「伝える・つながる・思い続ける」をキャッチフレーズに、東日本大震災の被災地の今を京都から発信しているのが、京都大学、同志社大学、京都造形大学などの学生たちで組織された「東北Bridge」。発起人は、京都大学3年生(当時)の中島敬之さん。YMCA(キリスト教青年会)で活動していた2011年夏、人々の間で震災の記憶が早くも風化しつつあることに疑問を抱き、災害地支援に尽力していた日本ナザレン教団の牧師・篠澤俊一郎さんを顧問として立ち上げた。「被災地のために自分たちができることは何か」との試行錯誤から導きだされたのが、被災地の今を伝えるフリーペーパーの制作だ。
メンバーのうち何人かは東北でボランティア活動をし、被災者の現状を自分の目で見てきた。その体験を通じて、まだ支援が必要であることを広く知ってもらいたい。そして3・11を負の遺産として終わらせるのではなく、学び、未来に生かそう。そうした目標を掲げ、2011年秋に制作をスタート。月に1回ほど京都市内で会議を開きながら、取材や編集作業を手分けして進めた。
震災記事は、宮城県東松島市での被災者一言取材や、小学校長へのインタビュー、さらに京都大学原子炉実験所助教の小出裕章さんへの取材など充実した内容。一方で気軽に手に取ってもらうため、仙台ゆかりの傑作回文コーナーや、美味しそうな三陸海鮮ラーメンのコラム、ボランティアを題材にした短編小説も掲載。「学生ならではの面白み」を生かし、東北の魅力を伝える読み物的な要素も盛り込んだ。
最終的に30ページの大作となったフリーペーパー『東北Bridge』第1号は、2012年7月に4000部を発行。関西の大学やYMCA支部、教会、東北関連施設などで配布され、新聞やテレビ、ラジオでも取り上げられて好評を博した。
「私たちは今『東北Bridge』第2号を制作中。仮設住宅でのインタビューや回文などを盛り込み、この4月に発行予定です。今回はページ数を減らす代わりに、部数を8000部に増やしました」
そう話してくれたのは、昨年10月から代表を務める門間(かどま)ゆきのさん。現在は第2号の発行に向けて、配布に協力してくれる団体や企業、施設、さらに個人の読者も広く募集している。前回よりも積極的に配布を行い、より多くの人たちに読んでもらうのが目標だ。
震災復興の担い手が地元へと移り、現地ボランティアのニーズも少なくなってきた今。「東北Bridge」はフリーペーパー発行に加え、被災地の人たちが手作りしたマスコットなどの「復興商品」の販売に力を入れている。今までは学園祭や教会のイベント、地域のお祭りなどに出店してきたが、今後はこれらを常時販売してくれる店舗を見つけることが課題だ。加えて、震災の経験を未来に生かす活動を展開。たとえば、専門家をパネリストに立て、エネルギー問題や防災問題を考えるセミナーも企画してきた。
「実は震災の日、大学受験で仙台に滞在していたんです。一人で心細かった高校生の私を、ホテルの方や市民の方が助けてくれました」
と門間さん。自分が被災しているにも関わらず、親切に接してくれた人々が忘れられず、それが「東北Bridge」に参加する動機になった。
「これからも、読者のご意見やご感想を生かして、東北と関西を繋ぐ情報を発信していきたい。活動を通じて知り合った個人や団体の方々と連携しつつ、学生だからこそできる方法で、被災地を応援して行きたいと思います」(門間さん)。
(写真キャプション)
フリーペーパー「東北Bridge」第1号を配布するメンバー。主に大学キャンパスや学生食堂で配られた。
文●鈴木恵美子
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