ニュースの教室:10限目「足場の倒壊」 ―仕事の本質の境界が見える事故―

2012/03/28

新生活・準備

ニュースの教室:10限目「足場の倒壊」 ―仕事の本質の境界が見える事故―

東松山市のマンションで、外壁に組まれた鉄製の足場が倒れた。

その下敷きになった園児2人のうち、北村波琉人ちゃんが死亡した。

なぜこんなにわかりやすい原因で、こんな惨事が起きたのか。

行政の横着、仕事に対する誇りの欠如、これが2大原因だろう。







外壁補修の足場は、高さ約10メートル、縦横約1.8メートル。

東日本大震災の影響で、外壁タイルの張り替えが必要だった。

午前中に足場を組み終え、メッシュシートを張り、作業員は帰った。

午後になって強風が吹き、シートが煽られ、足場が倒れた。

足場はマンション前の道路を歩いていた園児2人を直撃した。



各紙の報道や続報によると事故の原因は2つだ。

1.壁にボルトを打って固定する「壁つなぎ」の義務を怠っていた。

2.強風予報があったが風をはらむメッシュシートを外さなかった。



ところで、足場設置の適否を管轄するのは、各県労働局である。

組立て・解体までに60日以上かかる高さ10メートル以上の足場は、

労基署に計画書を、作業開始の30日前までに届ける必要がある。

転落や倒壊の防止策に不備があれば、労基署は業者に改善を求める。

埼玉県内8ヶ所の労基署では、昨年986件を受け付け、

そのうちの8割程度に、口頭で改善を求めたという。(3月19日読売)



しかし今回倒れた足場は、設置期間が数日と短いため、

届け出義務はなく、不備は事前に指摘されていなかった。

大きい足場の届け出の中で8割が不備を指摘されているのなら、

届け出のない短期・小規模の足場ではそれ以上の不備がありそうだ。

厚労省、県労働局は、なぜこの状況に目を塞いでいたのだろう。







しかしもっと大きな問題は、この事故の法的な扱われ方だ。

足場の「壁つなぎ」は労働安全衛生法で義務づけられている。

何のための義務づけかと言えば、作業員の安全のためだ。



労働関係の法律は概して労働者の保護を基本にしている。

だから25日に新日鉄君津製鉄所の足場落下で死傷者を出した事故は、

労働安全衛生法に拠って検証することになるはずだ。



東松山市の足場は、作業員にとっても危険だっただろう。

しかし犠牲になったのは、足場作業とは関係ない園児だった。

つまりこれは、労働安全衛生の問題ではなかったのだ。



作業者を守るための規制で、住民を守るにはムリがある。

作業者の危険と住民の危険とは、必ずしも同じではない。

これを一つに括って済まそうというのは、行政の横着だろう。







もう一つの大きな問題は、仕事に対する誇りの欠如だ。

仕事は生活の糧を得るためだけにあるのではない。

仕事で稼ぐには社会という舞台が必要で、

相手に利益を与えることで自分も利益を得る互恵活動なのだ。

より稼ぐことは相手により与えることで、ここに仕事の誇りがある。



手を抜き、力を惜しみ、相手に不利益や害を与えれば、

その上っ面は仕事に見えても、内実は窃盗に成り下がりかねない。

仕事と窃盗の境界にあるのは、法や規則ではない。

その仕事でより稼ごうとする人の、仕事への誇りだ。



「足場の組立て等作業主任者」は国家資格である。

危険な高所作業に、安全で効果的な環境を提供するための資格だ。

そのための知識、技術、現場経験がある者に与えられる資格だ。

しかし安全も効果的環境も生み出さない作業をするだけなら、

その資格に、その仕事に、どんな価値があるのだろうか。







文●楢木望

ビジネスエッセイスト/ライフマネジメント研究所所長

『月刊就職ジャーナル』編集長、『月刊海外旅行情報』編集長を歴任。その後、ライフマネジメント研究所を設立、所長に就任。採用・教育コンサルタント、就職コンサルタント、経営コンサルタント。著書に『内定したら読む本』など。

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