フィリピン留学の魅力にいち早く気付き、海外留学エージェントサービスを立ち上げた株式会社スクールウィズ・代表の太田英基さん。コロナ禍で留学ビジネスが大打撃を受ける中新たなサービスを始めた太田さんに、視点を変える方法をうかがいました。
→「コンプレックスを強みに変える!」強み発掘コンサルタント・土谷 愛さんのRethink術とは? #Rethinkパーソン
PROFILE
太田 英基(おおたひでき)
◉――1985年生まれ。宮城県出身。中央大学在学中にビジネスプランコンテストで最優秀賞を獲得し、仲間とともに株式会社オーシャナイズを起業。広告事業「タダコピ」を手掛ける。5年後に退職し、「サムライバックパッカープロジェクト」を立ち上げて世界一周の旅へ。3ヶ月間フィリピンで英語留学を経験した後、約2年間、50ヶ国を旅しながら、現地のビジネスマンを中心とした様々な人たち1000人以上と交流をする。その様子を宣伝会議、ITmediaビジネス、東洋経済、AERA、マイナビなどに寄稿。 2011年7月には旅中に東洋経済新報社から、『フィリピン「超」格安英語留学』を出版。
◉――2013年に株式会社スクールウィズを立ち上げ、代表取締役に就任。「世界を舞台にする人が当たり前になる社会」を会社のビジョンとして掲げ、コロナ禍の中、Garibenやリモートワーク留学など新サービスをスタートさせる。
▼Rethink INDEX
1.学生で起業、元・マッキンゼー東京支社長の言葉で世界を視野に入れるように
2.起業家から、世界一周旅のバックパッカーに転身
3.フィリピン留学から留学ビジネスの道に
4.コロナの影響で収益はほぼゼロ。ピンチの中で始めた新サービスとは
5.キャリアに悩んだら「世界」を選択肢に入れてほしい
6.「壁は扉」と思って体当たりすることが大事
宮城県の蔵王町という田舎で育ち、高校まではバレーボールの部活ばかりの毎日でした。だから部活を引退していよいよ受験生になったとき、全然学力がなかったんですよ。数学と英語がとにかく苦手で、何回模試を受けても平均偏差値は40くらい。これだけ聞くと、今英語に携わる仕事をしているのが不思議ですよね。当時は筆記試験の回答を丸暗記をし、なんとかハイスコアをとって中央大学商学部経営学科に進学しました。
大学受験を意識した頃から経営者になりたいという漠然たる思いは持っていましたが、何をやりたいかという肝心の中身はありませんでした。会社を立ち上げるきっかけになったのは、インターンシップ先の仲間たちと考えた「タダコピ」というサービス。コピー用紙の裏面を広告の掲載スペースにし、大学内でコピーを利用する学生の費用負担をなくすというものでしたが、これでビジネスプランコンテストで最優秀賞を獲得したんです。タダコピを事業として展開するために、大学2年生で株式会社オーシャナイズを立ち上げました。
起業から2、3年経った頃、元・マッキンゼー東京支社長の横山禎徳さんの勉強会に参加したことがありました。そこで自分がいかに世界を視野に入れておらず、ドメスティックな視点しか持っていなかったことに気付かされたんです。このままだと日本の中で自分の人生が終わってしまう。世のため人のためになるようなことをやりたいと言っていても、今の自分では、日本人のためというのが限界地点になっちゃうなと。この気付きは僕の中での大きな出来事でした。
その数カ月後にタダコピのサービスを中国で展開するため、現地にいる韓国人のパートナーと会食をする機会があったんですよ。彼は中国語も英語も韓国語もできて、日本語もカタコトだったら話せる人だったのですが、一方僕たちは英語がまったく話せず、通訳を介さなくてはコミュニケーションすらままならない状態。二次会のカラオケで体を張って盛り上げるしかないなんて、非常に格好悪いなと思いました。ビジネス相手と同じ土俵に立っていないと痛感しました。
こうした出来事があって、僕は24歳で会社を辞め、世界を見にいくことにしたんです。
ただ、会社を辞めたときは、まだ海外に2〜3年身を置くということくらいしか決めていなかったんですよね。欧米の大学でMBAを取得するか、インドやブラジルに行って自分のビジネス相手を見つけにいくか…決めかねていたら、知人から「この先の人生で世界中を見て回る時間ってなかなか作れないんじゃないの?」と言われたんです。確かにそうだなと思いました。僕が海外で手に入れたかったものは三つ。英語を話せるようになることと、世界で今何が起こっているかを知ること、そして世界中に仕事の相談ができる友達を作ることでした。その目的を果たすために世界に旅立ちました。
一人の青年が旅に出るだけのことだったんですが、サムライバックパッカープロジェクトという銘打ってスポンサーをつけて、一人で記者会見をやったりプレスリリースを打ったりしてましたね。友達には意味がわからないと言われましたけど(笑)。
僕が旅に出た2010年は、Twitterがちょうど流行り始めたタイミングだったんですよ。世界旅行をしながら毎日リアルタイムでツイートしていたのですが、当時まだそういう旅人ってほとんどいなかったので、フォロワーも3000人から1万8000人くらいまで一気に増えました。フォロワーの人たちが僕のツイートを見ながら旅をするという感じだったと思います。ツイート内容も半分はエンタメで、半分はビジネス目線のものにしていました。僕の旅を通して日本の若い人が世界に向き合うきっかけを作りたいと思っていたので、ツイートやメディアでの記事執筆は精力的に行いました。
実は世界旅行に旅立つ前に、英語を学ぶため3ヶ月フィリピンに留学したんです。当時はまだフィリピン留学がマイナーだったので、正直ネタ作り程度の気持ちで行ったんです。ただ実際に行ってみたら、すごく良かった。その経験をネット記事で発信したところ、1週間で10万PVくらいになってヤフトピにも上がったんですよ。それを見た東洋経済からフィリピン留学のガイドブックを出版したいというお話をいただいて、2011年に『フィリピン「超」格安英語留学』(東洋経済新報社)という本を出しました。
▼フィリピン留学ブームの火付ともなった『フィリピン「超」格安英語留学』
その後、日本でどんどんフィリピン留学の人気が高まり、僕が帰国する2012年にはすっかりブームになっていました。でもフィリピンにはたくさんの語学学校があり、皆どんな学校に行っていいかわからない迷子状態になっていたんですよね。この問題を解決するアプローチとして、留学に行った人のレビューを集めることをやりたいなと。ずっと考えていたのですが、おそらく自分が世界一周しているうちに誰かがこういうサービスを始めるだろうとも思っていたんですよ。だけど日本に帰国後、まだ誰もやっていなかったので、これは自分のミッションだと思うようになりました。
最初はボランティアベースで留学のクチコミサイトを始め、それが徐々にビジネスに繋がっていって2013年に株式会社スクールウィズを立ち上げました。
留学ビジネスに大きな変化が訪れたのは2020年2月。新型コロナウィルスの流行によって、各国でロックダウンが起きてしまいました。僕たちは留学に行っているすべてのユーザーさんたちに対して日本への帰国を推奨する案内を出し、帰国手続きや留学予定の人たちの渡航延期手続きに追われる日々を過ごしました。結局4月中旬まではかなりバタバタとしていましたね。
留学ビジネスをメインでやっていたので一時は売り上げもほぼゼロになり、すぐ打開策を考えなければならない状況でした。会社に出資するインベスターからも「仮に今会社を清算する選択をしても文句はない」と言われるくらいでした。ただ僕は不思議と会社を畳もうとは思わなかったんです。自分の責任というより外部環境の変化で訪れた危機だったので、俄然燃えちゃったんですよね。どうやって乗り切っていくかしか考えませんでした。
僕らの会社が掲げるビジョンは「世界を舞台にする人が当たり前になる社会」。
それに対して何ができるのか改めて考え直し、突き詰めていきました。留学はビジョンを実現するための一つの手段で、留学ビジネスだけに的を絞る必要はありません。
そこで新たに「Gariben」と「リモートワーク留学」という二つのサービスを始めました。
「Gariben」は僕の幼少期の体験が着想源になったサービスです。
小学生の頃、クラスで自主学習をした内容に応じてポイントをもらえるという、チーム対抗戦のようなものをやっていたんですよ。例えばドリルを3ページやったら、3点もらえるみたいな感じに。当時それにハマっちゃってしまって、めちゃくちゃ勉強するようになりました。チームで競うので自主的にみんな勉強するようになって、クラス全体の学力もかなり上がったんですよ。その仕組みはずっといいなと思っていたので、「Gariben」にピアラーニングという手法を取り入れたんです。
ピアというのは仲間という意味。5人組を作り、毎日の学習の進捗報告や共有し合い、切磋琢磨していくサービスです。お互いに毎日の学習報告をするので、サボりたい誘惑に駆られても、仲間から「今日は2時間勉強しました」といったレポートが届くと、自然と自分も勉強しなければと思えるんです。
→「Gariben」を経た人のスコアはどのくらいの変化があったか知りたい!
コロナ禍で始めたもう一つの試みが「リモートワーク留学」です。
短時間で英語が話せるようになるには、やはり留学が一番有効です。ですが、社会人になると転職のタイミングでないとなかなか留学に行くのは難しい。転職しない人にとっては留学に行くチャンスがないんですよね。実は会社を辞めず、海外でリモートワークをしながら語学留学を両立する方法は、コロナ禍以前からずっと構想していたんです。何社かの人事担当者にも相談に行ったんですが、「そもそもリモートやってないからね」と断られまくりました。ただコロナ禍になってからはリモートワークが導入され、やってみたら意外と便利だとみんなが実感したんですよ。
アフターコロナでも、絶対に一定程度リモートワークは残ると確信していたので、もうチャンスしかないと思いました。今後はリモートワーク留学のムーブメントを作り、カルチャーまで落とし込みたいと考えています。
今後もたくさんやりたいことがあります。
まず、本気で英語を習得したいと思う人が1、2年で話せるようになるシステムを作ること。英語学習って何年続ければいいのかわからない人も多いでしょう。「これとこれをやったら何年後には英語が話せるようになりますよ」と言えるようなサービスを提供したいと思っています。
また、英語を学ぶのではなく英語で学ぶというところまで学習のステージを上げたいとも考えています。今後僕たちは、英語を学んだ人が、国籍関係なくグローバルに仕事ができるようになるまでの橋渡しをしていくつもりです。
物事は多面的に考えなければなりません。僕は国際情勢の変化があったときに、あの国の人はどう思うのか、また別の国の人だったらどうかなどと自分なりにいろんな視点から物事を見つめるようにしています。例えば、各国のメディアでは報道の仕方も様々ですし、ウィキペディアの設定言語を別の言語にするだけでも国ごとに捉え方が違うことがわかります。一度試してみてはいかがでしょう。
フレッシャーズの皆さんは、何年か先に自分のキャリアや人生をどうしようと悩むかもしれません。そのときには世界を視野に入れてみてください。ぜひ頭の中に世界地図を描いてください。例えば、農業を勉強している人はオーストラリアの大規模農園やキューバのカタツムリ農法を学びに行ってもいいですし、プログラミングをやっている人はシリコンバレーの会社に就職するのもいい。世界を視野に入れて人生を選択できるようになってほしいと思っています。日本の中だけで人生が終わってしまっては、もったいなさすぎます。特に20代のうちは世界という選択肢を頭の中に入れておいてほしいですね。
僕は困難に立ち向かうとき、自分自身に「壁は扉」だというようにしています。これは精神論なのですが、人間って壁が目の前に現れると無理だと思って後ろ退りしてしまうんですよ。でもそれが本当に壁かは、わからないじゃないですか。試しに一回体当たりしてから考えたっていいんです。何もアクションしなければ変化は訪れません。体当たりしてみたら意外と壁だと思っていたものが扉に変わって、新しい世界を見せてくれるかもしれませんよ。
取材・文:安藤茉耶
編集:学生の窓口編集部
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