「食い下がる」ってどういう意味? ビジネスでの正しい使い方を解説【例文つき】

2023/12/26

ビジネス用語

ビジネスの世界で、あるいは日常生活で時折耳にする「食い下がる」という表現。その正確な意味やビジネスでの適切な使い方を知っていますか? 今回は「食い下がる」という言葉に焦点を当て、その意味やニュアンス、ビジネスシーンでの使い方を解説します。この機会にマスターして、効果的なコミュニケーションにぜひとも役立ててください。

「食い下がる」とは?

「食い下がる」という言葉について、意味や語源、使い方の注意点などを掘り下げてみましょう。

「食い下がる」の意味は?

まずは「食い下がる」の意味をチェックしましょう。

【食い下がる】くいさがる
(1)かみついたり、取りすがったりして、離れまいとする。
(2)ねばり強く争う。どこまでも追求する。
(3)相撲で、相手の前褌(まえみつ)を引き、頭を相手の胸につけて低く構える。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)


「食い下がる」とは、 物事を諦めずに粘り強く追求したり、立場が上の相手や強い相手に対してしつこく交渉したり、とことん挑んだりする姿勢や様子を表す言葉です。

「食い下がる」の語源・由来は?

「食い下がる」を文字通り解釈すれば「食いついてぶら下がること」です。例えば、小さくすばしこい猟犬が自分よりも大きな猪に食いついてぶら下がり、猪を弱らせるような場面を想像してみてください。小さな動物が強い相手に対して機敏さや勇猛さを発揮し、立ち向かう様子です。

また相撲では、相手の前褌(まえみつ)を引き、自分の頭を相手の胸につけて低く構える組み方を「食い下がる」といいます。そこから、スポーツや勝負事、交渉などで粘り強く戦ったり、追及したりすることを「食い下がる」と表すようになりました。

「食う」という語感が、野生的な強さを感じさせますね。しかし、「食い下がる」はどちらかといえば、 弱い立場にある側が強いものに向かってくじけずに向かっていく様子を表す言葉です。力強く頑張るだけでなく、知性や戦略を駆使して、とことん追及する場合に使われます。

「食い下がらない」との違いは?

「食い下がる」と「食い下がらない」は、それぞれ全く逆の意味を持つ言葉です。ここでは、ビジネスで主に使われる、交渉や商談、意見の調整などの場面を想定して解説します。

例えば、営業担当者が新規取引先に対してようやく見積書を提出した段階を想定してください。そこで、相手から「予算に合わなかったので、今回は諦めてください」という回答だったとします。

まず「食い下がる」場合です。 簡単に諦めないという意味なので、相手に対して粘り強く、どこまでも交渉するわけです。どれくらい予算が合わなかったのかを聞き出して、再度検討するでしょう。品質や個数、人員、日程など予算に合わせられる部分はないか、調整するかもしれませんね。相手に予算に対して譲れる部分は譲りながらも、しぶとく交渉を続けるでしょう。

一方で「食い下がらない」は、「食い下がる」に否定の「ない」を加えた言葉です。「食い下がることがない」という意味です。相手から「諦めてください」と言われた場合には、 あっさり諦める様子を表します。「承知しました。また機会があればよろしくお願いします」と次回のチャンスを待つことになるでしょう。

ただし、「食い下がらない」という表現はあまり一般的ではありません。「諦めずにもう少し頑張ればよかった」という意味で「どうしてそこでもっと食い下がらなかったのだろう」と「過去形+否定」の形で使うことは適切ですが、「現在形+否定」では少々無理があります。

「食い下がろうとしない」「食い下がることをしない」という言い回しの方が自然です。

「食い下がる」は誤用が多い? 使う際の注意点

ここまで述べたように「食い下がる」は諦めずにとことん追及する様を表す言葉です。しかし、「下がる」という言葉が入っているために、「引き下がる」という意味に取り違えてしまう誤用も多いようです。その場合、本来の意味とは全く逆の意味になってしまいます。

「食い下がる」を「引き下がる」と同意だと取り違えてしまうと、前述の「食い下がらない」でも同様の間違いが起こります。「食い下がらない」は「諦めない」という意味のはずですが、「食い下がらない=引き下がらない=諦めない」と誤解してしまい、誤った使い方になりかねません。

こうした誤用を防ぐためにも 「食い下がる」の「下がる」は、弱い動物が大きな動物の首に食いついて「下にぶら下がる」と覚えておきましょう。一方、「引き下がる」の「下がる」は「後ろに下がる」ニュアンスです

「食い下がる」のビジネスでの使い方・例文

「食い下がる」の正確な意味を把握したところで、実際の場面でどのように使えるかを見ていきましょう。一度ではうまくいかなかったり、置かれた状況が納得いかないものであったりする場面で諦めたくない時に「食い下がる」を使えます。

物事を諦めたくない時の使い方

今後の仕事について社内で話している時に、次のように使えます。

<例文>

たとえ今回の成約が無理でも、どこまで食い下がっていけるかで、先方の印象も変わってくると思います。

上司に対して諦めずに提案する様子を表す時の使い方

上司に企画書を提出して却下されたものの、諦めない社員を形容する場合に、次のように使えます。

<例文>

彼は上司から企画書をダメ出しされたが、翌日すぐに修正版を提出して食い下がった

待遇に納得がいかない様子を表す時の使い方

置かれた状況に納得できず、諦めない様子を表す場合に、次のように使えます。

<例文>

彼は配置換えに納得できず、人事部長に食い下がった

仕事でとことん追求する様子を表す時の使い方

「食い下がって〇〇する」という使い方もできます。例えば、取材の仕事で記者が真実を追求する場合、次のように使えます。

<例文>

〇〇社の会見では、私も記者としてかなり食い下がって質問しました。

部下やスタッフに助言をする時の使い方

取引先と交渉して諦めた部下に対して再チャレンジしてほしい時、次のように使えます。

<例文>

あなたらしくないですね。どうしてそこで〇〇課長にもっと食い下がらなかったのですか?

「食い下がる」の類語・言い換え表現

「食い下がる」と同じ意味を持つ言葉を紹介します。言い換えたい時に、使ってみましょう。

1)交渉する

読みは「こうしょうする」。「交渉」は取り決めのために、相手と話し合うこと。「粘り強く」を加えると「食い下がる」と同じ意味になります。ただし、「食い下がる」が勝負事にも使えるのに際し、「交渉する」は話し合いなどの場面に限られます。

2)粘る

読みは「ねばる」。「諦めずに根気良く続ける」という意味です。成果を求める場合だけでなく、単に長く続ける場合でも使えるのが「食い下がる」との違いです。

3)立ち向かう

読みは「たちうかう」。「困難なことにも正面から取り組んで解決しようとする」という意味です。強者に対しての姿勢を表すことが多いため、「食い下がる」と似ています。

4)引き下がらない

読みは「ひきさがらない」。「引き下がる」が「その場から退く」という意味なので、その逆である「引き下がらない」は「そこから退かない」という意味になります。つまりは、「食い下がる」と同じような意味です。

「食い下がる」の対義語

「食い下がる」と反対の意味を持つ言葉を紹介します。言い換えたい時に、使ってみましょう。

1)諦める

読みは「あきらめる」。「望みを捨てる。実現が不可能だと感じ、思いを断ち切る」という意味があります。「食い下がる」とは反対の意味です。

2)撤退する

読みは「てったいする」。戦いや試合の場所、ビジネスの市場から引き上げること。諦めない意味を持つ「食い下がる」とは反対ですが、「撤退する」は重要で大きな案件や他社との競争自体を止める場合に使われることが多い言葉です。

3)引き下がる

読みは「ひきさがる」。「その場から退く」という意味です。「食い下がる」はその場から退かない、諦めない場合に使うため、反対の意味の言葉だといえるでしょう。

まとめ

「食い下がる」のように誤用の起きやすい言葉をじっと眺めていると、初めは正しい意味や用法を理解しているつもりでも、だんだん混乱してくるようなところがありますね。そんな時は今回のように、最小単位の言葉を取り上げて意味を検証したり、語源から考えるようにしたりすると、しっかりと理解できます。迷ったら、掘り下げてみましょう。

(前田めぐる)


※画像はイメージです

【著者プロフィール】
前田めぐる(文章術講師)

コピーライターとして「言葉と文章」に関わり続けてきた経験をもとに、企業・自治体・団体向け広報講座の講師を務める。ワークを取り入れた文章術研修では‘伝える’を‘伝わる’に変換する文章の書き方を伝授。「楽しくて分かりやすく、すぐ実務に活かせる」と定評がある。

執筆・ライティングの専門領域は、【言葉・敬語・文章術・マーケティング・リスクコミュニケーション】。公益社団法人日本広報協会広報アドバイザー、文章術講師。著書に『この一冊で面白いほど人が集まるSNS文章術』『前田さん、主婦の私もフリーランスになれますか?』など。京都在住。

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