「朝令暮改」という言葉を聞いたことがありますか? 朝聞いた命令が夕方には変わるといった具合に、法令や政策、指示などがころころ変わることを意味する四字熟語です。
政治やビジネスの場面で状況を説明したり、上司に苦言を呈したりする時に使われます。言い換えや例文も含めて、「朝令暮改」の使い方をマスターしましょう。
▼目次
1.朝令暮改とは?
2.朝令暮改のビジネスでの使い方・例文
3.朝令暮改の類語
4.朝令暮改の対義語
5.まとめ
「朝令暮改」という四字熟語にはどのような意味や由来があるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
「朝令暮改」は「ちょうれいぼかい」と読み、辞書によれば次のような意味があります。
なお、「朝改暮変(ちょうかいぼへん)」「朝改暮令(ちょうかいぼれい)」ともいいます。
「朝令暮改」は、もともと『漢書・食貨志(かんしょ・しょっかし)』に由来する言葉です。前漢時代(紀元前206年〜8年、文帝のもとで貧しい農民たちは重税に苦しんでいました。名臣・晁錯(ちょうそ)は、その様子を見かねて次のような奏上文を出して進言しました。
<書き下し文>
勤苦此の如くなるに、尚復た水旱の災あり、急政暴賦、賦斂時ならず、朝に令して而も暮に改む。
<意味>
農民は働き詰めで苦しいうえ、水害や干害にもあい、重税がのしかかり、その取立ても突然です。朝出された法律が夕暮れには改変されます。”
たびたび変わる法律や政策が、ただでさえ自然災害や重い農業税に苦しむ農民を苦しめている現状を知った文帝は、減税や改革を行って国を平定しました。「朝令暮改」は、この時晁錯が文帝に呈した諫言から生まれた言葉です。
ここまでで分かるように、「朝令暮改」という言葉は、政策や方針がころころ変わることを意味しており、信頼に欠ける、ネガティブな印象を与える言葉 です。
「朝令暮改」を使うにあたり、いくつか気をつけたいポイントがあります。
ビジネスでは時代の変化に即座に対応する必要があることから、昨今では「朝令暮改」をポジティブな意味で使う例が稀にある ようです。
しかし、依然として批判的な印象の強い言葉であるため、何の前置きもなく良い意味で使うには無理があるでしょう。誤解を避ける意味でも、誰が聞いてもポジティブな印象の「臨機応変」の方がおすすめです。
「朝令暮改」と漢字の構成が似ている「朝三暮四」という四字熟語があります。この言葉は、「目先の利害を強調して口先で人を欺くこと」を意味しています。「朝令暮改」とは全く別の意味です。混同しないように気をつけましょう。
とはいえ、それは日本人同士が会話する場合です。もし相手が中国人であれば、事情が変わってきます。実は、現代中国での「朝三暮四」は、もともとの「口先で人をだます」という意味の他にも、「状況がくるくる変わる」という「朝令暮改」と同じ意味で使われることもある のです。
そのため、中国人との会話でこの言葉が出てきたら、どちらの意味か判別する必要があります。早合点しないよう、前後の文脈に注意しましょう。
「朝令暮改」の意味を理解したところで、次は使い方を考えてみましょう。指示を出す側の上司や目上の人の行動を表す時に使います。
政策が何度も変わり、不安定で落ち着かない時の状況を解説するコメントや文書の中で使うことができます。
上司の指示が二転三転し、現場の部下やスタッフに迷惑が及びそうな時、次のように使えます。
自分の行為に使うのは稀なケースですが、ポジションの高い人から目下の相手に使う場面ではありえます。幾度も指示が変わったことを詫びて、安心させたい時、自らを顧みる言葉として使うことができます。
他者(社)について客観的に述べる際に使うこともできます。
「朝令暮改」と似たような意味を持つ四字熟語です。言い換えたい時に、微妙なニュアンスの違いをふまえて使い分けてみましょう。
読みは「くんしひょうへん」。元来、立派な人物が過ちに気づいて即座に改めることを意味していました。現在は、「身勝手な都合で態度をガラリと変える」という好ましくない意味で使われます。
読みは「ほんうんふくう」。手のひらを上に向ければ雲に、下に向ければ雨になる。そのように、人の心や態度、物の考え方は変わりやすいという意味を表します。「朝令暮改」が主に命令や指示について使われるのに対し、「翻雲覆雨」はさらに広い意味で使われます。
読みは「にてんさんてん」。物事の方針や方向性がすぐに変わり、定まらないことを意味します。また、「朝令暮改」と違うのは、方針だけでなく、事態や状況が勝手に変わる場面でも使われる点です。
読みは「りんきおうへん」。その場、その時に応じて適切に対処することを意味しています。「朝令暮改」が多くはネガティブな意味で使われるのに対し、「臨機応変」はポジティブな意味で使われます。
「朝令暮改」と反対の意味を持つ四字熟語です。逆の状況にある時に使ってみましょう。
読みは「しゅびいっかん」。初めから終わりまで態度が変わらないこと。主義主張を貫き、矛盾がないことを意味する言葉です。「朝令暮改」とほぼ反対の意味です。
読みは「しょしかんてつ」。最初に抱いた望みや志を、最後までくじけずに貫き、達成すること。
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読みは「てっとうてつび」。「徹」は「貫く」という意味です。頭から尾まで突き通すように、ひとつのことを最初から最後まで貫くさま。
読みは「しゅうしいっかん」。態度や言動が、初めから終わりまで変わらないさま。主義主張や方針を変えようとしないことを意味する言葉です。
政治でもビジネスでも、トップが「朝令暮改」では周囲が振り回されるばかりですね。名臣の進言に悔い改めた文帝は、人としての素直さと誠実さがあったのだと思わされます。
もしも、自分が晁錯の立場だとしたらどうでしょう。「朝令暮改にはうんざりだ」と批判するだけに終わるのか、「朝令暮改はお改めください」と勇気を持って諫言するのか。覚悟を問いかけてくる四文字ですね。
(前田めぐる)
※画像はイメージです
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