長い不景気が続く日本。なかなか大企業に就職できない学生たちに対し、学生起業を呼びかける人も少なくない。総務省統計局が発表した平成19年就業構造基本調査によると、学生起業家の人数は、個人の自営業主が8600人(全体420万人)、会社起業が1100人(全体160万人)、会社企業する人全体からすると学生起業家は0.07%にも満たなかった。しかしこれ以降のデータは公開されてはいないものの、雇用情勢の悪化や起業情報の浸透により、在学中から会社をつくる学生は増加傾向にあるようだ。
起業は、自分の可能性を伸ばすための一つの手段である。今回は学生起業の実態について、匿名を条件に、起業したい学生を支援しているキャリアカウンセラーM氏に伺った。
手続きを踏めば会社はつくれる。起業する本当の意味とは?
「学生だからとか、社会人だからとか、実は起業する時期ってあまり関係ないと思っています。個人的には、自分が思いついたアイデアやサービスを社会に送り出したい! と感じたときが起業する頃合いなのでしょう」そう語るM氏自身も、大学生のときに起業経験を持つ。その会社は1年で辞めてしまったそうだ。その理由は、
「あるリゾート地へアルバイトを紹介する仕事だったのですが、頼まれているうちに、話がだんだん大きくなっていき、月にいただく金額も100万単位になってしまった。会社をつくったものの、学校をちゃんと卒業したいという気持も強かったので、時間管理が難しくなり、事業を継続できなくなってしまったんです」
ただし、失敗した経験は、その後のビジネスマンとしてスキルに役だっているという。
「会社は手続きを踏めば、どんな人でもつくれる。本当に大切なのは、その事業を継続的に社会に送り出すために何ができるか、ですよね。その視点を失敗から学びました」
可能性はつぶすな。焦らなくても時はくる
現在は、起業を志す学生たちを支援する方へまわったM氏。現状について伺った。
「相談を聞いていると、事業計画がまったくまとまっていないケースもあります。ただ、彼らの可能性の芽を摘み取らないためにも、できる限り叶える方向を模索しながら進めています」M氏は、学生たちの可能性は無限大であるという。それを伸ばしていくためには、自分だけでなく周囲に事業価値を伸ばしてくれるブレーンを持つことも重要だという。
「起業したが仕事が忙しく、留年を繰り返し大学を辞めていく人もいます。大学で学ぶ必要がなくなったという理由であれば構いませんが、学生の本分である勉強が疎かになり、せっかく学費を払って入学した大学を辞めてしまうのは何か違う。自分一人ですべてを動かそうとせずに、ブレーンを上手に使うのが賢い方法です。それが会社をつくる醍醐味でもありますよね」
自分の夢を実現するために、突っ走るのも自由だ。しかし自己実現ばかりを望むのではなく、起業するのではあれば、企業の社会的役割や貢献についてもしっかり考えて世の中に飛び出さなくてはならない。M氏によると、アイデアを温めつつ一旦企業に就職し、ノウハウを学んでから、独り立ちする人も多いという。
「夢をあきらめなければ、時は必ずきます。焦らずモチベーションを保って欲しいですね」(M氏)
一般的に学生が起業した会社だからと優遇されることはない。厳しい就職戦線を勝ち抜くのも、起業し継続するのも、ハードルの高さは変わらないのかもしれない。
文●坂本拓也
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