編集作業に1年半、申請には10カ月。結構大変な学校の教科書製作

更新:2018/07/11

社会人ライフ

編集作業に1年半、申請には10カ月。結構大変な学校の教科書製作

私たちは小・中・高と、さまざまな教科書で勉強してきました。しかし、その教科書がどのように作られているのかをよく知る人はあまり多くないのではないでしょうか。そんな知られざる教科書製作の現場を取材するべく東京書籍さんを訪ねました。

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東京書籍株式会社は、小学校用の教科書11種54点、中学校用の教科書12種21点、高等学校用の教科書129種133点を刊行する(2014年3月5日現在)、教科書出版の最大手企業です。

東京書籍株式会社 編集局総合科 編集部長の高石和治さんにお話を伺いました。

■教科書は完成までに4年かかる!

——教科書は製作に取り掛かって完成するまでにどのくらいの時間がかかるのでしょうか。

高石部長 大まかに言うと、編集作業に取り掛かってから、その教科書が児童、生徒の皆さんの手に渡るまで4年かかります。

まず、編集作業に1年半ほど、その次に文部科学大臣(文部科学省)に検定申請してから10カ月ほどかかります。3年目に、その教科書が採用されるかどうかの「採択」が行われ、その後、教科書の製造に入ります。

児童、生徒さんが手にするのは4年目のことです。

——そんなにかかるのですか!

高石部長 はい。教科書の改定は4年ごとに行われることが多いのです。この作業は文部科学省の決定に従って行われますが、学習指導要領が改訂されるときは、この周期がずれることもあります。

——なるほど。では教科書を製作する編集スタッフはだいたい4年ごとに新しい教科書の仕事に臨むわけですね。

高石部長 はい。現在は平成27年度版の小学校教科書や平成28年度版の中学校教科書を製作しているところです。

■校閲作業には万全を期す!

——教科書なので、間違いは許されないと思うのですが、校閲作業は大変ではないですか?

高石部長 おっしゃるとおり、校閲作業にはとても手間が掛かります。また作業は綿密に、何度も、そして複数の目で校閲を行います。社内に教科書の校閲作業を専門に行う部署もあります。

——例えば、新しい学説が出て、そのせいで「書き直しだ!」なんてことがありますか?

高石部長 あります。最近では「冥王星」が良い例です(2006年に第9惑星から準惑星になった)。そのような場合は、検定を受けた後でも修正してもよいことになっておりますので、記述を直します。児童、生徒さんの手に渡るときに誤りがないよう最善を尽くしています。

——文科省の「検定作業」では修正はたくさん入るものですか?

高石部長 検定作業はいつも、どの教科でも大変です。

——検定作業で修正が一番入る教科は何でしょうか?

高石部長 どの教科だと思いますか?

——学説がいろいろある歴史などは、修正が多そうな気がしますが......。

高石部長 それが「理科」なのです。もっと科学的に正しく書きましょうといった指示が多いです。例えば小学生の理解できる言葉や表現に配慮すると、教科書では、正確性よりも分かりやすさ優先になり、不正確と判断される場合があります。その兼ね合いがとても難しい教科なのです。

——理科とは意外ですね。

■教科書の執筆者は印税契約!

——教科書を執筆する人はどのように選ばれるのですか?

高石部長 学会で活発に研究を発表されている大学の先生など、専門分野の先生方の動向に気を配っています。また、教育分野の現場で活躍をされていらっしゃる先生にも注目しています。その中で、この方と思う先生にお声掛けをさせていただきます。

執筆分担は、この教科書のこの部分を書いていただけないでしょうかというパートごとのお願いが多いですね。

——下世話なことを聞いていいでしょうか。ギャラは出るのですか。

高石部長 もちろんです(笑)。ただし、印税契約ですが。その教科書がたくさん製造されればその分印税も増えることになります。

——国語の教科書に既存の作品が掲載される場合、その作品の作者にはギャラは支払われるのですか?

高石部長 それは文化庁の規定があります。その規定に従ってお支払いが発生します。

——音楽の教科書などの場合はどうなのでしょうか?

高石部長 音楽の場合はJASRAC(日本音楽著作権協会)ですね。楽曲を管理されているJASRAC経由で作者の方に規定のお支払いがされております。

■昔の教科書とは「刷り色」と「版型」が違う!

——昔の教科書と現在の教科書、どんな点が異なっていますか?

高石部長 大きく違うのは、「刷り色」と「版型」ですね。

昔の教科書はモノクロのものが多かったと思いますが、現在ではオールカラーが当たり前です。中には意図的に1色にしているページもありますが。また、版型も昔に比べて大判のものが多くなっています。

■製作が難しい教科は!?

——教科書を製作する上で、最も難しい教科は何だと思われますか?

高石部長 そうですね、これは個人的な意見ですが......、私は「生活科」ではないかと思います。

——その理由を教えてください。

高石部長 生活科では、児童にどんな教材を与えるのかということから作っていかなければなりません。児童にどんなことを気付かせるか、そのためにはどんな課題がよいのか、といったことを考えます。

教えるよりも気付かせることに重点を置いている教科だからこそ、その内容を決めて教科書として形に表すのが難しいのです。

——なるほど。では、逆に比較的簡単に製作できる教科はありますか?

高石部長 いえいえ。それはありません(笑)。どの教科もそれぞれ教科書を作るのは難しいです。

■子供の成長を手助けする仕事!

——教科書を製作する楽しさとはどんな点でしょうか?

高石部長 教科書を読んで、学習し、子供たちが世界の成り立ちや社会の仕組みなどに興味を持ち、自分で考え、判断できるようになること、「その成長を手助けできる喜び」ではないでしょうか。

私たちの作ったものが子供たちの力になる、これは私たちにとって大きな楽しみであり、喜びです。

——ありがとうございました。

いかがだったでしょうか。教科書を作るというのは、とても根気のいる長丁場な仕事なのですね。でもその仕事の喜びは大きいようですよ!

(高橋モータース@dcp)

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