使います。

5)経験不足

読みは「けいけんぶそく」。何かをするには経験が足りないこと。役だけに限りませんが、役不足と正反対の意味でも使えます。

6)未熟

読みは「みじゅく」。学問や技芸、経験などが熟達していないこと。「〜するには未熟」というだけでなく、単独で「未熟者」という使い方もできます。

まとめ

「役不足」という言葉は誤用が多く、「揺れ」が指摘される代表的な言葉です。実際、SNSを検索しても、誤用が散見されます。しかし、文化庁の調査を見ると、回を重ねるたびに本来の意味で理解する人が増えている点には希望が持てますね。

補註を施した辞書でも、しっかりと間違いである点が指摘されています。自分や相手が誤用の多い年代だという場合は、言い換えや文脈に特に気をつけて使うようにしましょう。

(前田めぐる)

※画像はイメージです

【著者プロフィール】前田めぐる(文章術講師)

コピーライターとして「言葉と文章」に関わり続けてきた経験をもとに、企業・自治体・団体向け広報講座の講師を務める。ワークを取り入れた文章術研修では‘伝える’を‘伝わる’に変換する文章の書き方を伝授。「楽しくて分かりやすく、すぐ実務に活かせる」と定評がある。

執筆・ライティングの専門領域は、【言葉・敬語・文章術・マーケティング・リスクコミュニケーション】。公益社団法人日本広報協会広報アドバイザー、文章術講師。著書に『この一冊で面白いほど人が集まるSNS文章術』『前田さん、主婦の私もフリーランスになれますか?』など。京都在住。

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