午前七時過ぎ、白い息を吐きながらいつもの道を歩き駅へ向かう。駅までの道は…|エッセイ企画「#Z世代の目線から」キーワード:あなたの2022
エッセイキーワード:あなたの2022
エッセイタイトル:『桜の訓示』/著者:寺田 翔 さん
902文字/2分くらいで読み終わります。
午前七時過ぎ、白い息を吐きながらいつもの道を歩き駅へ向かう。駅までの道はありふれたもので、パズルのピースをはめたかのように隙間なく整然と住宅が建ち並んでいる。しかしながら、あえて特徴を挙げるとすれば公園を通り抜けることであろうか。公園には、左右に桜が並ぶ石畳が敷かれた小道がある。私が中学生になりたての頃、桜色のトンネルに吸い込まれて以来毎朝、桜の小道を通り抜け駅へ向かっている。
しかし、今日はいつもと違った。公園の出入り口はフェンスで閉ざされていた。フェンスの網目を覗き込むと、反対側の出入り口もフェンスで閉じられていることがわかった。フェンスには再整備工事の張り紙があった。電車の時間が迫っていたため、駅へと急いだ。電車に揺られながら、桜の小道は無くなってしまうのだろうかと心配になった。目前にすると、通り抜けずにはいられないその趣は、さながら住宅街のオアシスであった。
その日から、フェンス越しに公園の様子を伺いながら駅に向かうようになった。その様は水を求めるラクダのようであった。
数日後、石畳は剥がされて土があらわになっていた。やはり、小道も再整備の対象であった。小道は無くなってしまうのだろうか、それとも新しい小道が造られるのだろうか。この日も電車に揺られながら、こんなことを思った。何気なく通っていた小道であるが、無くなるかもしれないとなると、途端に寂しく感じるものだ。日頃、当然だと思っている全てのことに感謝しなければならないと思った。
私は2022年の抱負を「挑戦」としていた。このエッセイコンテストへの応募を始め、その他にも自分なりの挑戦ができた。これはひとえに私を支えてくれる多くの人や物のお陰である。
2023年の抱負は「感謝」にしよう。
さらに数日後、フェンスの網目を覗くと桜の小道が元あった場所に、道を縁取るように杭が打たれ、新しい道を造る準備がされていた。工事は春先に完了予定だそうだ。工事が終わるころには、また桜色のトンネルを歩けるのだと分かり胸のつかえが取れた。
新しい桜の小道を通るたび、感謝の気持ちを大切にしなさいと桜に戒められる自分の姿がフェンスの網目から垣間見えた気がした。
著者:寺田 翔 さん |
学校・学年:大阪医科薬科大学 3年 |
著者コメント:人や物への感謝を忘れないことは大切なことです。しかし、それを常に意識し続けるのは簡単ではありません。諸行は無常です。改めて感謝を大切にしなければならないと感じました。大切な人や物を思い浮かべて読んで頂きたいです。 |