夏、打ち上げ花火もいいけど、公園でしっぽりとやる手持ち花火も楽しいですよね。しかし、色鮮やかな手持ち花火がひしめくなか、最も地味な存在と言われるものがあります。そう、「蛇玉」です。火をつけるとウネウネと蛇のように伸び、やがて燃えカスになるかなり地味な花火。
そもそもコレって一体どうやって遊ぶの? 何の目的で作られたの? 軽い気持ちでネットで検索してみるも、すぐさま壁にぶち当たりました。なんと、蛇玉に関する記述が見つからない! とはいっても、直接花火屋さんに聞いてみればわかることと、複数のお店に問い合わせるも、明確な答えは出ず......。こうなったら、花火の総本山、日本煙火協会に聞いてみようじゃないかと電話をしてみると、驚くべき答えが!
「蛇玉について、詳しい書籍はほとんど見あたらないんです。いかに研究がなされていないかを如実に表していますね」(日本煙火協会)
な、なんと、蛇玉って実はとっても謎に満ちた花火だったのです。
ところが唯一『火薬と爆薬の化学』(Tenney. L. Davis著、姉川慎一、細谷文夫訳 東海大学出版会(2006))という本に、2ページにわたって記載があったとの報告が。その本によると、
・蛇玉は当初「ファラオの蛇(Pharaoh's Serpent)」と呼ばれた。
・1821年に科学者ウェラーが報告した、チオシアン酸水銀が加熱されると何倍かの体積となるという特性を利用したがん具煙火が蛇玉の原点。水銀化合物であることから現在制作は禁止されている。
・水銀による危険性を回避しつつ、同じ特製を持つ化合物を探した結果、現在の石炭ピッチを原料とする蛇玉へと発展したものと思われる。
ヨーロッパ生まれだったとは意外。「蛇玉」よりも、「ファラオの蛇」のほうが格好いいじゃないですか! しかも蛇玉って、「二次燃焼」という非常に高度な技術を利用した玩具煙火だそうですよ。すごい! 日本にはいつ頃伝わったのでしょうか?
「1929年に出版された花火に関する大著『花火の研究』には、蛇玉の記述がありません。しかし、1969年に出版された『三河煙火史』には、戦後になって作られるようになったという記述があります。1960年の火取法改正によって、玩具煙火に蛇玉の記載がなされるようになりました」(日本煙火協会)
どうやら日本で蛇玉が製造されるようになったのは、戦後である1945年から60年の間が怪しいとのこと。なんとなく江戸時代からありそうな気がしたのは筆者だけ?
当時は、アメリカ向けの輸出品として存在感があったそうで、蛇が現れ、次に消えて無くなるマジックのような製品もあったとか。ところが、中国の台頭とアメリカの化学物質管理強化とともに日本からの輸出は次第になくなっていき......。
「化学物質管理制度が始まった1977年には国産の蛇玉のみ6種類ありましたが、1991年にはすべての製造が中止されてしまいました。1985年から本格的に台湾からの輸入をはじめ、現在に至っています。中国からは1991年以降日本に輸入されるようになったようです」(日本煙火協会)
今はもう国内で蛇玉は作られていないんですね〜。
調査結果をまとめると、化合物の新しい化学反応をきっかけに生まれたのが蛇玉。そこから紆余曲折を経て、玩具として今の形に落ち着いたということ。蛇玉で遊ぶということは、科学実験をやっているといっても過言ではないですね(?)。
意外に深い蛇玉の歴史。「地味だしつまんない」と思っていた方も少しは見る目が変わったのでは。しかし、まだまだ謎の多い蛇玉、もっと詳しい事情を知っているという方は、編集部までお知らせください!
文●中村未来(清談社)
取材協力/日本煙火協会
http://www.hanabi-jpa.jp/
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