結成11年目のお笑い芸人・コットン(西村真二・きょん)。昨年、コンビ名を「ラフレクラン」から「コットン」に改名、その後は『キングオブコント2022』で準優勝するなど、そのめざましい活躍ぶりが注目を集めているコンビです。
これまで活動していく中でいくつかあったであろう彼らのターニングポイントの中でも、もっとも大きかったと言える“改名”ですが、実は同じ時期、同時にいろんな意識の変化が起こっていたと言います。結成10年で改名した理由はなんだったのか、また改名という“視点の変化”は彼らにどんな影響を及ぼしたのか。そんなコットンの“視点”を中心に探ってみました。
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PROFILE
コットン(※改名前 ラフレクラン)
◉――(写真左)西村真二。
1984年、広島県出身。小学生の際に水泳のジュニアオリンピック選手に選ばれた経験を持ち、高校時代は野球部エース。慶応義塾大学出身で2007年のミスター慶應コンテストではグランプリを受賞といういわゆる才色兼備。大学卒業後は3年間アナウンサーとして働いた経歴を持つ。退局後、2011年NSC東京校の17期生となり、翌年に現相方のきょんとコンビを結成。ツッコミ担当。
◉――(写真右)きょん。
1987年、埼玉県出身。國學院大學卒業。大学時代はカフェサークルに所属。大学卒業後はIT関係の会社に営業職として勤務。営業成績はかなり優秀だったものの、1年働き芸人になる事を決めていたため1年後に退職。2011年NSC東京校の17期生となり、翌年に現相方の西村とコンビを結成。ボケ担当。一時期俳優を目指した経験もあり、演技力の高いボケが人気。
▼Rethink INDEX
1.それぞれ社会人経験を経て芸人へ。お笑いの世界へ飛び込んだ動機とは
2.アップダウンの激しかった10年。社会人経験を活かした打開策
3.「イメージ」や「見た目」を思い切って変えた事が、視点の変化にも繋がった
4.「周りが作ってくれた大きなきっかけ」と「チャンスを逃さないための意識」
5.現状に満足せずに、挑戦し続ける!
−−お2人とも大学卒業後、社会人を経験してから芸人になっていますが、どんな思いでお笑いの世界に飛び込まれたのでしょうか。
【西村】僕は芸人になりたいという気持ちがちっちゃい頃からあって。最初に吉本のNSCの資料を取り寄せたのは18歳の時で、高校卒業してから入ろうかなと思ってたんです。当時教頭先生で、今は校長先生をやってる恩師から「芸人かホストになれ」って言われたことがあって(笑)。「その2択だとおまえは結構ええとこいくんちゃうか」って言われて、お笑いも好きだったし、陽キャやったんで「お笑いやりたいな」って。
でも、高校卒業して18で(お笑いの世界に)入るのは親が反対して、「大学ぐらいは出てほしい」って言われて。確かにそうだなって思ったんで、1年浪人して大学(慶應義塾大学)に入ったんです。で、大学2年生の時に同級生でめちゃめちゃ面白いやつがいたんで、そいつとコンビを組んで。そうこうしてたらイベントでMCを任されるようになって、慶応や青学のイベントでMCをしてたんで「こいつとやるんだろうな」と思ってたんですけど、いざ就職活動の時期になったら、相方に「1年就職してみないか?」って言われて。「就職してからでも遅くないんじゃないか」って言われて、もともと18歳で入る予定だったのが22歳になろうが23歳になろうがいいかなと思って、たまたまアナウンサーに拾ってもらったんで就職したんです。
−−でも、そんなに簡単になれるものではないですよね?【西村】ま、そうですね。これはマジですごいなと思うんですけど(笑)。でもやっぱりアナウンサーやっててもどっかで「ボケたいな」とか「笑いをとりたいな」っていうのはあって、中途半端に“面白アナウンサー”みたいになったらイヤだなと思って、3年後に辞めました。大学時代の相方には、就職して1年経って連絡したら「もうできない」って言われてしまって。そこから2年は、当時の会社には失礼ですけどなぁなぁでアナウンサーをやってました。なぁなぁというか、どっかで心に引っかかりを持ったまま中途半端な気持ちでアナウンサーをやってたんで「こんなのはどっちにもよくない」と思って、芸人になろうと思ってNSCに入りました。
【きょん】NSC入った当初からとんでもない噂になってました。「アナウンサーやめて入ってきたやつがいるぞ」って。
【西村】いやいやいや。
【きょん】僕が大学生の頃は就職氷河期ど真ん中の時代だったんですよ。どこにも受からない状態が続いて、「もうどこでもいいからとりあえず1個受かれ!」って思ってたら2社ぐらい受かったのかな。水の商社とIT企業に受かって。で、本当に単純な理由なんですけど、「こっち(IT)の方が会社がデカいからこっちでいいや」っていう。別にやりたくもないけど、とりあえず受かったから行かせてもらおうみたいな。だから100パーセント行きたいっていう会社ではなかったんですけど、ここで学べることもあると思って行ったんです。お笑いの世界にはめちゃくちゃ憧れがあったんですけど、その頃は単純に勇気が出なかったですね。「これは見る世界なんだろうな」っていう心境でした。あと、実は俳優にもなりたいなと思ってて(笑)。阿部サダヲさんや竹中直人さんのようなコメディっぽいことができる俳優さんを見ていて、楽しいなって。
【西村】ウソつけ!
【きょん】ホントだよ!1年だけサラリーマンやって、もしまだ1年後にやりたいって気持ちがあったら思い切ってやりたいことに挑戦しようと思ってたんです。仕事の成績はすごくよかったんですけど、やりがいとか面白味が全然感じられなくて、「あ、これダメだ。やっぱり勇気を出して憧れてる業界に1歩踏み出そう!」と思って、親にも内緒で仕事やめて。
本当は芸人になりたいっていう気持ちがいちばんだったんですけど、「自分が芸人なんかできないだろうな」って諦めて。でももしかしたら芸人チックな俳優だったら目指せるんじゃないかと思っちゃって、吉本に入る前にワタナベエンターテインメントの俳優コースを受けたんです。でも、「ちょっと待てよ? お笑い芸人って、飲食やってる人もいるし、俳優の仕事やってる人もいるし、 歌やってる人もいる。……やっぱ芸人になろう!」と思って。だから、僕の場合は完全に「もういっちゃえ!」っていうノリです。ノリがなかったらたぶん入れなかったですね。「無理だったらやめればいいや」っていうノリで今まで続けられたっていうのが正直な気持ちです。
−−コンビを組んで11年目ですが、改めて振り返ってみていかがですか?
【きょん】今年はやっぱり芸人としてはいちばん充実してたなって思いますね。あと、コンビで話し合うことが多くなったので、窓口が広くなったというか。相方は自分で考えられる人なんで、あまり話し合わない時期もあったんですけど、ちゃんといろいろ共有してくれたのがすごく嬉しいというか、デカかったというか。うまくいかない時って、お互い会話がなくなっちゃったりするし、そういう時期ももちろんあったんですけど。それも経て、なんか大人になったなっていう感じがすごくありますね。
−−西村さんはいかがですか?
【西村】同じような年代の若手が体験しなかったような出世の仕方もしたし、 そこからどん底に落ちたこともあったし、そこからなかなかはい上がれなかったりもして、妬みそねみ恨みつらみ全部を感じたこともあったし、ただ、僕らにしかできない仕事もあったしっていう……ホントにアップダウンが激しかった10年だなと思いますね。
僕が独りよがりな時期もありましたし、相方に変にプレッシャーを与えてた時期もあったと思うし。やっぱどうしてもうまくいってない時期って、人のせいにしたり環境のせいにしがちじゃないですか。ベタに僕もそこに陥っちゃったりしてました。あと、結婚もデカかったですね、正直。2021年にプロポーズして「こいつを守っていくためには、本当に変えなきゃダメだな」と思ったんで。
それまでは結構自分の中でいろんな言い訳をしたり、まだ遊びたいとかいう浮わついた気持ちもあったんですけど、そういうものを全部なくして芸に向き合えたこの1年は僕には大事だったなって思います。そこで初めてきょんとの情報共有もしっかりできたし、それこそ社会人の基本でもあるホウレンソウ(報告・連絡・相談)とか、マジでPDCA(Plan→Do→Check→Act)みたいなこともやったんで、社会人時代の経験が生きた1年かもしれないですね(笑)。で、結果もついてきたんで、コンビの関係性も良好というか、よりビジネスをやる上でお互い頼りになる存在になれてるんじゃないかなと思います。
もう、ほんとにめちゃくちゃ苦楽あったんで。同期のオズワルドとか空気階段とかさや香に比べたら、僕らは本当に浮き沈みが半端じゃなかったと思いますね。僕らが上る階段だけがいびつというか。なんか、エッシャーの騙し絵みたいな「あれ?これ上がってんの?降りてんの?」みたいな、今どこを歩いてんだ?っていう時期もありましたし、辛酸を舐めたんで本当に辛かったです。だから、振り返ると今はいい感じかもしれないですけど、今の最高をもっと更新していきたいですね。
−−ここから普通の階段になるといいですね。
【西村】そうなんすよね、右余曲折あったんで。でも、そんな傾斜の強い階段じゃなくていいんで、僕たちは。
【きょん】ちょっとずつでいいですね。
【西村】うん。
【きょん】でも、2〜3年目でこうならなくてよかったなってのはめっちゃ思います。(もしなってたら)オレ、たぶんめっちゃ調子乗ってました。で、突然平場にポンと出された時に何にもできなかったでしょうね、絶対。ただ元気とかフレッシュってことでしか戦えなかったと思います。今は10年間学んできたことがあるので。もちろんそれをうまく出せる時もあれば出せない時もあるんですけど、10年目ぐらいでようやくいろいろ呼んでもらえるようになってよかったなっていうのはすごくあります。
【西村】あの時こうやって失敗したなっていうのが今糧になってるし、道しるべにはなってるかなって思います。自分たちが歩んできた、よく言えば轍みたいなもんがちょっとは参考になってるから、それを物差しにして進んでいけるというか。それこそちょうど昨日「来年こうしていこうと思うんだけど、どう?」みたいな感じで2人で話し合ったんです。
コンビって、今お互いがどこに向かって走ってるかみたいなことを明確に共有できるっていうのがめっちゃ大事なんじゃないかなと思うんですけど、この1年は、今走ってる道はどこに通じてるのかみたいなことがより明確にシェアできた1年じゃないかなって思います。
【きょん】確かに。
−−コットンにはこれまでいくつかのターニングポイントがあったと思いますが、その最大のものは改名ではないかと思います。改名をしようと思った理由はなんですか?
【西村】最大の理由は、“ラフレクラン”が覚えにくいことですね。覚えにくいし、言いにくい。いろんな人に言い間違えられたりするので「これはもう改名するしかないな」と思いました。でも、マジで改名してよかったです。1発で覚えてもらえるようになったし。
【きょん】マジおすすめです。思い切って変えるっていうの、めっちゃアリです。コットンに変わって、変わったところを見せなきゃっていうプレッシャーもあったけど、同時に気合も入りましたね。
ラフレクランの時は僕、おかっぱヘアだったんですけど、コットンに変わってから坊主にしたんです。きっかけは『有吉の壁』だったんですけど、僕、根ではすごくカッコつけなところがあって、たぶんそこも変えなきゃって思ったんですよね。だから、「この髪型の人めっちゃ多いな、もういいや!」と思って丸坊主にして見た目を変えたんです。僕、形から入るタイプなんで。
−−見た目を変えると、気持ちも変わりましたか?
【きょん】なんでもっと早く坊主にしなかったんだろうってめちゃくちゃ思いましたね。コントで女装することが多くて、ウィッグ被ることが多かったんで、 今、女装がめっちゃラクです。朝の支度もたいへんでしたけど、今、シャンプー買ってないっすもん。ボディソープでいっちゃってます。なんか、坊主にしてから「どうでもいいや!」ってなっちゃいました。
−−メンタルを変えるには、見た目を変えるのがもしかするといちばん手っ取り早いのかもしれないですね。
【きょん】そうかもしれない。明るい服を着るだけでもなんかテンション上がるし、髪を染めるのもそうじゃないですか?形から入って、その形にどんどん肉付けしていくというか。あと、相方が『しくじり先生 俺みたいになるな!!』ですごいハネたんですよ。で、それを見て「オレもがんばりたい」って思って……。たぶんそれもあると思います。周りがすごいがんばってたからオレもがんばろうみたいな。足速いやつと走ったらタイム上がるじゃないですか。あれはめっちゃデカかったです。
【西村】やっぱ難しかったっすよ。ラフレクランとして10年やってきて、カッコつけた言い方すると、ブランディングをどう舵を切るかみたいなことはめちゃくちゃ悩みました。今まではポップで親しみやすいみたいな感じだったから……。でも、みなさんがラフレクランに抱くイメージから脱却したいみたいなとこもあったんですけどね。
あと、単純に(『しくじり先生』番組内で)横山由依さんが最終的にこのコンビ名に息吹を吹き込んでくれたんで、「このコンビ名に恥じないようにしなきゃ」みたいな気持ちも芽生えました。自分らだけのコンビ名じゃないというか。あの空間にいたみなさんがある種証人になってくれてるんで、これで生半可なことしたら番組にも迷惑がかかるし。でももしこのまま僕らがパンっていって「『しくじり〜』で改名するといい」みたいなジンクスが作れたら最高だなと思います。
−−ハネるきっかけって、意外と他の人が作ってくれたりするものなのかもしれないですね。
【西村】でも、ほんま針の穴に糸通すぐらいの感覚で全てが集合したんですよ。改名もそうだし、 改名して1年でキングオブコントに準優勝して。僕の結婚も、きょんの坊主も、全部自然とそこにみんな集まって。でも、もしそのタイミングを逃してたら、たぶん僕らは準優勝までいけてないと思う。芸人は売れるチャンスが3回ぐらいしかないってよく言うじゃないですか。僕らはたぶんもうこれが最終切符だと思うんで「これを逃しちゃうと(あとがない)……!」っていう気持ちでやってます。
▼キングオブコント2022 決勝ネタ
準優勝したことでいろんなお仕事をいただいて、現場で「おめでとうございます」とか、「すごいね、やったね」とかいろんな声をもらうんです。マジで嬉しいしありがたいんですけど、それにすがってちゃ絶対上に行けないと思うんですよ、僕の経験上。だからそれはもうないもんだと思ってます。来年の賞レースへの向き合い方も「去年準優勝してるからな」っていう気持ちでやってたらたぶん勝てないですし。「もう準優勝したからいいよな」っていうマインドになりがちだと思うんですけど、そんな気持ちだったらたぶんオレら終わると思うんで。そういう声をかけてもらっても、いっつも軽返事してカン違いしないようにしてますね。上に行くやつって、やっぱ常に創作してるし、常に今を通過点ぐらいに思ってるので。だからもう「準優勝しておめでとう」なんて、僕の中では10月ぐらいでとっくに終わってます。
−−来年もキングオブコントに挑戦されるんですね。
【西村】挑戦はしますね。優勝するまでやります。
【きょん】ま、1個のライブなんでね、キングオブコントって(とカッコつけて)。
【西村】 ……たぶん浮かれてんのはこっち(きょん)だと思います(笑)。彼は「準優勝だ!」って肩で風切るタイプなんで。
【きょん】まぁ、コンビバランスなんで難しいっすよ。肩で風切らないと。
【西村】俺とのバランス取って肩で風切ってくれてたんだ?
【きょん】そう(笑)。来年は優勝したいです!
取材・文:落合由希
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