【大好きなバラで生きていく】大学を中退し食用バラで起業。代表取締役・田中綾華さんの、“固定概念に囚われない”アイデアの見つけ方#Rethinkパーソン

2022/08/19

社会人ライフ

突然ですが、“バラが食べられる”という事をみなさんは知っていますか?

埼玉県深谷市で「食べられるバラ」を栽培しているROSE LABO株式会社。
食用バラの原料供給のほか、規格品の開発などを行っており、バラの魅力を世界へ発信しています。

栽培・農家と聞くと年齢層が高いイメージを持つ方も多いと思いますが、バラの魅力を発信しているROSE LABOの代表取締役は、今年29歳の田中綾華さん。

大学入学時まではやりたい事が一切なく、自信がなかったという田中さんは、
20歳のときに大好きなバラと共に生きていく決心を行い、大学を中退。バラ農家への道を歩み始めました。

起業後は、さまざまなアイデアと発想で困難を乗り越えている田中さん。
やりたい事で生き抜くために必要な固定概念に囚われない考え方はどのように生まれているのか。お話を伺いました!

→【事件記者→ファッションメディア編集長へ】WWDJAPAN編集長・村上要さんの、 「選んだものを正解にしていく」生き方とは?#Rethinkパーソン

PROFILE

田中 綾華 (たなかあやか)

◉――1993年、東京都出身。大学を2年次に中退後、大阪の食用バラ農家にて修業。2015年に独立し「"食べられるバラ"を通して世界中の女性を美しく、健康に、幸せに」を理念にROSE LABO株式会社を設立。"食べられるバラ"の栽培、バラを配合した加工食品や化粧品などの商品開発、販売を行なう「6次産業」の農家として、講義、セミナー、農業コンサルティングなども行っている。2019年「マイナビ農業アワード」などで最優秀賞を受賞。

1.自分にとっての幸せとは?「大好きなバラを仕事にしよう」と決めたきっかけ

−−起業のきっかけとなった「食用バラ」に着目した背景を教えてください。

大学一年生のときに、母から「食べられるバラがあるらしいよ」と聞いたことがきっかけでした。もともとバラが大好きだった曽祖母の影響で、家族みんながバラ好き。幼い頃から香りを楽しんだり飾ったりと、バラが日常生活の中に当たり前に存在していました。母から食用バラについて聞いたとき、純粋に「食べてみたい!」とワクワクしましたね。

当時の私は自分の進路に対して、モヤモヤしていた時期でもありました。周りの同級生たちがイキイキと夢について語っている様子を見て、何も語れるものがない自分にショックを受けていたんです。自分と向き合い、「自分にとっての幸せ」を模索している最中に、母の言葉がきっかけでバラが好きだったことを改めて自覚しました。

「なぜバラが食べられないと思っていたのだろう」と、固定概念を考え直すきっかけになりました。また、「私にとっての幸せは、好きなことを仕事にして打ち込むことだ」と、モヤモヤしていた気持ちが一気に晴れたんです。今すぐにバラの魅力を伝えていきたいと、大学を中退して新しいスタートを歩み始めました。

−−バラのどのような部分に惹かれていましたか?

見た目や香り以外に、花びらに美容成分が含まれているところです。本来花の香りはリラックスのために使われることが多いですが、バラは美容成分を活用し、香水や化粧品など、やる気スイッチをオンにしてくれるアイテムに使われることが多いです。

バラが好きだった曽祖母の「バラは女性の強さと美しさのお守り」という言葉も強く心の中に残っており、女性のオンとオフの両方に寄り添える部分に魅力を感じています。

2.馴染みのない食用バラ。魅力を知ってもらうために行きついた先の「ジャム」や「化粧品」

−−20歳で大学を中退後、大阪のバラ農家で働き始めた田中さん。およそ1年間バラ栽培について学んだ後は埼玉県深谷市に移り、起業に向けて動き出しました。2015年に起業しましたが、食用バラがなかなか売れない日々が続いたそうですね。

はい。当時は食用バラに馴染みがない方が多く、お店や施設で受け入れてもらえないことが多かったです。行くあてのないバラが大量に残ってしまい、冷凍で保存をしていたものの「このままではいけない。何か解決策を考えないと!」と思っていました。

どうにかしてバラを活かせられないかと考えていたときに、母から食用バラの話を聞いた際に「ジャムがあるらしい」と教えてもらったことを思い出したんです。そこでジャムに着目しました。

−−ジャム作りにはどのような点にこだわりましたか?

香りをキツくせず、花びらの状態がキープされたままのジャムにすることです。

当時はバラのジャムを検索すると、海外製のものが主流でした。取り寄せて食べてみたところ、バラの香りが香水のようにキツく感じたり、花びらが細かくクラッシュしていたりと、何を食べているのか分からない状態のジャムが多かったんです。よりバラの魅力を感じられるジャムにしたいと思い、香りや形状を意識しました。

−−ジャムをきっかけに、ローズティーやシロップなどの商品も作られています。2018年には化粧品の販売も開始。コスメを作ろうと思ったきっかけを教えてください。

私自身がアトピー持ちで敏感肌だったため、「バラを使って化粧品を作りたい」と思っていたことがきっかけです。敏感肌用のものだと、パッケージもシンプルで無香料なものも多いです。スキンケアは肌だけではなく、心もケアするものだと思うからこそ、気分も上がる化粧品を作りたいと思っていました。

−−こだわりや強みについて教えてください。

着想後は、美容に特化したオリジナル品種「24」の開発をスタート。オリジナル品種は通常のバラよりも、ビタミンが花びらに10倍も多く含まれているのが特徴です。ローズウォーターやローズエキスとして抽出し、コスメ一つ一つに高配合しています。

一般的な化粧水はおよそ80%が水でできており、残りの20%で美容成分や防腐剤などが配合されています。弊社の化粧品は100%に近い割合を美容成分で占めており、かつ続けやすい価格帯で提供しているところが大きなこだわりであり、強みですね。

−−反響はいかがでしょうか?

美容のプロからの評判がよく、口コミでどんどん広がってきました。Y機能や人気を含め、植物由来原料の中でもバラが一番高価だといわれているため、成分が読める方には「原価大丈夫?」と心配されるほどです(笑)

弊社は1次産業である生産から、加工(2次産業)、販売(3次産業)まで全て一貫して行う“6次産業”を行っているため、一社で三社分の働きができています。そのため、コストカットができ、手に取りやすい価格帯を実現できていますね。

品質や価格以外にも、強い想いやこだわりを持ってモノ作りをしていることに対しても、評価をいただくことが多いです。私たちが会社から発信する言葉一つ一つに情熱や信頼を感じていただいているからこそ、多くの人に愛してもらえる商品になっているのだと思います。

3.コロナ禍で「ローズバリアスプレー」が大ヒット。ピンチを救ったカギは市役所だった

−−コロナ禍で一番大変だったことを教えてください。

2020年4月に緊急事態宣言が出された直後は苦しかったです。飲食店や商業施設などが全てが閉店し、結婚式やイベントもなくなり、多大な発注キャンセルが起きました。

コロナ禍に陥った3月から4月にかけてのタイミングは、ちょうどバラが綺麗に咲くシーズンです。ほぼ全てキャンセルになったため、お金もなく、バラの行くあてもなく途方に暮れていました。

誰のせいでもない出来事ですが、なんとかして現状を変えないといけません。動くことでしか現状は変わらないと思っていたからこそ、頭の中では「余っているバラをどうにかしないと」「私たちには何ができるんだろう」とぐるぐる考えていました。

−−どのようにピンチを乗り越えたのでしょうか?

補助金の申請を受けに深谷市役所に行ったことがきっかけでした。市役所の中では多くの事業者の方が申請に来ていて、職員が休む暇もなく対応されていました。当時は今よりずっと殺伐としていた世の中で、みんなが不安を感じながら過ごしていた時期です。

待ち時間も長くイライラし、怒鳴っている人もいる中、対応している職員の方に目がいきました。そこで「長時間のマスクは苦しいだろうな。少しでもリフレッシュしてほしい」と感じて。マスクからバラのいい香りがして、マスクをしている時間もハッピーになれば、少しでもストレスが減るのではないだろうかと思いました。

そこで、これまで頭の中にあった悩みと結びついたんです。

「今は何が必要?」→「今はアルコールスプレーが必要だ」→「しかしアルコールスプレーは敏感肌にはヒリヒリする」→「私のような敏感肌の人は多いだろう」→「では低刺激のアルコールで手指を消毒できて、マスクにも応用できるアイテムがあればコロナ禍をハッピーに過ごせるのでは?」と、一気にひらめたんです。発注キャンセルとなったバラを使って、早速開発をスタート。2〜3ヶ月のスピードで「ローズバリアスプレー」が誕生しました。

今でこそ香りのある消毒スプレーはたくさん流通してますが、当時はまだあまり出回ってませんでした。着想から商品化までのスピードも相まって口コミで広がり、半年で約一万本を売り上げ、コロナ禍の危機を救ってくれましたね。完成後は深谷市役所の職員全員分のローズバリアスプレーを寄贈し、とても喜んでいただきました。

4.物語に触れる、苦手なことこそ積極的に行う…アイデア思考を磨くヒント

−−ピンチが訪れても柔軟なアイデアや思考で乗り越えてきた田中さん。事業のきっかけとなるアイデアは、日々どのように考えていますか?

ふとしたときに思い浮かぶこともありますが、まずは「“軸”を持って考え続けること」を意識しています。磁石のように軸を持ち、日常生活の中でふわふわ考えておく。そうすると、どこかのタイミングで相性のいい磁石がくっついてくるんです。私の場合も、「コロナ禍でバラが余ってしまう。なんとかしないと」という軸があったからこそ、市役所でアイデアが浮かびました。

まずは、何のためのアイデアを思い浮かべたいのかを考えて軸を作りましょう。「将来お金持ちになりたい」でも良いんです。軸を考えたら、そこから何ができるのかふわふわ考えておく。アンテナを張って過ごすようにしていると、ひらめく可能性が増えてくるはずです。

−−学生が柔軟な考え方を身につけるためには、何から始めたらいいのでしょうか?

2つあります。1つ目は「物語に触れること」です。小説を読む、Netflixで映画を見るなど、誰かの物語に触れることを意識してみてください。漫画でも全然OKです!自分が絶対に経験しない出来事が描かれているため、価値観を広げるきっかけになりますよ。

私は経営者なのでビジネス書を読むこともありますが、ビジネスばかり吸収していると、思考が偏ってしまいがちなんですよね(笑)物語に触れて価値観を広げたり感性を磨いたりすることで、相手を思いやる気持ちが養われます。結果、お客様にとっていい商品を届けることに繋がると思っています。

2つ目は「苦手なことこそ積極的に行う」です。苦手なことを行うと、自分の固定概念が変わっていきます。例えば私は数字が苦手です。しかし、あえて数字を勉強したり、普段は関わらないようなコミュニティに参加したりしています。そうすると、自分の固定概念がどんどん壊されていくんです。最初は慣れなくて怖いと感じるかもしれませんが、固定概念を壊すと思わぬアイデアが浮かびやすいですよ!

−−今の自分にモヤモヤする、現状を変えたいと悩んでいる人へメッセージをお願いします。

自分の内側にとことん向き合いましょう!私も毎月「本当は何を考えているのか」「どうしたいのか」と、自分の内側と向き合う時間を作っています。

心の声を聞くためには自問自答が必要です。私が最初に自問したのは「私の幸せってなんだっけ?」という質問。このようにざっくりでもいいので「将来どんな大人になりたいのだろう」「今私は何に悩んでいるのだろう」と繰り返し考えてみると、自分の軸が見えてくると思います。軸が見えたら、普段の生活の中でアイデアが浮かびやすくなると思いますよ!

好きなことで生きるために、固定概念を乗り越えて日々様々な工夫を行っている田中さん。
柔らかい印象の中に、自分のやりたい事・好きな事というブレない軸が、お話をお伺いする中でも感じられました。定期的に自分に正直になる時間を作り、出来る事から始める事で、今まで見えてきたものが別確度で見える視野を得られるようになるきっかけになるのではないでしょうか。


取材・文:田中青紗
編集:学生の窓口編集部
取材協力:ROSE LABO株式会社
https://www.roselabo.com/

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