2011年1月19日(水)東京ミッドタウンにて、若手クリエイター発掘・育成プロジェクト『コ・フェスタPAO』のトークセッション「ものを作らなソンやと思わへん?」が開催されました。『スーパーマリオブラザーズ』や『ゼルダの伝説』シリーズを生み出したゲームプロデューサーの宮本茂さん(任天堂株式会社、専務取締役)が、京都で活躍する劇団『ヨーロッパ企画』と共に「ものづくり」にまつわるトークを披露。
当日のトークから、入社後30年以上たった今でも「月曜日の出社が楽しみ」という宮本さんの湧き出る発想力の秘訣を探ってみました。
【仕事のコツ1:狭いワクの中で仕事を捉えない】
そもそも、宮本さんが入社した当時の任天堂は花札やマジックハンドを作っていた“玩具”メーカー。しかし、宮本さんはその事業内容だけにとどまらず、常にインタラクティブ(双方向的)な面白さを模索し続けていたと言います。
ここ数年前まで高性能なゲーム機が求められていたこともあり、ゲームは作り手が一方的に送るものを受け切れる人だけが楽しめる世界になっていました。しかし、宮本さんは、作り手と使い手のやり取りから生まれる共感を楽しめるゲームを追求し続けます。手軽でシンプルで多くの人が面白いと思ってくれるものを……。そんな発想から生まれたのが、メモを書いたり、パラパラマンガが楽しめるニンテンドーDSiウェア『うごくメモ帳』。幅広いファンを取り込みました。
「突き詰めてみると結局、“遊んでいる人が何かを作ることを楽しんでいく”ところにたどり着いたんです。だから、ゲームを操作している時間を作り出すのが、僕らの仕事だと認識しました」。そうした考え方は、作り手の一方通行が当たり前だったゲームソフトを作るという狭い観点を持っていたら、決して生まれなかったものと言えます。
【仕事のコツ2:休日は一人の時間を作って豊かな発想を生み出す】
『うごくメモ帳』に限らず、宮本さんが手掛けたあまたのゲームには、たくさんのアイデアが散りばめられています。「アイデアを生み出したり、それを膨らませたりするときは大勢で話し合いますが、密度を上げてまとめる作業は一人でないとできません」。この貴重な一人の作業をするため、土日はどんなに忙しくても休むようにしていると言います。
さらに休日は、新しいものに触れたり、吸収する時間にも充てているそう。何かの拍子につまらないものを見たとしても、それも「俺やったらこうするけどね」と自分なりの発想の出発点となるそう。ちなみに今すぐ使えないアイデアも『ダメなところ』にラベルを貼って、一旦記憶の引き出しにしまうのだとか。そして必要なときに取り出して、アイデアを生き返らせるという秘策も語ってくれました。
こうやって土日に一人で考える時間を作って、いろんなアイデアを生み出します。週明けの月曜日には、「土日にこんなことを考えたから、聞いて!」、「なんで今までこんなことに気が付かなかったんだろう」と、早く人に話したくなるそう。ゲーム以外のものに触れられる土日は、新しいアイデアを生み出す貴重な時間なんですね。
【仕事のコツ3:共感し合える仕事仲間をつくる】
休日に浮かんだアイデアを月曜日に話す相手は、数十年来毎日、昼夜の食事を共にしている任天堂の盟友。「『これ、面白いと思うんだけど』と言ったときに『あ、それいいですね』と、いいと思っているものを理解してくれる。それは、無理に話を合わせてくれるわけではなくて、持っている問題意識が一緒だから」とのこと。
共感してくれる仕事仲間をつくることも仕事を進める上で重要なポイント。この関係は単なる仲のいい「友達」ではなく、同じ問題意識を持った「仲間」だからこそ成り立つようです。
【仕事のコツ4:行き詰まったときは、落ち着いて構成要素をばらしてみる】
仕事をしていると、行き詰まってしまうシーンに直面することもあるもの。もちろん、宮本さんでも制作が暗礁に乗り上げることがあるそうです。「ものすごくうまくいったゲームでも、その8カ月前は地獄というのが多いですね。もうやめようかと」。そういうとき、“面白いかそうでないか”という原点の検証方法は決まっているのだとか。
「暗礁に乗り上げたときは、思い切って一回構成要素をばらします。そうすると絶対どこかが間違っているんですよね。間違いを探すのも、休日に一人で考える作業。だから『どこで間違えたか分かった!』と見えた月曜日は一番元気ですよね(笑)」。間違いに気付くことができれば、「後はミスしたポイントまで巻き戻して、要素を並べ替えるだけ」。ただ、そのポイントを他人が決定していた場合、巻き戻しても何もできないので、あくまで自分がポイントを決めて進めてきたことが重要です。
「月曜日は朝からすごく元気」という言葉が印象的な宮本さん。デキる仕事人は月曜日からすでに前向きな気持ちで仕事に臨んでいるよう。宮本さんのように既成の概念に捉われることなく発想力を鍛えて、ぜひ仕事を楽しみたいものですね。
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