外国人滞在者に窃盗された場合、盗品は戻ってくる? どう対応すればいい? 弁護士に聞いてみた。

更新:2018/05/09

社会人ライフ

外国人滞在者に窃盗された場合、盗品は戻ってくる? どう対応すればいい? 弁護士に聞いてみた。

「韓国籍の男性が日本のお寺から仏像を盗んだ」なんてニュースをたびたび耳にしますが、こうした外国人滞在者に何かを盗まれてしまった場合はどう対応ばいいのでしょうか? そのまま海外に逃げられてしまったらもう盗品が戻ってくることはない? 『アディーレ法律事務所』の篠田恵里香弁護士にお話を伺いました。

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■出国される前に盗難届けを!

——もしも、外国人滞在者に何かを盗まれてしまった場合、どのように対処をすればいいのでしょうか?

篠田弁護士 日本で物を盗まれたのであれば、日本の裁判所で窃盗罪としてその外国人滞在者を罪に問うことは可能ですので、まずは日本の警察署に被害届を出すか、刑事告訴状を提出することが先決ですね。

——なるほど。特に特殊な手続きが必要というわけではないのですね。

篠田弁護士 まだその人が日本に滞在しているのであれば、日本で「逮捕→起訴」という流れになる可能性もありますし、その場合は、相手方から被害物品の返還や示談金の支払いが期待できるかもしれません。

——相手が出国してしまった場合はどうなるのでしょうか?

篠田弁護士 非常に悔しいのですが、被害金額が相当大きいのであれば、捜査機関が真剣に動くことも期待できるかもしれません。しかし、その人の名前がわからなかったり、海外に出国してしまったりしてしまうと、警察が外国まで捜査の手を伸ばすことは基本的に期待ができないので、実際に逮捕まで至ることは難しいと思いますね。盗まれたら、出国されてしまう前に即時に被害届などの対応をすることが大事になってきます。

■帰国されたら返ってくる可能性も大きく下がる......

——逮捕まで至ることが難しいということは、やはり盗難品も戻ってこないのでしょうか?

篠田弁護士 法律的に取り戻すことは可能なのですが、事実上は困難と言わざるを得ないですね。もともと自分の所有物ですから「その物を返せ」とか「盗まれた被害物品の金額を賠償せよ」と、相手を訴えることはできます。

その場合、基本的には日本の裁判所に対して、相手方を被告として民事訴訟を提起することになるのですが、「どこの裁判所で訴訟をするか」という国際裁判籍の問題が出てきてしまうため、必ず日本で裁判を起こせるとは限らないからです。

——もしも日本の裁判所に提訴をする場合はどうすればいいのでしょうか?

篠田弁護士 日本の裁判所に訴訟を提起する場合、相手が海外にいるということであれば、訴状を海外に送達(訴訟を提起したことを相手に知らせる)しなければならず、これには相当時間がかかります。また、相手の住所や名前さえも分からないということであれば、訴訟提起自体も困難といわざるを得ないでしょう。

もし、相手がまだ物品を所持している場合には、その物品の返還を求めることになります。しかし、通常は転売などにより所持していないことが多いと思いますので、その場合は金銭で賠償してもらうことが視野に入りますね。

——金銭で弁償してもらえる可能性もあるのですね。

篠田弁護士 ただ、注意していただきたいのは、裁判を起こしても実際に回収できるかは別の問題という点です。仮に勝訴判決を得た場合でも、相手が任意に返してくれない・払ってくれない、ということであれば「強制執行」という形で相手の預金や財産から無理やり回収することになります。

日本に財産がない場合には、財産が海外のどこにあるかを把握しなければならないとともに、そもそも外国の執行制度の内容によっては執行が不可能というケースもでてきます。仮に勝訴判決を取ったとしても、実際に回収できるかといえば、これはなかなか難しい問題なのです。

■警察が動かないのなら自分が取りに行ってもOK?

——裁判を起こすなどをしても事実上回収は難しいとのことですが、相手の身元がある程度分かっている場合は自分自身が取り返しに行って大丈夫なのでしょうか?

篠田弁護士 海外に捜しに行くこと自体に何ら法律上の制約はありません。もしその人が知り合いということであれば、実際に会いに行って「返してくれ」と言うのも特段問題はありません。

最近はLINEやSNSも海外対応となっていますので、連絡先が分かるのであれば「日本で裁判を起こすぞ」と伝え、任意の返還を求めることも視野に入ります。ただ、海外で裁判を起こす場合には「その国の裁判制度がどうなっているか」によって方針も異なりますので、その国の弁護士に相談するのが一番かと思います。

——なるほど自分で捜しに行くのは法的には問題ないのですね。

篠田弁護士 ただ、ここで気を付けていただきたいことがあります。海外に捜しに行き「間違いなく自分のものだ」と思っても、勝手に持ち帰ってきたり、無理やり奪い取ったりしてはいけません。

その国の法律にもよりますが、少なくとも日本の法律では、いったん盗まれた自分のものを勝手に持ち帰ると自分も窃盗罪に当たってしまいます。さらに、無理やり奪い取ると強盗罪等の罪に問われる可能性もあります。

「自分のものなのに......」と思われるかもしれませんが、日本の法律では「いったん手元を離れた財物はそれを所持している人の管理下に入る」と考えられているからです。実際に、盗まれた自分の自転車を勝手に持ち帰って、窃盗罪に問われた裁判例もあります。

——もし盗まれたものを見つけた場合はどうすればいいでしょうか?

篠田弁護士 盗まれたものを見つけた場合には、相手から任意に返還をしてもらうか、弁護士や現地の警察に事情を話すようにしてください。

——過去に、こうした「外国人滞在者に何かを盗まれてしまった場合」の判例はあるのでしょうか?

篠田弁護士 日本では、相当大きな金額の被害に遭った上で、犯人が分かっている場合か、犯人が過去に窃盗を繰り返しているなどの事情がない限り、警察は被害届を受け取ったとしても捜査には入らない傾向にあります。

さらに、犯人が海外に逃走したという事例であればなおさら、海外まで捜査を広げることは考えがたいです。本件のような事案は、「法的な手続きを取るぞ」と脅しにならない程度に伝え、任意の返還を求めるのが一番の得策ではないかと思います。

お話を伺ったところ、外国人滞在者に何かを盗まれてしまった場合は、盗品が返ってくることは難しいとのことでした。盗む人間が悪いのは当然ですが、こちらも取り返しのつかない事態にならないように、盗まれないような対策を取るのがいいかもしれませんね。

⇒『アディーレ法律事務所のHP』

(中田ボンベ@dcp)

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