弁護士に聞いた! TPP交渉で「コミケ」の存立が危ない!? 2ページ目
■現在のコミケを法的に考察すると……。著作権の基礎知識
――そもそも現在のコミケは、法的にどういう扱いなのでしょうか?
篠田弁護士 現在のコミケが法的にどういう問題をはらんでいるか検討しましょう。やはり大きく問題となるのは「著作権法違反」です。
そもそも「著作権」がどのように発生するかご存じでしょうか。まず、
●「著作物」とは、文芸、学術、美術、音楽などのジャンルにおいて、人間の思想、感情を創作的に表現したもの
とされています。
そして著作権は、特許権などのように登録が必要ではなく、物を作った段階で自然に発生する権利です。要は、「創作性のある芸術的な作品」を作成すれば、それは著作物となり、それを創作した人が自然と著作権者となるのです。ゆえに、コミケにおいても元作品を作成した作者は、元作品の著作権を有することになります。
――なるほど。
篠田弁護士 著作権の内容は、大きく分けて、
●著作者の人格的な利益を保護する「著作者人格権」
●財産的な利益を保護する「著作権(財産権)」
の二つに分かれます。
「著作者人格権」は、その作品を作った著作者だけが保有する権利ですが、「著作権(財産権)」は、その一部又は全部を譲渡したり相続したりできます。書籍を作った作者が、出版社に著作権(財産権)を譲渡するようなケースが典型です。
――著作権(財産権)は譲渡できるのですね。対して、著作者人格権の方は著作者自身が有するもの、と。
篠田弁護士 その「著作者人格権」の内容としては、
●公表権……自分の著作物をいつどのような方法で公表するか決める権利
●氏名表示権……自分の著作物にどのような名前を表示するか決める権利
●同一性保持権……自分の著作物の内容等を勝手に改変されない権利
等があります。
コミケの販売物は、元の作品の設定やキャラクターを利用して改変を加えているため、少なくとも同一性保持権を侵害する可能性は高いといえます。
――なるほど。
篠田弁護士 また、著作権(財産権)の内容としては、
●複製権……著作物を印刷、写真、複写、録音、録画などの方法によって有形的に再製する権利
●二次的著作物を創作することに及ぶ権利……著作物を翻訳、編曲、変形、翻案等する権利
その他、
●ネットで公表する等の公衆送信権・伝達権
●口述権
●展示権
●頒布権
●譲渡権
●貸与権
等の権利があります。
そして、元作品の著作権者は、元作品を基にした二次的著作物を利用する権利も有するとされています。
■法的に見る「二次創作物の問題点」とは!?
――法的に問題になるとされる部分はどんな点でしょうか。
篠田弁護士 コミケの販売物が、元作品と全く同一性を有すると判断される場合は、「元作品を複製した」ということで複製権侵害となる可能性が高いといえますし、元作品を基として新たな創作性を加えた別の創作物を作成したと判断される場合は、「元作品を翻案した」「二次的著作物を作った」として翻案権侵害となる可能性が高いです。
――なるほど。
篠田弁護士 なお、一見著作権侵害に当たるように見えても、「私的複製=個人的に、または家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とした複製」に当たる場合は、著作権侵害に当たらないとされています。
――私的複製という考え方が通用するのでしょうか。
篠田弁護士 コミケにおいては、確かに同好の士という若干狭い範囲での販売とはなりますが、不特定多数が集まるコミケにおける販売行為が「私的複製である」という解釈はなかなか難しいと思われます。
その他にも、コミケでの販売が、元の作品と混同される事態に至った場合や、元作品の地位を奪うような態様で販売された場合には、著作権法違反のみならず、不正競争防止法やパブリシティ権の侵害、商標権侵害、意匠権侵害等の問題も生じる可能性も皆無ではありません。
――著作権法だけの問題にとどまらない場合も想定できるのですね。
篠田弁護士 コミケには、上記のような法的問題が現実にはあるのですが、著作権者等が黙認しており、問題視しない以上は、トラブルや裁判といった話にはなりません。
また、著作権法違反は「親告罪」なので、犯罪となるためには「著作権者の告訴が必要」です。なので、元の作品の著作権者が法的措置を取ったり、告訴をしない限りは、賠償責任を負わされたり、逮捕されたり、刑事処分が検討されたり、といった事態には至らないのが現状なわけです。