PCやスマホにも!? NHK受信料のネット課金について、弁護士に聞いてみた。

更新:2018/04/25

社会人ライフ

PCやスマホにも! NHK受信料のネット課金について、弁護士に聞いてみた。

最近、「NHKがネットに接続できる環境を持っている人から受信料を取ろうとしている」という件がネットで話題になりました。NHKと受信料については昔からたびたび問題になっていますが、今回の「ネット課金」も、もし本当に行われるとしたら大問題になりそうです。そこで、NHKのネット課金について弁護士さんに聞きました。

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アディーレ法律事務所の正木裕美弁護士に、NHKのネット課金の問題点についてお話を伺いました。

■「ネット課金」は現行法では難しい!

——NHKがネット接続している人から受信料を取ろうとしているという話があるようで、先日も「NHKのテレビとネットの同時配信、試験を認可」という報道が出ていました。ネット環境があるだけで受信料を徴収するということは、法律上可能なのでしょうか?

正木弁護士 現在の法制度のままこれを行うことは難しいでしょう。

というのも、現在の受信料制度はテレビ放送を前提として作られたものですし、放送法上、NHKは、テレビの全部の番組をテレビ放送と同時に一般放送としてネット配信することも認められておらず、ネット配信は付随業務として特別なものに限定されています。

そのため、現状ではテレビ放送とネット配信を同時に行って、インターネット利用者に一律に受信料を請求できるとはいえません。もし受信料を取るということであれば、放送法関係法令や受信料制度などの改正をすることが必要になってくると思います。

——なるほど。現行の放送法では実行が難しそうなのですね。

正木弁護士 テレビ放送についていえば、放送法64条1項において、

「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置したものは、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」

とされています。

ですので、テレビ放送を受信できる設備であるテレビを設置した人は、実際にNHKを視聴している、していないにかかわらず、NHKと放送受信契約をしなければなりません。契約が成立すると、受信料の支払い義務が生じることになります。

おそらく、テレビと同様に、ネット配信の場合も、配信されているコンテンツを視聴できる環境がある場合には、受信契約の締結が義務づけられるといった制度にしたいのではないかと思います。

■NHKを見ない自由はないの!?

——そもそも何を見るか、見ないかについては個人の基本的な人権、自由意思に属することのように思われます。では、「受信環境が整っている=受信契約の締結」という放送法の規定は基本的人権に抵触しないのでしょうか?

正木弁護士 放送法の64条1項は基本的人権を侵害しているか? ということに関し、テレビ放送に関するものではありますが、下級審でも争われています。

下級審判例の中には、

「放送法は、放送の受信設備設置者に放送受信契約の契約締結義務を課すにすぎず、受信設備の設置を義務づけるものではないことや、NHK以外の放送を視聴することを禁じているものではない」

ということで、放送法の規定が基本的人権を侵害するとの主張を退けているものがあります。

つまり、ネット配信を含む新受信料制度が現状と大きく変わらないのであれば、受信設備の設置も義務づけられることはありません。どの局のどの番組をいつ見るか、見ないかということを自由に決定することのできる権利(自己決定権)を制限するものではないのです。

従って「基本的人権に抵触するとまではいえない」との判断がされる可能性が高いと考えられます。

■訴訟を起こしたらどうなる!?

——他のテレビ番組が見たければ、NHKの受信料を支払わなければなりません。つまり、日本には「NHKを見ない選択をする自由」がない、ということにはならないですか? この件に関して個人がNHK、また国を相手に訴訟を起こしたらどうなるでしょう?

正木弁護士 「NHKを見ない自由」を重視する視点からは現在の制度ができていません。たしかに、テレビであれインターネットであれ、受信料制度について、実質的に選択の自由がないとの批判は根強くあるところです。

しかし、上でお話ししたとおり、現状では、「NHKを見ない自由」があると主張して、NHKや国を相手に訴訟を起こしても、「NHKを見ない自由」の尊重=NHKを見ないために受信設備を設置しないとの選択は個人に委ねられていること、仮に受信設備を設置してもどの放送を見るかの自由は何ら制限されないこと、そして、放送法により受信設備を設置した結果、NHKとの契約が義務づけられるとしても、64条1項は公共放送の財政的基盤確保のための合理的な規定であるとして、訴訟は認められない可能性が高いと考えられます。

ただし、今後制度が大きく変われば、異なる判断がされることはあり得ます。

現代では、視聴の選択肢は多様化していますし、海外の公共放送の制度もさまざまです。まずは、法整備を進めるより前に、受信料を負担する国民の皆さんの理解が得られるよう、公共放送の意義、ネット配信や受信料制度のあり方につき、議論を尽くすことが先決ではないかと思います。

——ありがとうございました。

現行の法律では「ネット課金」が導入されることはないようです。とはいえ、受信設備を持つだけで支払い義務が発生するNHK受信料は、選択の自由や不払いによる不平等など、これからも議論しなければならない問題はまだまだあるようです。皆さんは、NHK受信料のネット課金について、どのような意見をお持ちでしょうか?

⇒『アディーレ法律事務所』公式サイト
http://www.adire.jp/

※本記事は2015年2月12日現在の情報をもとに作成しております。

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