「就職活動のときは、『これからは君たちの時代だ。君たち若者の意見こそが会社の将来を左右するのだ』と散々聞かされたのに、入社したとたんまったく若者の意見に耳を傾けてくれない」
「入社前は、働きがいのある仕事を与えてもらえるような感じだったのに、実際に配属された部署は、まったく希望しない部署で、やりがいのある仕事ではない」
こんな悩みに陥り、仕事に対するモチベーションが上がらない若者が多い。このように期待や夢を抱いて入社したものの、与えられた仕事や職場環境の実際とのギャップに遭遇することで生じるショックのことをリアリティショックという。
リアリティショックをバネに一層頑張る......というたくましい若者は、残念ながら少ない。多くは、会社や仕事に対する否定的態度(職務不満足や会社への疑惑や不信感)が形成されてしまう。その結果、最悪の場合、早過ぎる自発的離職を招き(この社会的問題は日本特有のものではなく、既に1973年に米国の産業心理学者ジョン・ワナウス教授によって論述されている)、そこまでいかない場合でも、会社(上司)や仕事に対するモチベーションが低下し続けたまま働くことにより、思うような成果を挙げることができず、低評価を得ることで、なお一層モチベーションが下がるという負のスパイラルに陥ってしまう。また、このように形成された負のスパイラル状態は、長い社会人生活において、異動や昇進という節目のたびに他のさまざまなショックを引き起こす導火線になってしまうので、本当に気を付けてほしい。企業側は、若者がリアリティショックに陥らないようにするためにRJP(Realistic Job Preview)に取り組むようになってきた。RJPとは、いいことも悪いことも現実的な職務情報を積極的に開示し、若者に誤解を与えないようにすることである。逆に言えば、RJPに積極的に取り組んでいる企業の門をたたく若者が増えてくればリアリティショックに陥る率が緩和されるとも言えるが、私はRJPの効果を認めつつもしょせん対症療法にすぎないと考える。
若者にとって大切なことは、リアリティショックを引き起こす原因と言われている「組織や職務のあり方に対する知識の未熟さ」に打ち克つための働く姿勢を身につけることである。それは、まさしく本シリーズで指摘している「社会人の4大タブー」の克服に他ならない。
【社会人の4大タブー】
・個性尊重
・自分なり
・自分で考える
・歯車にならない
【克服方法】
1. 会社や仕事に精通する(まさしく組織や職務のあり方に対する知識を積み上げる)ための"学び"に黙々と集中すべき入社初期段階から自分の「個性」を打ち出すことで存在感をアピールしたい衝動を抑えることができず、「基礎より個性あふれた応用」思考が基礎鍛錬を軽んじる結果を招き、最悪、組織内での"孤性"化に陥らないようにすること
2. 与えられた役割を全うできないとき、「自分なり」に頑張ったという自己満足感に向き合うような思考回路に陥ることなく、自分自身の能力不足に原因を求め、常に能力向上に精進する謙虚さに向き合うこと
3. 経験豊かな上司や会社の教えることや考え方よりも、知識も知恵も経験も未熟なスカスカ頭で「(自分で)考える」ことのほうを優先させることにより、結果的に学ぶ姿勢を自ら放棄することで成長速度が鈍化しないようにすること
4. 組織の円滑な推進は「歯車」として働く大半の社員の貢献によるところが大きいという事実に目を向けることなく、「歯車になる」ことから精神的に逃避することで、会社や仕事に対するモチベーションを下げてしまわないようにすること
以上の4大タブーのなかでも、組織における「歯車」経験の重要性から目を背ける代償は、取り返しのつかない成長鈍化を招きやすいので、特に注意を要する。
若者が入社1年以内に遭遇しやすいといわれているリアリティショックを回避するのは自分自身の働く姿勢だということを肝に銘じ、一層の就活や入社準備に励んでもらいたい。
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