ニュースの教室:15限目「高速ツアーバス事故」 ―誇りの安さ―

2012/05/09

対人マナー

ニュースの教室:15限目「高速ツアーバス事故」 ―誇りの安さ―

4月28日午後10時すぎ、金沢駅を出発したバスは、

その7時間40分後、関越道の防音壁に正面衝突した。

7人が死亡、3人が重体、36人が重軽傷を負った。

あれから一週間。私たちにわかってきたことは何だろうか。







まず事故を起こした河野容疑者について、わかってきたこと。



1.河野容疑者は居眠り運転であったと自供をした。

  乗客から「運転手が休憩中に突っ伏して寝ていた」、

  「(バスが)左右に揺れていて事故が起きるのではないか、

  と思っていたら、そうなった」との証言もあった。

2.河野容疑者は自分のバスを所有しており、

  普段は中国人観光客を成田空港まで送迎し、

  大阪などの遠距離運行も行っていた。

  (河野容疑者は中国出身で中国語が得意だった)

3.しかしバスの「所有者」は河野容疑者だったが、

  実際に走らせる「使用者」は陸援隊の名義になっていた。

  これは道路運送法に違反する「無許可営業」の疑いがある。

4.河野容疑者は、陸援隊の「日雇い」の立場だった。



河野容疑者を雇った運送会社「陸援隊」について、わかってきたこと。



1.河野容疑者に運送事業の名義を貸し、

  9ヶ月前から日雇いとして運転の仕事を単発で出していた。

2.同社に国土交通省関東運輸局の特別監査が入り、

  道路運送法上の違反を36項目指摘された。

  担当者から「監査で法令違反が見つかることは珍しくない。

  しかしあまりに多すぎる。極めてずさん」との感想が洩れた。

3.労務管理や安全指導、乗務指示責任を持つ「運行管理者」と、

  車両の定期点検整備を管理する「整備管理者」を、

  「陸援隊」の針生社長が兼務していた。

  「19台の車両を保有する経営者が2つを兼任するのは異例」

  だとの別の担当者の談話も入ってきた。







バスツアーは大阪のツアー会社が企画をした(取り分1万円)。

その運行を貸し切りバス会社が請けた(取り分1万円)。

実際の運行は「陸援隊」に丸投げされた(利益不明)。

「陸援隊」は日雇い運転手の河野容疑者に仕事を回した。

河野容疑者はこの仕事を1万円で請け負った。



陸援隊の取り分は13万円程度で、利益は不明だ。

しかしこのツアーの運賃が3,500円だったことから、

おおよそのことはわかる。



同じ区間の金沢−舞浜間の運賃を調べてみると、

・連絡バス、飛行機、JRなどを乗り継ぐと、24,110円(約4時間)

・特急、新幹線、JRなどを乗り継ぐと、15,570円(約5時間)

と計算される。

1人当たり1万2千円から2万円の差額は、

安全と責任の放棄の値だと見ることができる。



ツアー会社も、貸し切りバス会社も、陸援隊も、

そして河野容疑者にとっても、全員の実入りは驚くほど少ない。

誰にとっても儲けが薄い、恵まれない事業であり、仕事だ。

誰にも誇りをもたらさない、恵まれない事業であり、仕事だ。



今回の事故の大きさや悲惨さに驚き、

次々に明るみに出る違反やズサンに呆れかえりながら、

しかし多くの人は、本当には驚いていないのではないか。

夜間の長距離バスの客足は、依然として落ちていないのだ。



私たちについて、わかってきたこと。



ツアー会社、バス会社、運転手が、

乗客の命を、安く扱うようになってきた。

国交省が、国民の命を、安く扱うようになってきた。

その原因は、私たちが、自分や他人の誇りを、

安く扱うようになってきたからではないか。



文●楢木望

ビジネスエッセイスト/ライフマネジメント研究所所長

『月刊就職ジャーナル』編集長、『月刊海外旅行情報』編集長を歴任。その後、ライフマネジメント研究所を設立、所長に就任。採用・教育コンサルタント、就職コンサルタント、経営コンサルタント。著書に『内定したら読む本』など。

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