岩手県陸前高田市は、東日本大震災の津波被害が最も大きかった地域の一つ。とりわけ、広田半島に位置する人口3700人の広田町は、津波で本土から分断されて一時的に孤立。支援物資や情報も滞り、陸前高田市の中でも支援の手が届きにくい地域となった。
東京の大学生6人で結成された「復興支援団体SET」が初めて広田町に入ったのは、震災の三週間後。被害地図の作成などに取り組んだが、当初は「部外者」と見られ、なかなか受け入れてもらえなかったという。しかしその後も現地入りを重ねるうちに熱意は受け入れられ、徐々に人々と信頼関係を築いた。今では広田町を訪ねると、「おかえり」と言って迎えられる。
「当時のメンバーは震災の爪痕の大きさに、学生が被災地を広く支援するのは無理だと痛感しました。ならばご縁があった一つの町にコミットし、サポートを続けるのが自分たちの役割だと考えたんです」。そう話してくれたのは、2011年冬から「SET」の一員として活動する獨協大学3年生の原沢悠さんだ。
活動の柱である月に一度の現地入りでは、地元の人と相談して、町のニーズに合わせてできることを柔軟に行う。復興記録の作成から、子どもたちの学習支援、農作業、漁具作り、お祭りの手伝いなど、バラエティ豊かだ。
2012年4月には、発起人のひとりである三井俊介さんが大学を卒業して広田町に移住。その後3人のメンバーが移住や長期滞在を実現し、「現地組」として一層地域に根付いた支援活動をスタートさせた。
まず町民のためのパソコン教室を開講。生徒の多くは初心者だが、SNSの活用法などを学べば、地域の情報を自ら発信する手段となる。もうひとつは「現地滞在型スタディプログラム」の企画。地域活性に興味のある参加者を募り、町の人々との交流や田舎暮らしを体験。さらに参加者のアイデアで、町が抱えているさまざまな問題の解決に取り組む。
「広田町は震災以前にも限界集落などの問題を抱えていました。そこで若者をどんどん送り込み、外部からの視点で関わることを町の活性化に繋げたい。地元の人も改めて町の魅力に気づくことができ、互いに刺激を与えあう中で、地域を元気にできればと考えています」(原沢さん)。
地域密着の活動を通じ、最近は一歩踏み込んだ提案もできるようになってきた。たとえば、地元で穫れた新鮮な野菜を都市に直販するプロジェクト。収益が上がり広田町のアピールにもなると、地元の農家と計画を進めている。
都会の若者が東北の漁村と家族のような関係を築き、復興を共に担う理由はひとえに、人々が優しく自然の美しい広田町が大好きになってしまったからだ。
「町のオリジナルTシャツを作ったとき、無形民俗文化財の『根岬梯子虎舞(ねさきはしごとらまい)』のデザインを採用しました。唐獅子姿の二人組の勇士が高い梯子で曲芸を披露する芸能ですが、地元の人はこの伝統を心から誇りにしている。独自の文化や価値観がしっかり根付いているのは素晴らしいと感じました」(原沢さん)。
震災の風化を防ぐため、メディアやイベントでの情報発信も続けている。去る3月23日には、東京都内で「Re:start vol.2〜自分たちにできること〜」と題したイベントを開催。約60人の若者が集まり、復興への思いを新たにした。
メンバーの多くが、卒業・就職後も仕事で得たスキルを生かして支援に関わりたいと考えている。「復興支援団体SET」と広田町の二人三脚はまだ始まったばかりだ。
文●鈴木恵美子
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