春になると鼻がムズムズ……花粉の飛散量に、多い年と少ない年があるのはなぜ? #もやもや解決ゼミ
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春になると、鼻がムズムズしてきたり、目がかゆくなったり……毎年花粉症で悩まされるという人も多いのではないでしょうか。外に出るときはもちろん、洗濯物や衣服についていたりして、家の中でも症状が出て苦労しますよね。そんな花粉症の人にとって気になるのが、「今年の花粉の飛散情報」。
ニュースなどで言われる花粉の量は、「今年は比較的多い」「今年は例年に比べて少ない」など、毎年変化があるように思いませんか? では、なぜ年によって差が生まれるのでしょう。
今回、「大気生物学」の専門家、京都大学の川島茂人名誉教授に回答いただきました! 川島先生は、スギ花粉の飛来についての研究も行っている方です。
スギ花粉の飛散量は、雄花の量が関係している
一般的にいわれている「花粉の量の多い・少ない」は、スギ花粉の「年間総飛散量」のことでしょう。年間総飛散量は、毎日の飛散量を足して年間の飛散量を求めます。厳密に言うと「飛散量」と「飛散数」は違うのですが、今回はたくさん飛ぶ年と少ない年の差がなぜ生まれるのか、という質問だと解釈して回答しましょう。
例えば、柿の「実」でも、たくさん実る年とあまり実らない年があります。これは「隔年結果」と呼ばれる現象です。梅や桜でも、「花」の量が多い年と少ない年があります。
一方、スギのような風媒植物(花粉を風で飛ばすことで受粉する植物)には「雄花(おばな、『ゆうか』ともいう)」と「雌花(めばな)」が付き、雄花の量が多い年と少ない年があります。この雄花の量がその年の花粉飛散量を左右するのです。
では、この雄花の量は何によって決まるのでしょうか?
ざっくりいえば、雄花が作られる際の「樹勢(樹木の生育状態)」と、前年の「夏期の気象」によります。
雄花は夏に作られますが、大まかにいうと暑い夏ほどたくさん雄花ができます。それに加えて、その年・その木自身が持っている「樹勢レベル」も影響します。樹勢は、その年にたくさんの雄花を作るとくたびれてしまうため、翌年は悪くなるのです。
つまり、気候条件がよく、その木自身の樹勢もよいと、たくさんの雄花ができ、花粉の量も多くなります。逆に、気候条件がよくても、樹勢が悪ければ雄花は少なくなり、花粉の量も少なくなってくるのです。
スギの木が花粉を飛ばすメカニズム
これは教科書的な説明ですが、風媒性の植物が花粉を遠くに飛ばす理由は、種の繁栄のために、より多くの個体と交わって(交雑して)次の世代を作っていくという性質があるためです。
具体的な花粉放出の仕組みは、
1.地上からできるだけ高い位置に、球形の軽い花粉粒子をたくさん形成する
2.気温が上昇した状況などを感知する
3.花粉を収めている雄花のひだを開く
4.風による木の振動を利用し、花粉を空気中に送り出す
となっています。
木が少ないはずの都心部でも「花粉症がひどくなる」原因は?
空気中から地表面に落ちてきた花粉は、そこが土であれば、付着して再び飛散することはほとんどありません。しかし、都会のようにアスファルトやコンクリートの地面が多いところでは、落下した花粉が付着しにくいため、風などによって再び空気中に舞い上がる「再飛散」という現象が起こります。
これが都会で花粉症がひどくなる理由の一つと考えられています。また、自動車の排ガスなど、大気汚染との複合作用もあると考えられています。
花粉症の対策は、花粉の吸引をできるだけ少なくすることが基本です。つまり、マスクは花粉症患者にとって非常に有効な防御ツールなのです。
川島先生によれば、その年のスギ花粉の飛散量の多さは雄花の量によって左右され、雄花の多少はその年の「樹勢」と「夏期の気象」によって決定されるとのこと。基本的には「暑い夏には雄花が多くなる」ので、猛暑の翌年は要注意。
現在、新型コロナウイルスの影響で、マスクがなかなか手に入らない状況が続いていますが、今できる範囲のなかで花粉症対策を万全に行なっていきましょう。
イラスト:小駒冬
文:高橋モータース@dcp
教えてくれた先生
京都大学名誉教授。博士(農学)。
1981年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。同年、農林水産省農業技術研究所気象科入省。1997年、農業環境技術研究所大気生態研究室長。2006年、東京大学大学院農学生命科学研究科教授。2007年、京都大学大学院農学研究科教授。
著書に『大気生物学入門』(朝倉書店,2019年)がある。