誤用が多い!「情けは人の為ならず」の続きと正しい意味を解説【例文つき】

更新:2024/02/26

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「情けは人の為ならず」は「人に情けをかけると、めぐりめぐって自分のためになる」という意味です。しかし、この本来の意味で使っている人が5割にも満たないという調査結果があります。

また、複数の辞書で「人に情けをかけることは、かえってそのひとのためにならないとする解釈は誤り」という注釈が付けられています。わざわざ注意喚起を行うほど間違われやすい言葉である「情けは人の為ならず」。

正しい意味と使い方を例文とともに掘り下げてみましょう。

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「情けは人の為ならず」とは?

「情けは人の為ならず」は、古くからよく使われている言葉です。どのような意味があるのでしょう。

「情けは人の為ならず」の意味は?

「情けは人の為ならず」の読み方は、「なさけはひとのためならず」です。次のような意味があります。

【情けは人の為ならず】
情けを人にかけておけば、めぐりめぐって自分によい報いが来る。
人に親切にしておけば、必ずよい報いがある。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)


つまり「情けは人の為ならず」は、「人に情けをかけると、めぐりめぐって自分や身内のためになる」という意味です。

「情けは人の為ならず」には続きがある?

「情けは人の為ならず」には続きがあると聞いたことはありませんか?

なぜ、そのようなことが言われているのでしょう。「‘情けは人の為ならず’には続きがある」。そんな前置付きで、時々引用されているのが、国際的ベストセラー『武士道』の著者であり教育者、新渡戸稲造(1862-1933)が書いた一節です。次がその全文です。

施せし情けは人の為ならず おのがこゝろの慰めと知れ
我れ人にかけし恵は忘れても ひとの恩をば長く忘るな
(『武士道的一日一言』新渡戸稲造著・山本史郎解釈・朝日新聞出版/2017年)


続きも含めた全体の意味は「情けは他人のためではなく自分の心を満足させるため。だから、自分が他人にした良いことは忘れて、人から受けた恩は長く覚えていなさい」。4月23日の一言です。しみじみと心に響く教えですね。確かにこの一節を読むと「情けは人の為ならず」の続きがあると受け止める人もいるでしょう。

また、「めぐりめぐって自分や身内のためになる」という本来の意味に「見返りを期待しているから情けをかけるの?」と疑問を感じる人もいるのかもしれません。そのため「情けをかけたら忘れなさい」という教えがしっくりくるように感じられ、由来とまで捉えられることもあるようです。

しかし、この原著が書かれたのは、出版年より100年ほど前の大正時代。「情けは人の為ならず」という言葉が出てくる古い書物はそれ以前にもあることから、新渡戸稲造が初めて使った言葉ではないようですね。彼の文章はひとつの用例と見るべきでしょう。

また、本来の意味も別段見返りを求めての親切というニュアンスではなく、ストレートに「他人に親切にしよう。結果、良いこともあるよ」という意味だと考えれば良いでしょう。そもそも「情けは人の為ならず」という言葉の語源・由来は、定かではありません。つまり、初出とされる著書や、誰が言い出してどのように広まったかという事実が確認されているわけではないのです。用例が見つかっている古い書物は、次のように複数あります。

・『貞享版 沙石集』(1283年頃・無住著・仏教書)
・『曽我物語』(南北朝時代の軍記物・作者不詳)
・『太平記』(1370年頃・軍記)
・『謡曲・葵上』(1435年頃)
・『仮名草子・心友記』(1643年)ほか

由来は不明ですが、こうした事情に照らせば鎌倉時代にはすでに使われていたと見るのが妥当でしょう。また、それほど古くから使われ、今も話題にのぼる「情けは人の為ならず」は、日本人にとって本当になじみの深い言葉であることは確かですね。

「情けは人の為ならず」は誤用が多い?

平成22年度の「国語に関する世論調査」で「情けは人のためならず」の意味は、次のどちらかを尋ねたところ
・「人に情けを掛けておくと,巡り巡って結局は自分のためになる」
・「人に情けを掛けて助けてやることは,結局はその人のためにならない」
前者を選んだ人が45.8%、後者を選んだ人が45.7%という結果が出ています。

本来の意味を選んだ人とそうでない人との割合は、ほぼ同じという結果でした。これまでに3回調査が行われましたが、大きな変化はなく、毎回どちらも5割弱という数字です。

なぜ、それほど誤用率が高いのでしょうか。理由として、「為ならず」を「為にならず」と取り違えていることが考えられます。

・為ならず → 為+なら(断定の「なり」)+ず(打ち消し)= 為でない
・為にならず → 為に+なら+ず=為にならない

「に」があると「その人の為ためにならない」という意味に捉えられます。

しかし、「人の為ならず」には、「に」は入っていません。したがって、「人の為でない(=自分の為である)」という意味だと理解できます。

このわずかな意味の取り違えによって、誤用率が高いのではないかと考えられます。

ただし、昨今では前段の広辞苑からの引用でもあるように、「人に情けをかけるのは自立の妨げになり、その人のためにならない、の意に解するのは誤り」とわざわざ補注を施した辞書も増えています。今後どのような動きになるのか、しばらく見守っていきたいところです。

「情けは人の為ならず」の正しい使い方・例文

「情けは人の為ならず」をビジネスやプライベートで実際に使ってみましょう。以下にいくつか場面と例文を示します。

例文1

「落ち込んでいる後輩にどう接するべきか」と悩んでいる部下に対して、上司から次のように使えます。

〇〇さんをぜひ元気づけてあげてください。情けは人の為ならず、というからね。

例文2

仕入れ先の失敗に関して「もう今後は依頼しない」と憤る担当者がいるとします。同僚からの言葉として次のように使えます。

初めてのことだし、次回から十分気をつけると約束してくれたのだから、もういいじゃないですか。情けは人の為ならず、ですよ。

例文3

「他人に親切にしよう」という心がけについて日常の中で語る時、次のように使えます。

祖母から「情けは他人の為ならず、だよ」と教わってきたので、困っている人を見ると放っておけません。

「情けは人の為ならず」の類義語・言い換え表現

誤用されやすい言葉を使う時、相手に誤解を与えないかと不安を感じる人もいるでしょう。ここでは「情けは人の為ならず」と同じ意味を持つ言葉を紹介します。言い換えたい時に使ってみましょう。

1)善行善果

読みは「ぜんこうぜんか」。善い行いをすれば、必ず善い結果、良い報いがあるということ。

2)積善の家には必ず余慶あり

読みは「せきぜんのいえにはかならずよけいあり」。善行を積み重ねていけば、その報いとして必ず子孫にも幸せがもたらされる、という意味です。善い行いによって良い報いがある点は「情けは人の為ならず」と似ていますが、「積み重ねる」という点や「子孫の代まで」という点が異なります。

3)陰徳あれば必ず陽報あり

読みは「いんとくあればかならずようほうあり」。人目につかない善行には必ずいつか良い報いがあること。善い行いによって良い報いがある点は「情けは人の為ならず」と似ていますが、「人に知られず」という点が異なります。

4)陰徳は末代の宝

読みは「いんとくはまつだいのたから」。隠徳とはひそかに行う善い行いのこと。全文は、人に知られず徳を積むと、子孫代々良い報いがあるという意味です。善い行いによって良い報いがある点は「情けは人の為ならず」と似ていますが、「人に知られず」という点や「子孫の代まで」という点が異なります。

まとめ

「情けは人の為ならず」は誤用されやすく、会話や文章で気をつけたい言葉ですね。「人の為ならず=人の為でない=自分の為である」という流れで理解すると、改めて本来の意味をしっかり覚えることができそうです。

意味が合っているかと自信のない時、普段使わない言葉に出会った時には、今回のように辞書を引くというひと手間をかけてみませんか。自分で調べた知識は定着しやすいと言われます。少ない回数で定着すれば、そのあと何度も確認する時間を省けて合理的ですね。

(前田めぐる)

※画像はイメージです

【著者プロフィール】前田めぐる(文章術講師)

コピーライターとして「言葉と文章」に関わり続けてきた経験をもとに、企業・自治体・団体向け広報講座の講師を務める。ワークを取り入れた文章術研修では‘伝える’を‘伝わる’に変換する文章の書き方を伝授。「楽しくて分かりやすく、すぐ実務に活かせる」と定評がある。

執筆・ライティングの専門領域は、【言葉・敬語・文章術・マーケティング・リスクコミュニケーション】。公益社団法人日本広報協会広報アドバイザー、文章術講師。著書に『この一冊で面白いほど人が集まるSNS文章術』『前田さん、主婦の私もフリーランスになれますか?』など。京都在住。

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