「手をこまねく」の誤用は約半数! 正しい意味と使い方を例文つきで解説

2024/02/22

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「手をこまねく」とは「準備して待ち構えている様子」という意味ではありません。しかし、半数近くの人が間違えて理解しているという調査報告があります。なぜ、そのようなことが起きているのでしょうか。

誤用の背景や「手をこまねく」本来の意味と合わせて、正しく覚える方法を解説します。この機会にマスターして、ビジネスコミュニケーションに役立ててくださいね。

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「手をこまねく」とは?

もともとは「手をこまぬく」という言い方でした。近年では、「こまぬく」から音変化した「こまねく」がよく使われていますが、どちらも間違いではありません。早速、意味を調べてみましょう。

【手を拱く】
(1)腕組みをする。また、考え込む。
(2)手出しをせず、傍観している。腕をこまぬく。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)


「こまねく(こまぬく)」は漢字で「拱く」と書きます。念のため、単独の意味も紹介します。

こまねく・こまぬく【拱く】
左右の手を胸の前で組み合わせる。腕を組む。転じて、何もしないで見ている。傍観する。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)


「手をこまねく」には、まず「腕を組んで考え込んでいる」という意味があります。腕組みをして手を動かさないことから、転じて「何もしないで傍観している」という意味を持つようになりました。

「手をこまねく」は誤用が多い?

「手をこまねく」は誤用する人が多い言葉です。参考までに、令和元年度(2019年度)に文化庁が行った「国語に関する世論調査」を見てみましょう。

調査によれば、本来の意味で捉えている人が37.2%、間違えて捉えている人が47.4%。つまり、誤用している人が5割近くもいるという結果が出ています。しかも、その11年前の調査の時よりも若干ながら誤用する人が増えている状況です。

「手をこまねく」が「準備して待ち構える」という意味で使われるようになったのは、もともとの読み「こまぬく」からの音変化で「こまねく」が増えたことが原因だと考えられます。 「こまねく」の「まねく」という響きが「招く」を連想させ、「手招きしている→手招きして待ち構えている」という意味に誤解されてしまうのでしょう。

しかし、「何もせず傍観している」のと「準備して待ち構える」のとでは、正反対の意味になってしまいます。「準備はできた?」と尋ねて「もちろんです!手をこまねいていますよ」と元気な返事が返ってきたらどうでしょうか。現場が混乱するのは必至ですね。

では、誤用を防ぐにはどうしたら良いでしょうか。「こまねく」の 漢字「拱(く)」を覚えておくことを提案します。「拱」は漢検1級レベルの漢字ですが、さほどむずかしい文字ではありません。「拱」という文字を分解すると、「扌(てへん)」と「共」に分けられます。

つまり、両手を共に合わせて腕組みをするイメージです。すると「腕組み→何も手出ししない→見るだけ・傍観」という場面を連想できますね。

手をこまねくは、手を拱く。手を出さずに傍観するだけ」と覚えておきましょう。

「手をこまねく」の正しい使い方・例文

ここでは「手をこまねく」を本来の意味で使った場合の例文を紹介します。

例文1

傍観している様子を批判的に表現する時、次のように使います。

経営が破綻していることは分かっていたのに、上層部は手をこまねいていたらしい。

例文2

傍観するだけではなかったと反論したい時、次のように使います。

私たちもできるだけのことをしました。決して、手をこまねいていたわけではありません。

例文3

事態が悪化して何もなすすべがない時、次のように使います。

感染症の患者が急増すると入院もできないため、患者の家族は手をこまねくことしかできない。

例文4

ビジネス以外でも、困り果てた状況について次のように使えます。

町の過疎化が進んでいる。これ以上手をこまねいていると、限界集落になってしまうだろう。

「手をこまねく」の類義語・言い換え表現

「手をこまねく」の類語を以下に紹介します。全て「手をこまねく」と同じ意味です。言い換えたい時に活用してみてください。

1)拱手する

読みは「きょうしゅする」。「手を拱く」を熟語にした言葉で、全く同じ意味です。

2)傍観する

読みは「ぼうかんする」。手を出さずにそばでただ見ていること。

3)座視する

読みは「ざしする」。黙って見ていること。

4)黙視する

読みは「もくしする」。手を出さずに黙って見守ること。

5)手を束ねる

読みは「てをたばねる」。手を出さずに見ていること。

6)袖手傍観する

読みは「しゅうしゅぼうかんする」。袖に手を入れていることから転じて、手を出さずに見ていること。「手をこまねく」と全く同意です。

まとめ

日本語ではよく「言葉の揺れ」が話題になります。多少の変化なら仕方のないこともあるかもしれません。しかし、正反対の意味を持つ誤用が、本来の用法を揺るがすような状況であれば、大切な場面で使うことに不安も生じますね。

身近な間柄であれば、「それ、どちらの意味で使っているの?」とストレートに聞くのも良いでしょう。御用の多い言葉が日頃何気なく使っているものであればあるほど、手をこまねくことなく、大切にしていきたいと感じます。

(前田めぐる)

【著者プロフィール】前田めぐる(文章術講師)

コピーライターとして「言葉と文章」に関わり続けてきた経験をもとに、企業・自治体・団体向け広報講座の講師を務める。ワークを取り入れた文章術研修では‘伝える’を‘伝わる’に変換する文章の書き方を伝授。「楽しくて分かりやすく、すぐ実務に活かせる」と定評がある。

執筆・ライティングの専門領域は、【言葉・敬語・文章術・マーケティング・リスクコミュニケーション】。公益社団法人日本広報協会広報アドバイザー、文章術講師。著書に『この一冊で面白いほど人が集まるSNS文章術』『前田さん、主婦の私もフリーランスになれますか?』など。京都在住。

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