「我田引水」は、日本にルーツを持つ和製漢語です。多くの四字熟語と同じように、中国伝来の漢語だと思っている人もいるかもしれませんが、そうではありません。
「我が田に水を引く」という和文を四字熟語にしたものだといわれています。意味のうえからも、古くより日本が育んできた稲作文化と深い関わりがある言葉です。
正しい意味と使い方、例文、類語・反対語なども含めて深掘りしながら解説します。
▼目次
1.我田引水とは?
2.我田引水のビジネスでの使い方・例文
3.我田引水の類語
4.我田引水の対義語
5.まとめ
「我田引水」という四字熟語には、どのような意味があるのでしょうか。語源や由来、何らかの出典があるかどうかも見ていきましょう。
「我田引水」の読み方は、音読みで「がでんいんすい」です。次のような意味があります。
「我田引水」は、他人の言動や周囲の状況を自分の都合に合わせて解釈し、周りに配慮しない態度を表す言葉です。
四字熟語には中国渡来の漢語が多くありますが、「我田引水」は中国の歴史や伝説、書物に由来するものではありません。和文「我が田に水を引く」を四字熟語にした和製漢語だと言われています。我が田に水を引く、言い換えれば「自分の田んぼにだけ水を引く」ということは、何を意味するのでしょうか。
日本人にとって、米は主食です。その米をつくる田んぼづくりの第一歩が、水の確保。通常は、用水路を作って川の水を田に引き入れ、どの田にも公平に水が行き渡るようになっています。
その流れをせき止めて、自分の田んぼにだけ水を引けば、他の田んぼが干上がってしまうでしょう。自分さえ良ければ、他の家が食糧難に陥っても構わないという、非常に利己的な行為です。
転じて、「他人を顧みずに自分の利益を最優先し、都合が良いように物事を進める」という意味を表すようになったものです。
「我田引水」と似たような意味を持つ四字熟語に「厚顔無恥」があります。読み方は「こうがんむち」です。
他人に迷惑をかけながらも自分勝手で不遜な振る舞いをして平然としている点は、「我田引水」と共通しています。しばしば「あの人は、厚顔無恥だね」「厚顔無恥な人だね」などと使われます。
一方で、2つの語には違いもあります。「我田引水」が「他人の行動や言動を自分に都合良く利用して利益を得る様子」を強調しているのに対し、「厚顔無恥」は「恥ずかしさや遠慮を全く感じることなく、他人に対して図々しい様子」を強調しています。両者のニュアンスの違いを理解して、適切な場面で使い分けましょう。
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「厚顔無恥(こうがんむち)」の正しい意味と使い方は? 「厚顔無知」等の誤用に注意
ここまでで分かるように、「我田引水」は、大変利己的な印象の言葉です。直接相手に対して使うと否定的な印象を与える可能性が高いでしょう。また、本人がいない場で使うと陰口になりかねません。
ネガティブな意味合いが強い表現であるため、もし使う場合には、適切な文脈で配慮をもって使いましょう。
「我田引水」という言葉は、ビジネスでもプライベートでも、一般的には批判的な意味合いが強い印象です。それだけに、適切な場面で文脈に配慮すれば効果的に活用できることもあります。
特に、ビジネスで使う場合のポイントは、人物や性格に対してではなく、論理や戦略に焦点を当てることです。例えば、「〇〇さんは我田引水だ」よりも、「〇〇さんのやり方は我田引水だ」の方が、人間関係をこじらせる可能性は低くなるでしょう。
また、調子が強すぎると感じたら、クッション言葉や、「少々」「いささか」「やや」「どちらかといえば」などと組み合わせて使うのも方法です。
相手の自己中心的な論理や態度に対して、再検討や猛省を強く促したい時に使います。特に、助言や諫言を行う立場で使うケースが多いでしょう。また、調子が強すぎると感じる場合には、「いささか」や「少々」を付けると、印象が和らぎます。
自分の意見が批判されることを見越して、それでも進めなければ後がないという時に、会話やスピーチで次のように使えます。強く推進したいことがある場合の例文です。
自社都合で進めていたプランを修正したい時に、次のように使えます。
ビジネスでは、ゼロから全く新しいものを作ることは稀です。そのため、何らかの前例やデータを使って自分なりの意見を調整したい時に、次のように使えます。
「我田引水」と似たような意味を持つ四字熟語を以下に挙げます。微妙なニュアンスを把握して使い分けてください。
読みは「えてかって」。他人のことを考えず、自分の都合ばかり考えてわがまま放題であること。「我田引水」と同じ意味です。
読みは「ぼうじゃくぶじん」。人前であることもかまわず、自分勝手に振る舞うこと。「旁若無人(ぼうじゃくぶじん)」は同語。自分勝手な点では「我田引水」と似ていますが、必ずしも利益を考慮しての態度とは限りません。
読みは「けんきょうふかい」。事実や道理に外れていることを、無理やり自分の都合に合わせてこじつけること。強引で自分都合の点が我田引水と似ています。
読みは「こうがんむち」。厚かましく恥知らずで、他人の迷惑を考えず自分勝手に行動すること。「我田引水」と似ていますが、利益を考慮しての態度ばかりとは限りません。
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次に、「我田引水」と反対の意味を持つ言葉を紹介します。
読みは「えんりょえしゃく」。遠慮する心遣いと軽い挨拶、つまりは相手を思いやる心のこと。「遠慮会釈もない」と使われることが多い。
読みは「じりりた」。自分一人だけの利益ではなく、他人の利益も考えること。
読みは「じたふに」。仏教の言葉で、自分と他人を区別せず、平等であること。
他人の都合に配慮することなく、自分の都合だけを優先する「我田引水」。コミュニケーションで、他人に対して使うと強い批判を感じさせる言葉です。ストレートに使えば、強い抑止力や制止力が働くわけですね。
また、やわらげたい場合には、クッション言葉や副詞(「いささか」「少々」「やや」など)を使うのがおすすめです。
自分自身に対して「我田引水になっていないか」と顧みれば、セルフチェックすることもできます。周囲に配慮しつつ、有効に活用しましょう。
(前田めぐる)
※画像はイメージです
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